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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード40

最後に気が進まないものの、冒険者ギルドに顔を出せと言われ続けて、理由を付けては先延ばしにしていたものの、そろそろ断る理由も使い果たしたなあと、あきらめてギルドに足を運ぶことにした。

間違いなくミノタウロスを根こそぎ食材に変えてしまったギンとムートのことを話題にしないといけないだろう。


おそるおそるギルドの扉を開けると、喧噪に満ちていたはずのロビーが突然静まり変える。

その場にいた冒険者全員が黙って、入り口の開いた扉から、顔だけ除かせて中を見ようとしていた黒髪黒目で晩夏に白のロングコートを着た見るからに暑苦しい男を見つめている。

あきらめて入り口から一歩中に足を踏み入れると、人混みが左右に割れて、カウンターまでの一筋の道が浮かび上がる。

(いや、なんでやねん)

大阪陣でもないのになぜか脳内で漫才師のような会話が繰り広げられてしまう。

プルンを頭に乗せ、ムートが肩に、タラちゃんは井田さんと一緒に大きめのリュックの中にいて、天蓋の隙間から外を覗いている。ギンと並んで歩くと、先が割れて、通り過ぎた後ろは元の人混みに戻るという、どんな野外ライブやねんという人の波が出来る。


ギルドのカウンターにたどり着くと受付のリーナさんがにこやかに迎えてくれる。いや、口角は確かに上がっていて、笑顔のはずなのに、なぜか目尻は下がっておらず、今にも台詞を棒読みしそうな顔で「ようこそ冒険者ギルドに。6級冒険者のケント様、ギルドマスターが首を長くしてお待ちです。」

「あ、あのー、今の「首を長くして」って部分必要でした?」自分でも顔の筋肉が引きつってるなというおが分かってしまうくらい動揺して言葉を返すが、別に悪いことをした訳じゃないのに、なぜこんな気持ちにならなきゃいけないんだろうとも思う。


そのまま応接室に通され、いつものソファに座る。


空気が思いなあ。


「ケント君、わざわざ来てもらって申し訳ない。ギルドとしては先日の出来事もあるので、早めに本部に知らせたかったんだが、なかなか君は多忙らしくて、お話を聞くのが今日になってしまったことについては、本部から矢のような催促が来てしまっていて困ってしまったよ。ハハハ。」

わー、すごい棒読み。


「こちらにもいろいろありまして。むしろ遠征への拘束は5日間だと聞いておりましたが、4日目に大けがした人たちに「5日になりましたので私はこれで」、なんてとても言えないですよね。しかもお伝えしていたと思いますが、直前に修道院で大きな事故があり、院長他の治療も平行してしていたんです。ギルドの都合は知りませんが、僕は今でも寝不足なんです。」

言外に非難されたことに少し腹が立ったので、当てこすってみたところ、ギルドマスターが慌てだした。

「あ、」いや、責めるつもりはなかったんだ。このたびは君のおかげで、冒険者が一人も命を落とさずに済んだ。置かれた状況を考えれば奇跡としか言いようがない。それだけに君があれだけ板ミノタウロスを全部倒したというのがギルド本部にも領主にさえも信じてもらえなくてね。スタンピード寸前だった街を救った君には特別報奨金が払われないと冒険者が二度とダンジョン遠征に参加しなくなってしまうんだが、どうしても信用してもらえないんだ。元1級冒険者のギルドマスターである私の言葉をもってしても、どの程度の脅威だったのかは、あの部屋にいたミノタウロスの数だけでは把握しようがない。

可能であれば、あの後、ダンジョン内に何頭のミノタウロスが居て、何頭倒して沈静化させたのか教えてもらえないかね。魔石などは全部相場で買い取ると保証しよう。」

「えと、ミノタウロスの魔石って買取でいくらくらいするんですか?」

正直お金には困ってないんだけど、領主が報奨金を出すなら、修道院の新築で、この街に還元するのもありかなと一瞬思った。

「ミノタウロスは脅威度4級の魔物だ、魔石は1個あたり金貨3枚だが、今回は相当数の個体が確認されている。20体で危険度は第3級に、100体で2級に跳ね上がる。」

「えーと」1138個ありますね。

「はぁ?・・・ワシも歳を取って難聴になったのか。おかしな数字が聞こえた気がしたが。」

「1138個と言いましたけど?」

「・・・・冗談ではなくてか?」

「そこまでヒマに見えるんですか?」

「いや、おまえさんがこの状況で冗談を言う人間には見えないが、その数字を信じろというほうがいろいろと無理があるんだ、たとえば・・」

僕はギルドマスターが言い終わる前に、収納からミノタウロスの魔石を取り出して、目の前のテーブルの上に無造作に積み上げていく。

ミノタウロスの魔石は1個がそれなりに大きく、当然だが、テーブルに全部載るはずもなく、山積みになった後、床に崩れ落ちる。

「うぐっ、なんだと。・・・いやたしかにこれはミノタウロスの魔石、こんなまがまがしい魔石も、しばらくギルドには納品されなかったが、しかし・・・」

「いや、出せと言われたので出しただけですし。嘘つきと思われるのは性に合わないので。納得してもらったのであれば、じゃあ僕はこれで。」と立ち上がって出て行こうとすると「ま、まて。気を悪くしたのであれば謝る。まさかあの時間だけでそんなにミノタウロスが倒せるとはとても思えないじゃないか。疑ったのもやむを得ないと理解してもらえないか。それで、ギルドにその魔石を買い取らせてもらえないか。従前のクエストである遠征の報酬だけでなく、スタンピードの特別報奨金も領主に掛け合って払わせる。さきほど説明したとおり。100体以上のミノタウロスは第2級扱いだ。まさか1000体以上などと、虚位度では間違いなく1級すら凌駕しているが、上限が2級までしか決めてないんだ。もちろんそんな数のミノタウロスが街に向かっていたら、今頃この街は跡形もなく消えていたはずだ。ワシだって1000体などとても相手にできん。全盛期でもソロでは20前後が限界だろう。預かり証は発行する。前金で金貨500枚は渡しておくが、もちろんそんなもの手付け金にもならん。だが、ギルドの手持ちは今その程度なのだ。それだけの数の魔石があれば、魔石の買取額に加えて、街を救った功労者としての特別報奨金が街の領主と国からも払われる。もはや一生遊んで暮らせる金額になるぞ。」

「その話だと、僕のことをこの国の王にまで話すといっているのと同じですよね。面倒ごとに巻き込まれたくないんです。内緒にしてもらえないなら、別にダンジョンのことは忘れてもらっていいです。魔石も別に売らなくてもいいですし。」僕はそういってあふれかえった魔石を全部収納に戻し、立ち上がって部屋を出て行こうとした。

「へっ?、待て、い、いや待って下さい。さすがにもう先日のことは実際に死にかけた冒険者も、目撃した冒険者もいるのだから、内緒ではなく、おまえさんのことも含めて話自体は領主に、したがって領主から国王にも話が伝わっている。だから報償金と魔石の買取だけはお願いしたい。要らぬ干渉はワシが責任をもって止める。つまらない欲でお主を抱え込もうとすれば、お主は国を出ることも辞さないと言っていると伝える。冒険者は一つの国に縛られることなく移動出来る権利と引き替えに、どの国においても、国民に与える保障も庇護も受けられないのに、税金はギルドでクエストを受けて報酬を受け取るときに決して少なくない金額を負担させられているしな。」ギルドマスターはそう言って、もう一度魔石の買取を求めた。

「僕もこの魔石を使って修道院の自立のための事業を興したいと思ってますので、端数の138枚は手元に置きます。1000個だけギルドに売りましょう。但し、「お金以前に僕は貴族に良い感情を持っていません。面会を求めたり、厄介な話を持ち込まれるのであれば、先ほどあなたがおっしゃったように、この国を出て行くつもりですので、間違いなく領主にもその先にも伝えて下さい。」

僕は目の前で魔石1000個を職員総出で数えて確認してもらい、預かり証の交付を受け、ギルドを後にする。

「金貨3000枚とか、面倒な話に巻き込まれる未来しか想像できないよ。せっかくだけど、他の国に行くことも考えないといけないかもしれないね。」半ば独り言のように、従魔達に話しかける。

「我は主殿のいく場所であればどこでも構わぬぞ。」「うん、僕もあるじと一緒ならどこでもいいかな。まあこの国の王侯貴族が何を言ったところで、僕一人でも跳ね返せるけどね。」「ぬ、ムート一人で良いところを持っていこうとするな。我一人でもおつりがくるぞ」「君ら人じゃないから一人っていうの変だからね。後ギン、おつりがくるとかいう言い回し、この世界にもあるの?」「いや、アルテミアス様が一時期ハマって口癖のように使っておったのだ。」「ご主人ー僕もご主人と一緒ならどこでもいいよー」「「キュシ、シューイ、シュ」」

うん、最後のはよく分からないけど、きっと賛同してくれたんだろう。みんなありがとう。

一応、旅立ちも視野に入れながら、院長先生たちのためには出来るだけのことをしたいね。

(それにしても、嫌な予感しかしないな)

僕はギルドを出た後、職人街に戻り、鍛冶師のオロコフと業務用サイズのスティルレリーについて前回の実験器具サイズのスティルレリーの形状を維持したまま、大きさを10倍にしたものが製作可能か、費用がどれくらいかかるか尋ねた。

オロコフからは、パイプのような筒を分割して作った上で組み合わせることが出来るのかどうかを逆に尋ねられたが、元々気体化したアルコールが狭くなっていく管を通りかつ冷やされて再び液体化する気化と昇華が可能であれば、全く問題ないし、また前世のような完全無欠なものを作らなくても、類似商品のない市場で初めて展開する商品であれば、品質は出来る限りで、まあ納得してもらえるだろうと考えている。

もちろん、修道院で製造するのは医療用アルコールであって、その派生品として蒸留酒があるに過ぎない。オロコフのモチベーションはなんちゃってブランデー一択だろうけど、あくまで「ついで」でしかない。

オロコフのことだから、新しい酒のためなら採算度外視みたいなことを言い出しかねないので、目的はあくまで治療用の薬を製造するためで、ヒマがあったら先日のような強めの酒を造って販売するかもしれないと説明しておく。まあ僕の希望は酒じゃなくてエタノールだけど、修道院の自立のためにはおそらく蒸留酒がメインになるだろう。

スティルレリーは部品ごとに作って現地で組み立てて良いのであれば可能、工賃込みで金貨30枚だと言われた。まあ精度のことも考えればそんなもんか。前世のものは1000万円(この世界の通貨だと金貨100枚くらいか)くらいはしそうだが。


一通りの予定を済ませた僕は、修道院に戻り、抗生物質を注射で投与する。

食事を自発的にとれるようになったので、点滴を終了することが出来るようになり、修道院に居なければならない時間が飛躍的に減った。

食事はまだまだ流動食だが、寝たきりの時間も長かったので、筋肉が衰えてしまっているので、少しずつリハビリもしてもらう。

ついでに修道院の居住区域と孤児院を一つの建物にして、新築することを提案する。アルテミアス様への感謝の気持ちなので、寄付として受け取って欲しいと伝えると、案の定、固辞された。

では、修道院の土地の一部を自分の事業のために貸して欲しい。また、自分は冒険者の仕事もあるので、手の空いた子供達に作業をしてもらい、賃金も払うし、地代も支払うので、そこから建物の代金を少しずつ返してもらうのはどうかと尋ねた。

これも、自分たちのために僕が無理をしようとしていると、断ろうとしたので、どうせ、どこかでやろうと思ってた事業で、土地も借りるし、建物も必要だし、人だって雇わなければならない。もし、子供達に作業が無理なら、場所だけ借りて従業員はよそから見つけてくると説明し、ようやく了承がもらえた。

そこで、早速次の日に建築ギルドにいって、昨日の見積でと修道院兼孤児院の建て替えと作業小屋の新築を依頼した。最初に作業小屋を造り、修道院事務棟兼孤児院を建て替えのために解体する際の仮住まいにすれば、問題がまとめて解決する。

代金は前金で半分、歓声引き渡しに残金の慣習なので、前金を一括でその場で支払い、思い切り驚かれた。

普通は商業ギルドが間に入り、分割での返済契約をするものらしい。

どれだけ金持ちなのかと言われても、正直、ミノタウロスの魔石買取の話に出た金額の1%にもならないのだ。


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