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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード4

見知らぬ世界に生まれ変わり、初めて人間に遭遇したあわただしい一日が過ぎた後は特に何事もなく過ぎていった。

翌日から宿に移る予定だったのだが、マリーおばさんに、水くさいこと言わないでおくれよ、村を救ってくれたばかりか、トニーの命まで助けてもらった救世主を追い出したりなんかしたらあ、あたしゃこの村にいられなくなるよ。

大きな声で笑いながら背中を叩いてそう話すマリーさんだったがどことなくうれし涙をこらえているようだった。

トニーさんの容態が安定するまで、経過を観察する必要があるので、すぐにこの村を離れることはできなかったけど、僕にはこの世界に生まれ変わらせてもらう時の約束として、医術の全くない、この世界では、どうしても怪我や病気で命を落とす人の数が多いことを変えていかなければならないというものがある。

治癒魔法?というのが何なのかはよく分からないけど、余の人々は怪我をしても病気をしても水薬であるポーションに頼るのだという。それすら外傷やあまり強くない解毒に限られており、ちょっと体調に出血すればすぐに予後不良で亡くなるし、破傷風も狂犬病も不治の病になってしまっている。

病気に至っては全部呪いだという扱いで、神官が神に祈りを捧げて治すのだとか。

剣と魔法のファンタジー?が何なのかはよく分からないけど、現実に科学で説明出来ない存在とか魔法とかを目の当たりにして、全部が全部科学で説明できないからと見なかったことにするつもりはないけど、それでも自分に出来ることは相当たくさんあるはずだった。

この村も、主な産業はたまに草原の先にある森や、その奥にあるあのドラゴンが住んでいた山で狩りを行う冒険者と呼ばれる人たちを相手にした宿や食堂、ポーションなどの消耗品を販売する雑貨屋などの一部の客商売を除けば、多くの人たちは野菜や小麦を育て、ウサギや猪を狩ることでほぼ自給自足の生活をしていた。

さほど効き目のない水薬でも、背に腹は代えられないということで、1回分の一瓶が銀貨1枚すること、解毒ポーションにいたっては銀貨5枚することから、早々村人に手が出されるものではなかった。トニーのように体内で多量の出血などすれば、手の施しようが亡くあとは家族に看取られて臨終を待つだけということになってしまう。何か間違っていると思わずにはいられないが、この世界の医学は絶望的に遅れていた。

もっとも、そういう僕だって、知識こそ大学の医学部で6年間掛けて基礎を習得しているものの、MRIもCTもエコーもないこの世界で触診と聴診器だけで診断を行うなんて前近代的な医療でどれだけのことが出来るのかは全く疑問無しとは言えない。圧倒的に経験が不足しているのだ。

この村を後にするに際し、お世話になった人たちに、せめてなにがしかの応急処置の方法くらい残してあげたかったが、そもそもポーションがどんなメカニズムで怪我や病気に効くのかも全く理解出来ないので、何が治療手段として不足しているのかも今は分からない。僕はその辺りの知識の不備を埋めることや、身分証明書を得るために、冒険者というものの資格を得るため、村から歩いて3日くらい掛かるらしい辺境領の領都だというシリウスの町を目指すことになった。

案内を兼ねてマリーさんとその息子さんのハンスさんがシリウスに食料品を買いに行くとのことだったのでお言葉に甘えることにした。

村を出る日、広場には村中の人が集まって見送ってくれた。トニーさんはまだ安静にしている必要があったので、奥さんのアンナさんと娘のセシルちゃんが見送りに来た。

セシルちゃんは僕を見つけるとタタタと走ってきて、ポクっと抱きつくと、きらきらした目で見上げて「おにーちゃん、おとーさんをたすけてくれてありあとごじゃいました。」と拙い言葉でお礼を伝えてきた。

いつも思うけど、こういう瞬間って医者やっててよかったと思うよね。

アンナさんには、あの日以来、治療代のことを尋ねられるけど、消耗品は縫合に遣った糸だけだし、ガーゼ代わりの網脂も固定幼の紐にした腱も現地調達だし、自分だって助けられたしね。いずれこの世界でも生業として医者をするなら価格も考えるだろうけど、今はまだその段階じゃないので、まずはお試しということで。

そんなことを伝えたら、鳴きながら感謝された。まあ対して効果もないポーションや神官の治癒魔法へのお布施と比較したら、到底払えないほどの恩義になるのだとか。そんなことで心労を重ねて治る怪我も治らないなんてことになったら何やっているのか分からないので。

僕たちは村人に見送られながら村を後にした。


道中は村の雑貨屋が仕入れのために遣っている村で唯一の荷馬車を借りて、ハンスがその護衛ということでシリウスの町を目指した。

僕はギンの背中に乗せてもらい、ムートは驚いたことに体を小さくすることが出来るらしく、鷹ぐらいのサイズになって僕の肩に乗っていた。ぷるんは僕の頭の上がお子に入りの場所らしく、ずり落ちることもなく器用に載っている。

ハンスさんは夜中に見張り番を務めるということで、御者をしているのはマリーおばさんだ。女性だって馬くらい操ることができないとね、とはマリーさんの弁

道中僕は出来るだけこの世界のことを教えてもらっていた。とてつもない否か者だと思われたが、まさか異世界から転生した人間だとは思いもしなかったようだ。


村を出てから3日目、何事もなく予定通りにシリウスの町に到着した。夜は荷台に毛布にくるまって寝る野営で、雨が降っても幌があるので、冒険者などの野営よりはマシだとのことだった。ハンスさんだけでは申し訳ないので、何かあったら起こすという条件で、僕も見張りを引き受けることにした。

まあ、ギンとムートが「そんなことしなくても、我らがいるのだから、安心して寝ていて下さい」「全部ムートがやっつけるー」と自信満々に口にしたのだったが、結局何も怒らなかった。ハンスの話では、街道には盗賊が出てくることもあるのだとか。もっとも普段なら村の作物を積んで町に向かい、村に帰るときには町で買った物を積んで帰るのだが、村があの化け物におそわれて、町に持って行って売るものがないので、行きの荷馬車は空の状態だったため、盗賊に襲われる理由がないのだろうということだった。

そのほか、魔物に襲われることも普通にあるので、そのための護衛のハンスだったあ、なぜか魔物にも襲われなくて、3日間そんなのは滅多にないということだった。

後で聞いた話だが、ギンとムートの気配をおそれて近寄ることもでになかったらしい。

まあ、何もないのはいいことだ。

シリウスの町につくと、町の入り口には兵士が二人立っていて、町の中に入ろうとする者の検査をしていた。

マリーさんとハンスさんはそれぞrふぇ身分証を取り出して何の問題もなく検査をパスしていたが、身分証を持たず、かつ魔物に囲まれた状態の僕は問題にしかならなかった。

瞬間にして緊張が高まると、兵士はそれぞれ槍と剣を向けてきた。

僕は予めマリーさんに言われたとおり、「辺境の村のさらに奥の森で気を失って倒れてようやくたどり着いた村で保護されたので身分証は持ってない。一緒にいる幼竜と狼はその森で怪我をしているところを見つけて治療したら、そのまま僕の従魔になった。

こっちのスライムは目覚めた時最初に近くにいて、そのまま食べ物を上げたらそのまま従魔になった。」と門番の兵士に説明した。

うん 微妙に本当のことも混ざっているけど、大部分が嘘だな。

兵士たちは警戒を解くこともなく、二人で相談したが、この世界にはテイマーという職業があって、その従魔が主人であるテイマーと一緒に町に出入りするのは普通にあることなので、従魔の脅威度だけでは、町への出入りを禁ずる理由にはならなかった。

もっとも、町に出入りする従魔は野良の魔獣との区別のために従魔の印をどこか見えるところにする必要があったが、その印を持たない魔獣であることから、町への入場を禁止することが出来ない訳ではない。

そんな葛藤を繰り返していたが、どう見ても目の前の狼はおとなしく、主であるとされている男にすり寄って尻尾を振っている。体格さえ無視すればむしろほほえましい光景ですらある。

兵士は自分の警戒はおそらく杞憂なのだろうとため息混じりに笑みを浮かべ、男に入場検査である犯罪歴を調べる水晶へ手を置くことを告げ、犯罪歴がないことを確認した後、身分証のない者の保証金として課される銀貨5枚を申し受ける。

「この銀貨5枚は、身分証を作成した後、その確認が出来たら返却される。」兵士は僕に創設名してきた。

僕はポケットから取り出すふりをして、異次元ポケットに入れてある大量のお金から、銀貨5枚を取り出す。

「入って良いぞ。」

兵士の言葉を確認して先に町の中入ったものの、僕と兵士とのやりとりを心配そうに見守っていたマリーさんとハンスさんに追いつく。

町の中に入ったところで、マリーおばさんは市場に向かい、ハンスさんが冒険者ギルドに案内してくれることになった。

ハンスさんは村の自警団に加入しながら普段は狩りの仕事をしているが、便宜上冒険者登録もしていて、そのランクは第7級とのことなので、ギンとムートが倒した猪の皮や牙を買取してもらい、買い出しの資金にするらしい。本当なら肉をもらえただけでもありがたいので、僕が換金してこの先のために持っているべきだとマリーさんは強く反対したのだが、魔物に作物を荒らされて村が困窮しているのは間違いないし、僕はアストレアスさんが、慰謝料と残業代だと言って前世の職場から奪い取ったらしいお金だけでも金貨850枚分あり、ヴィルさんにもらったドラゴンの財宝なんて下手に出したら大騒ぎになりかねないものもある。財宝のうち金貨や銀貨のままあったものだけありがたく使わせてもらうけど、宝石とか宝剣とかはどう考えても死蔵するしかなさそうだった。

しばらく町中を歩いていくと、一つの大きな建物の前でハンスさんが立ち止まる。

「ここが、シリウスの町の冒険者ギルドだ。」

ハンスさんがそういって建物の中に入っていく。

僕はギンたちをつれて後に続いた。


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