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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード38

本当なら、引き続き血管縫合の手術に移るところなのだろうが、外が暗くなりつつあるのと、ギンとムートがずっとダンジョンの中なのも落ち着かなかった。

プルンのおかげで、さしあたって現状からの悪化が防げるなら、ここで一旦情報を共有しておく必要があると判断し、診療所室内から、患者の開口部を経由して細菌感染を起こさないように、室内全部を「浄化」する。

ヘラキューズビートルの幼虫に「もらった抗生物質もあるが、経口の抗生物質と、外部に露出した術野では、循環の系統が異なるため、野外用オペルームが望ましかったが、この場には持ってきておらず、診療所とはいえ、抗菌にはあまり注意が向けられてない部屋では、細菌感染も十分リスクとして懸念の対象にはなってしまう。


僕は一息つくために外に出てギルドマスターに怪我をした冒険者の状態について説明する。

まだ治療が終わっていないが、従魔がダンジョン内に居るままで、けが人は怪我した部分が向きだしになったままだけど、僕のスライムが現状を悪化させないようにしているから、誰も部屋に立ち入らせないよう、頼んでおく。


ギルドマスターは僕の説明の半分も理解出来ていないが、けが人がこれだけ時間が経過しても、まだ誰一人死んでいないことに驚き、そして僕にお礼を言ってきた。

死んだ冒険者が居ないという事実だけで、僕が一生懸命治療をしていることが分かるのだろう。

それだけに、僕が途中で手を止めてダンジョンにギンとムートを迎えに行くことに、躊躇を示したが、患者が今以上には悪化しないという僕の説明を信じて、ギルドマスター自らが、ギンとムートの居るフロアまでの先導を買って出てくれた。


僕はあの広い部屋でギンとムートに合流した。

相変わらず、ギンもムートも普段と変わらないテンションで「あ、あるじ「殿」と駆け寄ってきた。」部屋の反対側の奥の入り口はムートが火の魔法で一時的に封鎖している。

「じゃあ、この時間を利用してご飯にしようか。」

ことの重大さが全く分かっていない僕と、強すぎて、スタンピードもそよ風ぐらいにしか思っていないギンとムートが「おー、あるじ「殿」の料理は嬉しい「のう」と部屋の真ん中でくつろぎ始めた。」

ギルドマスターだけは、半日経過して、更に数が増えた二足歩行の牛の化け物に脅威を覚え、「何をやってるんだ。そんな隙があるならダンジョンを脱出するぞ」と僕らを連れてダンジョンから逃げようと提案する。

ギンが「ところでそこの人間よ。これはおそらくスタンピードになるが、お主らの街は大丈夫なのか?」とゆっくり話しかける。

「主殿は我らの命に代えても守るが、お主はその対象にはならぬ。できれば街に戻って、スタンピードの備えたほうが良いのではないか?」とのんびりした口調で続けるものだから、ギルドマスターは動揺しながらも、「フェンリル様、口調と言葉の内容が全く一致していないように思われますが、フェンリル様たちの伝説的な力はさておき、こちらのケント殿は生身の人間ですぞ、この場にいて危険なのは、冒険者としての戦闘力にも経験にも勝る私よりも、こちらのケント殿ではないか。」と反論した。

「我が本気であれば、ここからダンジョンの出口までは1分もかからぬ。街までも30分程度でたどり着く。しかしお主がいると、主殿はおぬしを見捨てられぬと言われよう。お主が枷になるのだ。分かるか、我にとってお主がいないほうが主を守りやすいのだ。」

元1級の冒険者に面と向かって足手まといと切り捨てられ、ギルドマスターはさすがにショックを受けたが、話の内容はもっともなので、ギルドマスターは僕らが食事をしている間にダンジョンの出口へと向かうことになった。「すぐに追いつくでのう。」とギンはその背中に言葉を掛ける。

そしてギルドマスターが会談の向こうに消えたところで、ギンはおもむろに口を開く。

けが人もいれば、街の病人も気になるだろうが、主殿、まずはこの状態を止めてからにせぬか?我とムートがいれば、それほど時間も掛からぬぞ?」

僕は意味が分からずに、きょとんとした顔でギンの顔を見る。

「ふむ、やはり理解できないか。まあそのサンドイッチなるものを食べながらゆっくり話を聞いて欲しい。」

ギンはそういって、この世界におけるダンジョンというものの仕組みとなぜスタンピードと呼ばれる、魔物がダンジョンからあふれ出す出来事が起こるのか、それが近隣の街の人間にとってどういう理由で脅威なのか、ダンジョンの中と外とで同じ魔物でも構造が全く変わってしまうなど、僕の前世の知識と常識では説明の付かない話を淡々と続けた。

「まあ、我とムートで、ずっとここにいたのだが、正直倒してしまった方が早いのだ。ただ、ダンジョン内で魔物を倒しても、魔石がそのまま残ってしまうので、すぐに元通りになってしまうのだ。人間が倒した魔物の魔石を持ち帰ることで、ダンジョン内に溜まった魔素が薄まり、ダンジョンが平常を取り戻すようにできているので、我とムートだけだと倒すだけ無駄になるのだ。主殿は殺生を好まぬ。それは承知しておる。だが、このままではダンジョン内にあふれかえった魔物がダンジョンの外にあふれ出し、あふれ出した魔物はダンジョンの外に出ると実体を持つようになり、そこで討伐すると死体が残るし、まして街の人が襲われるのは、主殿としては一番避けたいことであろう?まあ、この先は言葉で説明するより、見てもらった方が早いのだが。」ギンはそこまで話すと、みんなでサンドイッチを食べ終わるのを見計らって、ムートに「入り口の火を消してもらえるか。」と伝える。

ちっちゃいままのムートが翼をはためかせると奥の出入り口をふさいでいた火の壁が消える。

それを合図に、部屋の中に二足歩行の牛のお化けがなだれ込んで来るが、ギンの体が揺れたと思った瞬間、隣にいたギンの姿が消えて、どこに行ったときょろきょろと首を振って探していたら、部屋の奥から「主殿、割れはここだぞ。」という声が聞こえた。

そして、声のする方を向いた途端、部屋になだれ込んできた牛の化け物が時間がとまったかのようにその場にとどまり、そして地面に崩れ落ち、その直後に吸い込まれるように姿が消えていったのである。

「へ?何今の?」と僕は幽霊を見たかのように驚きで思考停止してその場に固まってしまった。

「主殿、これがダンジョンで魔物を倒した場合に起きる出来事じゃ。で、魔物が消えると同じ場所に、その魔物の一部が人間にとって使い道のあるものとして残されるのじゃ、たとえば・・・おや?」ギンは床を前足で指しながら首を傾げた。「おかしいのう。普段なら魔石とアイテム一つが落ちるだけのはずなんじゃがのう。」と不思議そうに口にする目の前には、部屋半分にあふれかえった魔物以上の数の何かが床の上に積み上がっていた。

「まあよい。主殿、全部収納してもらえぬか。」

ぼくは言われるままに異次元ポケットに床に落ちていたものを入れていく。

収納したことによって、それが何かが分かるようになり、たくさんの数の魔石に「ミノタウロスのバラ、ロース、タン、ミノ、ハチノス、シマ腸、ハラミ、サーロインとシャトーブリアンがそれぞれ魔石と同じ数だけ収納されていたのである。

「普通は魔石どれか一つだけで、名前は知らぬが、特上の部位は100頭に一つもあればマシな方なのだが、やはり主殿は別格じゃの。」

いや、僕何もしてないから、ていうか、どこの焼き肉屋だ、これ。

倒すと消えてなくなるというのもよく分からないが、これだと命を奪っているという罪悪感がないし、牛の解体なんてできるはずもないのに、なぜか部位ごとに調理された状態で食材が手に入るのも意味がさっぱり分からない。地面に落ちているのに、汚れてないし。

「よし、考えるのを辞めよう。」

ギンに言わせると、ダンジョンとはそういうものだから、なんだそうだ。

そういうものだから、もはや無敵の説明だな。

そこから後は、何十階繰り返したのか数えていないけど、同じことの繰り返しだった。

本来なら、このダンジョンには浅い階層から、ゴブリン(以前森の入り口で襲ってきたので逃げた時の魔物)に始まり、ミノタウロスは牛の魔物だが、二足歩行するブタの魔物であるオーク、そして、ゴブリンが小鬼という種族であるのに対し、鬼という種族とされるオーガが順に階層が進むにつれて棲み分けているらしい。ミノタウロスは最下層に居るだけのはずなのだが、長い間、ダンジョンでの討伐による魔素の間引きが増える間隔よりも

遅いために魔素が増えすぎて、最下層のミノタウロスが溢れていったために、各階も全部より力の強いミノタウロスに浸食されて、ダンジョンの全フロアがミノタウロスに置き換わってしまったらしい。

倒してもその魔石をダンジョンの外に持ち出さなければ、そのままダンジョンに吸収されて次の魔物を生み出すのにその魔力がそのまま使われてしまうため、魔素が減らない状態を繰り返してしまうのだと。

だから僕が居て、魔石を持ち帰るようにならないと倒しても無駄になってしまうのだと。

食材の方はあくまでついでだと強調していたけど、最初にミノタウロスを見て、あれは何?って聞いたとき、「うまい肉だ」って言わなかったっけ?僕が疑わしいと、ギンの顔を除き込もうとしたら、なぜかギンが顔をそらした。

ギンとムートは圧巻だった、ギンはともかく、ムートは僕の肩に乗るほど小さいのに、翼の一振りで、ひしめき合う魔物が、いきなり上下で二つに分かれてそのまま吸い込まれるように消えるのだ。罪悪感のまるで生じないもはや作業となってしまった二匹の行動を後ろで見守るだけの簡単なお仕事です。

魔石も1000を超えたところで数を気にするのを辞めてみた。まあ臭のされている状態なら、すぐに数も分かるようになっているけど。

そして外が真っ暗になった頃にダンジョンの外に出ると、そこには心配と怒りの混じった複雑な顔をしたギルドマスターが立ちはだかっていた。

僕の顔を見て、口を開き掛けたギルドマスターに、けが人の容態を確認して、プルンのご飯がまだなので、話は後にして下さいと、その横を通り抜ける。

「お、おう」ギルドマスターは唖然としてその場で固まってしまった。

後ろから「ワ、ワシ、ギルドマスターなんだけどな・・・」と悲しそうな声が聞こえてきたような気がするが、それどころではない。

僕は、診療所に入り、プルンに「遅くなってごめんねー。」と患者の容態を一生懸命維持し続けてくれているそれぞれのプルンの分体を撫でる。

収納からサンドイッチを取り出すと「そのままの状態を維持しながら食べられる?」と聞いてみる。

「ちょっと自信ないから、ご主人の魔力を頂戴ー」とプルンの声が返ってくるので、もう一度、医療魔法発動を意識して、手のひらに魔力を集めた状態で、魔法を発動させずに、プルンを撫でると、嬉しそうに震える。

分裂しているプルンを全部撫でると、「ちょっと街の修道院に戻るからもう少しその状態で待っててね」とプルンにお願いする。

「ご主人、わかったー」とプルンの癒されるのんびりとした声が返ってくる。

僕はギンに診療所の警護をお願いして、ムートにのって街に戻った。

普段よりちょっと遅くなったことで街の門は閉まっており、その擁壁を空から越えて敷地に直接降りることになる。僕を乗せた状態のムートは当然元のサイズのため、街の人に見つからない高さから、一気に急降下して、修道院の敷地に降りると同時にムートには小さくなってもらうが、それでも誰にも見つからないというのは難しいのかもしれない。

まあ非常事態だから仕方がない。

修道院の院長先生以下子供達は点滴の間隔が空いたことで、少し弱っていた。申し訳ないと思いながらも、体力ポーションの点滴に、抗生物質を混ぜて投与する。

抗生物質の効き目は実感できるくらいに、みんなの体調は改善していたのが救いだった。

全員の中で意識が一番しっかりしている助手の若い女性に、遅れた理由も含めてダンジョンで起こった出来事や、治療のためにギルドの依頼を受けて働いていることを説明した。

点滴が終わるまで、時間が空いてしまったことによる容態の変化を慎重に見極めるため、回診し、脈拍などを計る。

また、点滴パック1セットをダンジョン前診療所に持ち運ぶために、4人頭痛のシフトに変更した。内臓損傷の患者は、意識がないので、経口での榮王補給ができないのだ。

第2陣の点滴をセットしたところで、診療所に戻る。



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