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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード37


時間は少しさかのぼる。

僕が救急セットを持ってダンジョンの中に駆け込んでいったのと同じ頃、血痕を控えた冒険者にダンジョン内の異変を聞いたダンジョンマスターは、治療担当の神官にけが人が多数出たことを伝え、冒険者が運び込まれたら治せるけが人はなおした上で、治しきれないけが人は馬車で街に送るように手配を依頼しようとして、神官と口論していた。

「枢機卿のワシを誰だと思っているんだ。ダンジョンに異変だと。安全が保障されないのであれば、ワシは街に戻る。それとも何か。ワシに何かあった場合、冒険者ギルドに責任がとれるのか。教会を敵に回すことになるぞ。」

「あんた、それでも神の使いか、治癒師か。危なくなったら真っ先に自分にヒールを掛ければいいだろうに。もし、ダンジョンの異変はスタンピードだったら、街ごと壊滅するかもしれないんだぞ。今ここで食い止めるしかないだろう。ギルドの職員は念のため街に向かわせて領主に連絡し、兵を向かわせるよう伝えている。領兵が到着するまで、冒険者は一人でも多く戦力として確保しなければならないんだ。治療費はギルドが全額負担するから、冒険者のランクにかかわらず治療してくれ。本当に危険なら、そのときは最優先で街まで護衛付けて送り届けるから、持ち場は離れないでくれ。」

「ふざけるな、何かあってからでは遅いのだぞ。稀少な治癒魔法の中でもさらに稀少なミドルヒールの使い手であるこのワシに何かあったら、冒険者などでは替えがきかんのだ。」

「ギルドマスターであり、元1級冒険者であるアルフレッドが命じる。神官デプリ、神官の治癒師として神の名の下に派遣された教会の義務に従い、治療を拒否する正当な理由がないにもかかわらず治療をせず、持ち場を離れた場合、冒険者ギルドは本部を通じて、教会を訴えることになるぞ。」

ギルドマスターは最後に吐き捨ててから、その場にまだ残っていた冒険者を引き連れてダンジョンの中に飛び込んでいく。

そして、再びけが人を担架に乗せて地上に戻ってきたのだが、そこに神官デプリの姿はなかった。

神官だけでなく、診療所にまで連れてきた愛人や専属の料理人、従者に至るまで居なくなっており、教会の紋章の入ったキャリッジと呼ばれるタイプの乗客専用の屋根付き馬車も見あたらなくなっていた。

出入り口警護の兵士によれば、慌てた様子で街の方角に向かって走っていったとのことであある。

「あの、くされ外道め。何が神の使徒だ。」

ギルドマスターははらわたが煮えたぎる思いで、意識不明の冒険者を見つめる。

ちっちゃなスライムがちょこんと乗った状態で、木の棒の間に布を張り巡らせた担架という名前の容器に力なく横たわり、素人目には生きているのか死んでいるのかお分からない。

忸怩たる思いで診療所に運び、自分を「医者」と呼んでいた治癒師のレクチャー通りに、両手両足をもって体を水平にしたまま、静かにベッドに寝かせる。

(若いこいつらの未来を奪わないでくれ)

幾千の修羅場をくぐり抜けた歴戦の猛者であるギルドマスターをしても、目の前の危難に対しては、無力すぎた。

それならと、あの治癒師が一刻も早く戻ってこれるよう、俺には俺にできることをしなければ、ギルドマスターは確実な死を約束された、数十を超えるミノタウロスが押し寄せるダンジョンの中に愛用の剣を抜いて、戻っていくのだった。


けが人を全部運び出し終わり、僕も診療所での治療に加勢しようと地上に戻ってきた僕は、あのどう見ても節制とは無縁の体型で汗を拭きだしていた教会の人が逃げたことを気化された。

「えっ?最初に送り込んだ人は腕が切り落とされていて一刻の猶予もない人と、肝臓が半分近くつぶれちゃった人ですよ?あれからどれだけ時間が経ったと思ってるんです?死んでるんじゃ?」

僕はあわてて、診療所に駆け込む。ギルドマスターは唇をかみしめ、俯いた状態で一言も発しない。

ギルドマスターを責めている訳ではないけど、どうしてあんないい加減な人間が医者を名乗れるのか。怒りを抑えることは僕にはできない。

取り急ぎ、もっとも緊急性が高い二人は脇腹を肝臓ごとつぶされて、体内で大量に出血していた先進金属鎧のごっつい男性と片腕を切り落とされちゃった男性である。

そこからあまり差のない三番目に、見た目につながってこそいるものの、人の関節の構造はその方向には可動しいないという事実が内部の骨の状況を如実に語ってくれてしまっている左足を自分の意思で動かせなくなった女性冒険者である。


他の人たちも重傷であり、本来なら致命傷なのに、なぜかプルンが切れた冠動脈に蓋をしている状態で、心拍数も正常なまま寝ていられるけが人が多数なのだ。

僕は同時並行で3人の緊急手術を行うことになった。

破損し、壊死した肝臓の切除と肝臓につながる血管の再建手術、切断された腕の骨をプレートでつなぎ、血管、神経、リンパ節を再稼動可能な程度に接合する手術は2件である。

当たり前だが、助手もつけずに一人の医師が同時並行でする手術じゃない。

第三助手まで経験豊富な医師が付いた上で、それぞれが独立したオペで7時間~9時間コースだ。

何をどうやったら一人で同時に全部やるという話になるのか。

まあ泣き言をいっても始まらない。

僕は回復部分を切除し、簡易縫合した患者の縫合部分を解いて、肝臓部分が術野として解放されるよう、医療魔法で生理食塩水で腹部を満たした後、プルンに吸引してもらい、そのまま術部が見えるように、開口部分を開いた状態で固定してもらう。プルン一匹が第1,第2助手まで務めることになる。

僕は血液が届かず変色している肝臓部分を切除しながらも、この先の患者の生存リスクができるだけ低くなるように回復見込みのある患部喪服メタ肝臓の残存部分をできるだけ残すラインを見極め、メスで切除すると同時に、医療魔法「電気メス」で手に持ったメスから、患部の細胞を薄く焼いて、出血を止めながら悦除部分を切り離す術式を行う。

もちろん前世には、電気メスが開発されていて、切断と患部の止血が一度にできるそのメスが。手術時間を大幅に短縮し、それまで救えない命を救えるようになった画期的な技術革新として存在していた。

肝臓を焼き切ると、プルンに肝臓に血液を送り込んでいる血管で、圧潰した血管部分が、どの血管とどの血管をつないでいたのかを、血管の位置とこれまでの経験とで具体的にイメージして、その血管同士をつないで血液の循環を確保しておいてもらうよう指示し、次の患者に移る。

前世では人工心肺を血管ごとにつなぎ合わせるような、こんな細かな作業など不可能だった。同時並行で大手術を3つも行う。プルンなしではイメージさえできない手術をこうしてやろうと考えるどころか実際に踏み切っているのは、目の前のゼリー状の生き物のおかげだ。

僕が感慨深げにプルンを見つめると、プルンは僕の視線に気付いて、「どうしたの?」と小刻みに揺れる。その姿が可愛くて、プルンが居ることが嬉しくて、次の手術に「移る前にそっと撫でる。

次は腕が切り落とされてしまった冒険者だ。当然側に切り離された腕も落ちていたので、拾って、切断部分の血管とリンパ節をプルンが間に入ってつないでいる。ただプルンには神経の切断はつなげない。神経によって伝達されるのは電気信号であり、液体ではない。液体なら、そのまま橋渡しできるが、電気はプルンの体内に入った時点であらゆる方向に拡散してしまう。プルンの体内を特定の方向にだめ電気を導く電線のようなものが存在しないからである。

そして、意識のない内臓破裂の患者と違い、意識があり、神経が患部を摂っている患者には局部麻酔が必要になる。本当に、今日までに麻酔が手に入ったのは僥倖だったとしか言いようがない。

棒はこの世界の朝顔っぽい花の種から精製した麻酔薬を局部注射する。

臨床試験も経ない麻酔薬をいきなり実地投入するとか、医師の免許を剥奪されるような暴挙だが、背に腹は替えられない。まあこの世界に医師会もないけどね。

一応、患部を叩いてみて、患者に、叩いたの分かる?と聞いてみるが痛みでそれどころではないらしい。反射の反応がないので多分大丈夫と思い込む。きっと麻酔は効いている。

効いてなかったら・・・・ごめんね。

ぼくは腕の関節の可動域と可動方向に注意しながら、プレートでちぎれた骨を固定する場所を慎重に定めると、その周りの血管とリンパの根本を鉗子で止めて、接合を一時的にプルンに外してもらい、術野を確保すると、ボルトを一つずつ、プレートの穴に差し込んで、人差し指で押さえてそのまま「ドリル」と呟く。医療魔法「攪拌」と同じく指先から渦を巻くように魔力を回転させて用いる、プレート用ドリルの代替魔法であるが、風邪属性ではなく、磁場を利用してボルトのみに自転の作用だけを引き起こす無属性魔法である。回転によって、ボルトの先端のスクリューが骨の中に入ることで、ボルトを固定していくもので、上から押しつける力の作用はないため、「攪拌」とは別の魔法体型になるらしい。

プレとは切断部分を境に先端と胴体にそれぞれ2カ所ずつボルトで固定する箇所があり、全部で4カ所ボルトで締める必要があるが、この魔法のおかげで負荷を掛けずに数秒で終わらせることができ、止血の時間もその程度で済むため、患者の体への負担も少なくて済む。

プレートは1カ所だけで固定しようとすると不安定なままである。骨のある方向へは固定は確保できているので、残り2カ所で固定すれば、3次元の3点方向に固定が確保できる。プレートを二カ所に埋める必要があるのはそういう理由からである。

プレートで固定した後は、血管を縫合し、リンパ節を縫合して、術式は完了するのだが、ここでも一旦現状をプルンに確保してもらい、重症患者3人の3人目に移る。

血管縫合だけが、内臓破裂も含めて、他にも居るのである、命に危険があるように見えてないが、プルンがいなければ今頃死んでいる人たちである。

そして、同じ作業はまとめて行うほうが、効率的である。拡大鏡下での細かい作業で集中力はとても全員の分を終わらせる前に尽きるが、休憩を挟んだとしても、途中で別の手術を入れないほうが、見落としが少なくなることは間違いない。

3人目は左足が複雑骨折していると思われる女性である。

念のため触診したが、予想通り患部にさわると飛び上がるように激痛が走るらしい。

まあ折れてるよね。

患部の色も変わっているし、内出血も見られる。

これって血が外に流れなかったのが良かったかどうかも一概に言えない感じだ。

僕は覚悟を決めて、患部にメスを入れる。

みるみるどす黒い血が溢れてくるので、プルンに吸引してもらうが、鮮血が混じっていないのは損傷が動脈に達していないかもしれないと思えた。血の溢れ方にも勢いがないのも、仮説を裏付ける事実の一つではある。

プルンに損傷のある血管はふさいでもらった状態で、同じようにプレートで固定していくが、膝を含めた広範囲に損傷のあったこの患者には、これも用意したばかりのニーキャップをカバーするプレートが役に立った。

用意したものが役に立つというのは喜んじゃいけない職業だけど、やはり無くて絶望するよりはるかにマシだった。

それからしばらくして、血管縫合を残し、初動の手術は無事終わった。


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