エピソード32
それはそれとして、とりあえず、最悪の状況を切り抜けたことは、喜ぶべきことである。張りつめた緊張感から解放されると急激にお腹がすいてきた。
子供達はまだ、食事は無理だろう。衰弱しきっているところに固形の食事をすぐにしても、胃腸が受け付けないはずであるし、場合によっては命にも関われる。
幸いダンジョン遠征の救護所担当の準備で大量の体力回復ポーションを買い込んでいたので、点滴パックに詰め替えて、院長先生と助手と子供達を並べて食事に替えての点滴でのポーション投与を行う。空のパックは大量にあるのだが、なんなら人数分あるのだが、チューブと針は5セットしかない。それでも一人の救急医療セットとしては多い方だが、全部で8人の大人と子供の分としては、ちょっと足りない。
申し訳ないけど、元気そうな方に理由を説明して、2時間だけ我慢してもらう。
先行の点滴が終わったら、針とチューブは浄化で洗浄して使い回す予定だ。
点滴用の針は基本使い捨てだが、こっちの世界では二度と手に入らないと思うので、使い捨てなんてできるはずもない。
先行の患者に点滴を接続した後、僕は外に出て夕食の準備を始める。
あわただしい時間はあっという間に過ぎると痛感する。
僕たちの分は作り置きのボアカツでいいけど、回復が早ければ、もしかしたら明日の朝には何人かが食事ができるようになるかもしれない。
今晩はまだ経過観察が必要なので、夜勤も担当する。ふっ、二日くらいなら完全徹夜でもまだまえだ前世に比べれば・・・
僕たちはそのまま外で作り置きの食事をするが、修道院の人たちの分は、トマトソースを野菜ベースのスープで割って、豚骨スープを加えたスープを小麦粉でとろみをつけた重湯にトマトの味が付いた、みたいなものを鍋に一杯作っておく。
病院食まで手がけるドクター、ちょっと新鮮かもしれない。
長い夜のシフトに向けて、一度全員を診察した後、プルンに、容態が急変したら知らせるよう告げて、屋外でギンにくるまれて仮眠する。
職業柄、待機したまま仮眠し、浅い眠りで体力温存など、慣れたものである。
(慣れたくはなかったが)
結局その日の晩は1時間おきにチェックしたが、状態は安定して、翌朝を迎えることができた。
翌朝、意識の残っていた4人はその後悪化することもなかった。
一人ずつ体調を問診し、まだ食事は無理だと考えて、点滴を取り替えていく。
合間に、院長先生の助手の女性に、全員を発見した経緯、状態、その後の治療の内容を説明した。
助手の女性は助けてもらったことに感謝をする一方、心苦しそうに、治療費が払えそうにないと消え入りそうな声で伝えてきた。
僕は、女性に笑顔で、「お金なんか請求しないよ。元々僕が修道院を訪ねたのは、寄付をするために来たんだ。女神様へのお祈りを捧げた後にね。信じないと思うけど、僕は一度は死んだ人間なんだ。女神様に助けてもらって今の僕があるから、そして、女神様との約束で、この世界を回ってたくさんの人の助けになることが、僕に与えられた仕事なんだよ。そりゃあ、冒険者の怪我とかの治療にお金は取っているけど、女神を祀る修道院への寄進も、この世界で僕がやろうと思っていることだよ。その内容がお金でなく、僕にできることだっただけだよ。」
僕の言葉を聞いた助手の女性の目にはみるみるうちに涙が溜まり、頬を伝って流れ落ちた。嗚咽をかみ殺しながら「女神様、ありがとうございます。」と旨の前で手を合わせる。
持ち上げた後落とすことにならないか、不安だけど、それでも医師として、正しい説明はしないといけない。心を鬼にして、院長他3名の子供たちの容態が依然として危険であること、治療法として有効な薬の持ち合わせがなく調達しなければならないことを伝えた。
また、院長先生たちの治療は当然、ダンジョン遠征ともかぶることになってしまう。
その間の治療をどうやって継続するかも考えなければならない。
が、まずは体内の病原菌を殲滅しないと、治療にもならない。
一昔前、抗生物質といえばペニシリンで青カビから発見されたことは医学の知識のない人でも知っていたりするが、現代医療ではペニシリンはあまり使用しない。もちろん抗生物質として使用されていた時期があるのだから、閊えない訳ではないけど、ここまで衰弱しきった子供と高齢者には、ペニシリンだけを抽出する方法のないこの世界で、青カビを飲ませる訳にはいかない。ペニシリン以外の毒性が強すぎるからである。
昨晩からいろいろ考えていたのだが、前世に一つだけ、自然界の物質から直接採取できる抗生物質が存在した。それ以外は人工的に合成したものである。
そのたった一つとは、甲忠類の幼虫が、地中にいる間に大腸菌を筆頭とする毒類から身を守るために分泌する物質であった。
冒険者ギルドの魔物図鑑に虫型の魔物としてビートルの名前がいくつか存在するのは知っている。
魔物と前世の昆虫が同じとは限らないけど、他に方法がないし、ダンジョン遠征の野戦病院勤務も受けてしまったので、それまでに採取を完了し、継続的に問うよできるようにしないといけない。
そこで、虫のことは虫に聞くのが一番と、タラちゃんに何とかビートルという魔物の幼体がどの辺にいるのか、連れてきてもらえるかを尋ねた。
タラちゃんは「ご主人様の頼みですさかいに、あんじょうさせてもらいまっさ」と答えてくれたので、街のすぐ外まで、連れてきたら、呼びに来て欲しいと伝え、併せて、幼体をさらってくるんじゃなくて、ちゃんと親の許可を得て、親も一緒に連れてきてと頼む。
タラちゃんだけだと移動に時間がかかるので、ムートも一緒にいってもらう。
一刻の猶予もないので、すぐに裏門から街の外にムートとタラちゃんを出し、そこから黒の森に向けて飛んでいってもらう。
僕はすぐに街の中に戻り、抗生物質投与のための医療計画と万一抗生物質が入手できない場合に備えて子供達の血液型を調べておく。試験薬ではなく測定器を救急セットに常備していたので、底を突く心配がないのがありがたい。電池ではなく魔石で動くとかいう厨二病っぽい仕様になっているが、前世と何一つ変わらない内容であり問題はない。逆に電池とか言うこちらの世界にはない仕様を残すとトラブルを招くことになるのだそうで、アルテミアス様による魔改造バージョンである。
血液型を調べるのは、細菌であるカビの病原菌を克服した患者の血液に抗体ができているかもしれないからである。
が、ここでも血液中から抗体だけを取り除く方法がないので、血液ごと投与しないといけない。ヴィルさんのいたドラゴンさんたちの棲む山で正体不明の病原菌に苦しんだドラゴンさんに取った手法も基本的にはこの方法であるが、ドラゴンと異なり、人間の血液型は異物反応を起こし、ショックによる死亡原因となる。
同じか互換性のある輸血可能な血液型でなければ、抗体の媒体として用いることができない。
わずかな望みは、意識がはっきりしている子供の中にO型の血液型の子供がいたことである。自家製の抗体で病原菌を克服してくれたら、最悪アレルギーショックを起こさずに、他の子供に抗体を送り込むことができるかもしれない。
まあ、今はタラちゃんが成功することを祈ろう。
時間が空いたので、というより患者から目は離せないけど、抗生物質が無いと何もできない状態なので、この時間を利用して、アルコールの精製を続けることにした。
のためにワインはあほほど買って収納してある。
ドワーフの酒に対する情熱は異常すぎて、注文から真っ先にスティルレリーの製造に取り組み、わずか3日で歓声させやがった。
鍛冶師のドワーフは、完成品を引き渡すときにすぐにこれで話に出た酒精の強い酒を造って代金として持ってこいと言ってきたが、アルコールを精製して薬を作るほうが先だ。人命のほうが大切だと突っぱねて、残代金も一旦金貨で支払い、後日希望通りブランデーを作って持って行ったら、一瓶あたり銀貨3枚支払えと伝えて、スティルレリーをもぎ取ってきた。
アルコールは消毒用にも使うし、医療の現場では活躍の場が極めて多い薬品である。
ワイナリーでも醸造の過程だけで、度数60%っくらいまでなら製造できるはずなんだが、つくってくれないかなと願う。
今はひたすら、蒸留を繰り返し、できるだけ純度の高いアルコールを精製していく。
半日掛けたことで、しばらくは麻酔薬の溶解用の他にも、消毒用に使っても十分余裕があるくらいの量のアルコールが精製できた。
そのままにしておいたら揮発するのに。異次元ポケットの中だといつまでたっても量が皮rないという現象には違和感しかないが、文字通り減るもんじゃないので、ありがたく使わせていただく機能である。
と、そこまでの作業を完了した後、仕方ないので、ブランデーを作ることにした。
アルコールだけでなくワインそのものも蒸気に混在するように熱量を上げてから急速に冷やすことで、ワインのブドウの風味を残しながら、純度の高いアルコール水溶液が容器野中に溜まっていく。
これをブランデーと呼んでいいのかどうかは前世でブランデーを飲んだことのない僕には判別つかないが、それっぽい飲み物ができたのでよしとする。
空いているワインの瓶に詰め替えておく。密封しなくても、ブランデーはアルコール度数が高く酸化しにくいので、風味がすぐには変わらない。ワインと違ってブランデーが長持ちする理由である。
お酒のおみやげができたこともあり、工房街に松葉杖と担架を採りに行く。このタイミングで木工職人の工房を訪れようと思ったのは、おがくずを大量にもらっておこうと考えたからだ。
カブトムシの幼虫の食べ物は枯れ木の木くずなどである。腐葉土の地中で育つカブトムシは、枯れた木が地上に落ちて腐り、分解して木くずになった状態のものを食べる、キノコだけでなく細菌の宝庫であり、腐敗菌も蔓延し、傷口から進入すれば死ぬことになるからこその抗生物質を自分で分泌して体内への雑菌の侵襲から守っているのだから。
そこで、注文品を受け取るついでに、大きな木箱一杯のおがくずをもらい受け、水でしめらした状態で、なんとかビートルの幼虫を歓待しようというのである。
オロコフは酒瓶を渡すと目を光らせ、すぐに開封して、飲むと「こいつはすげえ」と感嘆詞、「一杯つきあえ」と引き留めようとしたが、死にかけている患者から長時間目を離す訳にはいかないといって断り、工房街を後にした。
一応、骨折用のプレートの進捗を聞いたが、あまり芳しくなかった。
もし遠征に間に合わなかったら、二度とその酒は作ってやらんと脅しておいたので、多分期限には間に合わせるだろうけど、飲んべえの「すぐできる」は危険だというのはどの世界でも共通しているらしい。
修道院に戻る前に、市場によって、季節お果物を大人買いし、また肉や野菜も「こっからここまで」買いをして、悪目立ちした。
何人か、目つきの怪しい男たちが僕の動向を窺っているようだったが、ギンが側にいるので、何の問題も生じなかった。
患者の容態が気になって、駆け足で用事を済まして戻ったが、助手さんの説明では、とくに呼吸が苦しそうだったり、呼吸に乱れが生じた人はいなかったようだ。
今は咳を外しても、1,2時間というところだが、ダンジョン遠征は3日間である。
アルフレッドさんに交渉して、夜中に街に戻ってこれるように、裏門の門番と話を通してもらっておこうと思った。
正門はさすがに夜開けるのは市民の反発が強そうだから、裏門だけこっそりとならなんとかなるだろう。患者を見捨ててダンジョン遠征にはいけないと言えば、そのくらいの便宜は図ってもらえるのではないだろうか。
一人試行錯誤していたところ、横で寝そべっていたギンが顔を上げ、ムートが帰ってきたぞ。
ムートの後ろを同じ速度で付いてくる魔物がおる。魔力は相当大きいぞ。そこそこの強さのやつを連れて帰ったらしい。
僕たちは急いで裏門から街の外に出る。ちょうどそこに、ヘラキューズビートルの幼体を抱きかかえ、ムートの爪に引っかかった状態のタラちゃんとそのタラちゃんを運ぶムートが戻ってくる。
その後ろをヘラキューズビートルの成体が飛んでくる。
僕は、すぐに収納から、大きな木の箱にしめらせたおがくずを敷き詰めた物を取り出し、その場に置く。
タラちゃんに、ヘラキューズビートルの幼体をおがくずの上に置いてから、地面に降りるように伝える。
タラちゃんは落下防止のためムートの脚に糸を巻き付けていたようだ。
ヘラキューズビートルの幼体は、おがくずの上に降りると、急いで、おがくずの中に潜り込む。
そこに少し遅れて、ヘラキューズビートルの成体が到着する。
ヘラキューズビートルは、怒りに満ちていた。いきなり自分の子供を連れ去られた上に、ポイズンタラテクトごときが、「後をついてくるでやんす。」と挑発までしたのである。ただ、なぜそのポイズンタラテクトをエンシェントドラゴンが掴んで飛んでいるのかは意味が分からなかった。蜘蛛ごときに遅れを取る自分ではない。
しかしながら、己の身の程は心得ている。目の前のドラゴンはその大きさにもかかわらず、底の知れない恐ろしさを秘めていた。およそ自分なんかが適う敵ではない。
今日は自分の命日なのか、との思いも脳裏をよぎる。
そしてヘラキューズビートルの受難はそこで終わらなかった。ドラゴンなど、一生に一度たりとも出会いたくない災厄の存在である。なのに、後をついて飛んでいった先にはフェンリルまでいた。今日は一体どれだけの厄日なんだろうという思いに苛まれていたところへ、弱小な存在でしかない人間が自分に向かって話しかけてくる。もっとも言葉は通じないのだが、あの忌々しいポイズンタラテクトが間に入って話を伝えてくる。
「ごめんね。突然君の子供をさらってきてしまって。この状態で、頼みがあると言っても、警戒するだろうし、応じる気にはならないだろうけど、今死にそうな人がいて、あまり離れられないんだ。あ、とりあえず、これ遠方をお越し頂いたお詫びとお礼につまらないものだけど、と言っているです。」タラちゃんが目の前の大きなカブトムシに話しているらしい。僕の言葉をできる限り正確に伝えるように努力してくれるそうだから、せめて悪意がないことと、どうしてもお願いしたいことを快く引き受けてくれるといいなあ、と思いながら、収納から先ほど市場で買った桃と思われる果物、ペーチェというそうだに、ブランデーっぽいお酒を少量振りかけて、お皿に盛ってカブトムシの前に置く。
前世の知識で、カブトムシは果樹の熟成が進み、アルコール発酵することによって生じる甘いにおいに誘引される習性があることを知っている。この世界ではどうか分からないけど、やってみる価値はあると思った。
果たして、カブトムシはわずかな逡巡の後、おそるおそる口を付けると、そのまま一心不乱に桃を食べ始めた。
そのころには、木箱のおがくずの中から幼虫も顔だけ地面に出し、何があったのか、ときょろきょろ見回していた。
指宿温泉の砂蒸し風呂のような光景がちょっとだけほっこりするが、僕たちに敵意がないのはなんとなく伝わったと思う。
カブトムシは、皿の上にあった3個の桃をあっという間に完食すると、僕の方に向き直り「人間よ、一体何のようだ。なぜおまえのような矮小なものに、ドラゴンやフェンリルが付き従うのだ。と言うてまっせ。」
タラちゃんの通訳が入ると、ちょっとだけ調子が狂う。
「僕の知識が正しければ、ヘラキューズビートルの幼体は地中で過ごす間に、周りの有害物質から身を守るために、有害な細菌に対抗する物質を分泌するのだが、間違いないだろうか。と聞いてはります。」
あ、タラちゃん、ビートルの言葉だけでいいから。こっとにも僕の言葉だけでいいから。三人称の伝聞にすると調子が狂う。
「ほう、なぜ人間がそのことを知っているのだ。なるほど、人間にとって便利だから我等を殺して、その死体を利用しようということか。」
「そんなことしないよ。命を奪わなく断って、お願いしたら応じてもらえないかな。お礼はするよ。その分泌物を必要としている病人がいるんだ。このままだと死んでしまうんだよ。」
「ふむ。ドラゴンとフェンリルを従える者だ、私の命を奪おうと思えば、最初に遭遇した時点で、十分可能であっただろう。その言葉を信じるよりほかあるまい。まあ、抵抗したところで、ドラゴンに太刀打ちできるはずもない。」
「じゃあ、幼体にお願いして体の外に出してもらえないかな。」
カブトムシは、なにやらおがくずから頭だけ出している幼体に話しかけており、それが終わると、幼体はおがくずの上に全身飛び出して、小刻みに震え始めた。
しばらくすると、体表に金色に輝く物体がしみ出してきたので、これがそうかと、僕はへらですくい取って、瓶に移し替える。
こぼしたらもったいないので、まずは、体表にしみ出している分は全部瓶に集め取ることにして、内容の確認はその後にする。
全部で200ml位はいる瓶3つの液体が採取できた。
瓶を手に持って、「医療鑑定」を発動する。
前世の知識に照らしてこの世界の代替物について、その効能や性質などを教えてくれる、いかにも都合のよい技能である。アルテミアス様が、前世で培った知識をそのままこの世界に持ち込むだけで、べつに何もないところにチートガン積みする訳ではないので、と言っていたが、「チートガン積み」とは何なのかが全く分からなかった。
つまり、前世で抗生物質の存在、効能を知っている僕は、この世界に抗生物質の代わりになるものがあれば、その物を手にしたとき、それが同じ働きをすることを知ることができるという訳である。
期待どおり、僕の手の中の瓶内にある黄金色の物体は「抗生物質」だった。
僕はカブトムシの成体と幼体に感謝し、もし可能であれば、また同じ物を入手させて欲しい。そのときはこちらから会いに行くし、お礼も用意すると伝えたところ、カブトムシは呆れたような顔をして、「変わった人間だな。だが己の都合で他者を殺める傲慢さがないのは好感が持てる。もらった果物は森にもあるものだが、何かひと味違うものが加わっており、味に深みがあった。次に来るときはまた同じ物をお願いしたい。また我が子にも今身を埋めている木の屑だが、できればもう少し時間の経過したものが望ましい。」とリクエストしてきた。
「もちろん。忘れずに持参するよ。」僕はそう返答した後、ムートとタラちゃんに、幼体を元の場所まで送り届けて欲しいと伝える。
成体は自分で飛んで帰るだろうしね。
ムートは「分かった。」と一言発して、タラちゃんが幼体を抱えるのを見計らって、爪にひっかけ飛んだ。幼体は、木箱のおがくずが心地よかったらしく、持ち帰りたいと言い出したが、ムートはともかくタラちゃんが抱えられないし、ムートでは木箱を水平に持ち運べない。それに森の中で木箱のなかのおがくずに入っていたら、敵に見つかったときに逃げ場がないので危険だと伝え、今度尋ねる時に持参する空と伝えて納得してもらった。
ムートたちが森に向かって飛び去るのを見送って僕はすぐに修道院前の野外オペルームに戻る。
早速抗生物質の投与を始めないと、危険は脱していないのだ。
こんなとき、点滴の針が5本しかないのが悔やまれる。
粘性の高い液体のため、血管内で血栓になっても困るので、アルコールでのばす。抗生物質は水溶性なので、生理食塩水でも問題はないはずだが、体内への吸収はアルコールの方が効率が良かったはずである。
念のためアルコールで住めて、粘性を緩和させたところで、医療鑑定を掛けて、効能が失われていないのを確認した後、点滴の中に注入していく。
抗生物質投与まで時間経過が著しいので、点滴の速度を限界まで早める。体への負担は大きくなるが、これ以上体内に病原菌の繁殖が進む方が危険と判断する。
通常2時間で点滴の一サイクルとするところを半分の1時間にすることで、残りの子供達への抗生物質投与の開始時期を早めることができる。
わずか1時間でも、その間に病原菌が拡散するリスクを考えれば馬鹿にはできないだろう。
目視で確認できる効果はすぐには現れない。
重病の患者はしばらく点滴による薬剤投与と栄養吸収が続くことになるだろう、意識のある子供で自力で食事ができるようになれば、朝のうちに作っていた重湯風トマトスープ的ミネストローネっぽい何かに移行してもらうが、間違って気管に入れば誤嚥性肺炎のリスクは既に肺炎を発症している以上極めて高い。
絶対に大丈夫と思えるまでは、点滴を続けたい。




