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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
29/96

エピソード28

食事をしながらも当たりが暗くなり、夜が明けるまでは、明かりを採るという意味においても、獣への牽制という意味においてもたき火は欠かせない。まあ後者はギンとムートだけでなく森の王者であるキンググリズリーまで合流して一体誰が襲ってくるのかという状況なのだが、せっかくたき火をするならと、寸胴をトライポッドで吊し、水と野菜の切れ端とぶつ切りトマトを入れて一晩掛けて煮詰めることにした。

とんかつソースはその後、醸造してさらには酢を加えるなどして僕もよく知っている味に仕立てあげるらしいのだが、作ったことなどあろうはずもなく作り方も全く分からないので、トマトソースを作り、そこから試験的にお酢や蜂蜜などを加えて、それっぽいものを作ろうと思う。

まずは、トマトソースからである。


収納から、これまでに別の料理、主にスープで使用した野菜のへた矢切れ端を皮付きのまま、鍋に入れて煮込む。じっくりことことが基本なので、最初にたき火の上にトライポッドに吊しておいた後、沸騰直前に、竈に移す。

竈には薪は入れず、熾火になった状態でひたすら、たき火の炭を移し買えることで、火力の調整をする。

一晩掛かりの作業になるので、寝ずの番は、僕だけ通しで、あとはギンとムートとタラちゃんと親熊が交代制にして担当する。

ギンは僕が徹夜することを心配したが、料理の火加減だけは他には無理だし、美味しい料理のためと分かっているので、強く反対も出来ない。

子熊は大分良くなったとはいえ、まだ怪我が治りきっていないので、寝るのが仕事である。

本人(?)も分かっているので、横になった後は朝まで起きなかった。

一晩掛けて野菜のだしをスープに移し切った後は、漉してスープだけを別の寸胴に移し替え、煮くずれた野菜は穴を掘って埋める。

肥料として土に帰るので一石二鳥である。

朝ご飯にはトマトソースは間に合わないので、豚骨スープに塩こそ牛手焼いた猪肉とパンで手軽にすます。

野菜スープのストックは一旦収納する。日中は薬草採取に充て、今晩また今度はトマトを煮込みながらスープを煮詰めていってソースを完成させる。

朝ご飯を食べ終わると、二日目の最終活動を開始する。

ギンは張り切って、昨日のキノコだなと言うので、今日は違う種類の植物を探すと伝える。

前世でもベニテングタケやドクツルタケの毒はよく知られていたが、それらが麻酔に用いられたことはない。おそらく違う系統の毒だろうと考えいてた。

まあこちらの植物が前世と同じとは限らないので、試すこともなく決めつける訳にもいかないが。

キノコ類では前世にも麻薬成分の含まれるマジックマッシュルームがあった。

同じようなキノコがこちらにもあるかもしれない。

残念なのは、この森のある地域の気候では、熱帯雨林に分布するコカ、言わずと知れたコカインの原料は生えていないだろうということ、願わくばもう一つの有名な麻薬の材料である芥子が見つかればと思っていた。

この森の気候と今の季節からは、ポピーフラワー、つまり芥子の花に的を絞って探してみる。麻酔薬の他に終末医療の鎮痛剤であるモルヒネが採取出来るかもしれない。

僕はみんなに今日探す植物について前世での特徴を伝える。こっちの世界のそれが同じ特徴であるかどうかは知る由もない。

ちなみに薬師ギルドにあった幻覚をもたらす草木とはマンドラゴラとデビルラフレシアという植物系の魔物と呼ばれるもので、前世には全く存在しないものである。

ファンタジーなこの世界では歩く職鬱も人を攻撃する植物も珍しくはないそうだが、何言っているか分からない。

僕は、特徴が同じものがあって欲しいと願いながら、モルヒネの原料となる芥子の特徴としてオレンジがかった黄色もしくは真っ赤それも黒みのかかった強い赤色の花、もしくは青や紫の花と説明した。

ギンは嗅覚に優れているが、臭いで色が分かる訳ではなく、ひとたび目当ての花を見つけてその臭いを嗅ぐまで、臭いで場所を特定するのは難しい。

ところが、僕が探している花の特徴と色をキンググリズリーに伝えた時だった。

ギンが「キンググリズリーがその花を見たことがあると言っている。案内すると」と伝えてきた。

その言葉を聞いて親熊に振り向くと、親熊は地面に伏せて、乗れと合図してきた。

ギンが「主を乗せるのは我でもよいだろうに・・・」とぶつぶつ言っていたが、場所を知っているのは親熊なので、僕を乗せる役目を譲ったようだ。

どいってでもいいのに。

親熊はギンとほとんと同じ大きさなので、いつも見える目線とそれほど違和感は無かったがギンより背中が広いので、股をより広げなければならない関係で馬のようにまたがるのは難しく、熊の背中にぺちゃっとくっついた状態でしか乗れなかった。

僕が乗ったあと、子熊も僕の足に飛びついた後、足を伝って一生懸命よじ登って来て、ぺちゃっとくっつく僕の両腕の間に同じ格好でぺちゃっとしがみついた。

ムートはぱたぱたと飛んで、僕の頭の上に着地する。タラちゃんは僕の背中にしがみついている。プルンは鞄の中に、井田さんは白衣の脇ポケットの中に、それぞれが定位置を見つけたらしい。

全員が乗ったのを確認して親熊は立ち上がり、急速に駆け出す。

周りの景色が目にもとまらぬ速さで後ろに流れていくこと半刻ぐらいたった頃、親熊のスピードが少しずつ落ちてきた。

周りの景色が少しずつ像を結び、木々の種類や形が分かるようになった頃、その木々が林立する空間を抜け出し、いきなり空が広くなった。

スピードが落ちたことで、腹這いでなく起きあがっても後ろに飛ばされなさそうになったので、熊の背中で起きあがってみると、そこは一面の花畑だった。

テレビで見た大雪山の日本最大のお花畑のような光景が広がっていた。

そこにさく色とりどりの花、その中には赤や青や紫の花も確かに存在していた。

残念なことにそれは芥子の花ではなかった。

しかし不幸中の幸いというのか怪我の功名というのか、それは前世の朝顔と全く同じ植物だった。少なくとも見た目は。

まさか朝顔がこの世界にもあると思っていなかったのだ。全く想定の端っこにもなかった。

前世では認可された薬品の原材料として用いられないが、朝顔のために含まれる麻薬成分はアメリカではデートレイプドラッグと呼ばれる違法薬物にも用いられる。

リドカインを製造する製薬会社のないこの世界では、コカから精製されるコカインや芥子の種から精製されるモルヒネ、さらにそこから精製度を高くしたヘロインなどより、常習性の少ないより安全と言って良い麻酔薬が出来る。

医薬品利用ではモルヒネのほうが有名なので芥子の花を探していたが、朝顔がこれほど群生する場所は前世でも見つけることは出来ない。

僕は親熊に何度もお礼を言って、朝顔の種の採取を始めた。

そう、今は夏真っ盛り、初夏に花を付ける朝顔は、花が枯れた後、種を付け、地面に落として翌年また種の落ちた場所から目を出す。

まさに一年のほんの短い間に花が枯れて種を落とす、今はちょうど花が咲き終わり種を付ける時期だった。

個体差があるので、花が残っている物もあれば、種が地面に落ちたものもあるが、お花畑が翌年も残るように乱獲を避ける野が植物採取の鉄則である。

今種を採取出来るもの、花も種がはじけた跡も残ってなければ種は半分だけ採取するとルールを決めて、採取を始める。

種の採取は、種信分以外の花を傷つけずに行う必要があり、ギンやムートはもちろん、如何にプルンが器用でも、僕にしか出来ない作業だった。

なので広大なお花畑から翌年分の種を残しながらも、出来るだけ多くの種を採取する作業は気の遠くなる作業だった。

そしてもう一つ、お花畑と言えば咲いている花は朝顔だけでなく、時期をずらしていろんな花が咲き、その花を目当てにいろんな動物が集まる。

日本だったら蝶も蜂も可愛いくらいの話で済むのが、この世界の蝶や蜂は可愛さのかけらもないサイズで、しかも花に集まる蜂と言えば、密をためる蜂であり、つまりは熊が天敵な訳である。

そんなところへキンググリズリーが踏み込んだら、敵が来た、と飛びかかってくることになる。

せっかく案内してもらったのにこれではと、僕たちは相談して、朝顔の種採取の拠点をお花畑から森の中に戻ったところにある岩場の高台に設置した。

ギンやムートには申し訳ないが、僕だけが花畑で採取を続けている間、好きに過ごしてもらうことにした。

2匹と親熊は、採取中の僕の警護を買って出てくれたが、ギンと熊の親子は日中は蜂に狙われるので、ムートに警護を頼み、他は花畑から離れたところで周囲の警戒に当たってもらった。

不満そうなのが痛いほど分かったので、お詫びに、フォレストボアや兎を調理法を変えながら提供し、1日当たりの採取の時間を区切って、残りは一緒に過ごす時間にしたことでなんとか機嫌を取り戻してもらえた。

まあ。その分日数も多く要したのだが、目当ての材料が十二分に調達できたことで満足の採取遠征となった。

子熊の回診もすることが出来たばかりか、5日間、毎日出来たので、快癒の経過も確認出来た。

最終日にはまだまだストックはあるけど、大事に食べているタイラントボアの特上部分の肉をステーキにして振る舞い、全員がお代わりを強請ってくるのを「また今度ね」と断腸の思いではねつけて、森での最後の夜を過ごした。

そして、キンググリズリーの親子に再び森を出るところまで見送ってもらって、僕たちはアンタレスの街に戻るのだった。



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