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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード27

そう、この森のどこかに棲んでいるはずの、あのキンググリズリーの親子だった。

今回の黒の森で採取活動をしようと考えた時、熊の親子に、特に子熊には術後の診察を出来ないか、容態をみて可能であれば抜糸をしようと考えており、採取活動が順調ならどこかで熊の親子を捜す日程も取ろうと思っていたのだが、どうやら向こうから会いに来てくれたらしい。

子熊はそのままとてとて歩いて僕の足元まで来ると、「きゅーん」と鳴いて頭を膝にこすりつけてきた。

まだそれほど日数がたった訳ではないが、覚えてくれていたみたいで嬉しい。

僕はしゃがんで、子熊の目線の高さに合わせると、「元気だったかー」と声を掛けながら頭を撫でる。

子熊は嬉しそうに「きゅー」と僕の腕に頭をすり寄せてくる。

どうやら元気そうだ。

僕は、少し近づいてきた親熊に「子熊の手術後の状態を確認するからな」とまあ分からないだろうけど、患者と患者の親族に説明するときのようにインフォームドコンセントを求めるときの説明をする。

そのまま、子熊に両手を伸ばして抱えると、熊の首に手を当てる。脈拍を計測するためなのだが、子熊はくずぐったそうに、嬉しそうに、首をこすりつけるように振る。

うーん、脈拍が計測できないので、ちょっとおとなしくしてほしいんだが。

「ごめん、じゃれついてもらえるのは嬉しいのだが、ちょっとだけ体調のチェックをさせてくれるか?」と子熊に言い聞かせてみる。子熊が首をかしげるような動作をしたように見えたが、頭を撫でて、もう一度首に手を当てる。どうやらなんとなくだけど意図は伝わったらしい。今度はおとなしくしてくれていた。

まあ、諮ったところで平常時の熊の脈拍なんて知らないので、極端に弱いとか、心拍数が激しいとかでなければいいかと思うことにした。

少なくとも歩くのに支障はない程度には回復している。

僕は最悪の場合の再手術も想定しながら、子熊を両手で抱えて、あぐらを組み、足の上で子熊をひっくり返す。

子熊は遊んでもらえると思って、大喜びしたが、治療の続きであることを伝えるため、「シッ」と短く強めに息を吐きながら声を出し、同時に静かに子熊の顔に手を当てておとなしく寝ているようにと、押さえ込む。ゆっくりと手を外していくと、雰囲気で理解したのか、子熊はおとなしくなる。

刃物を体に当てるので、突然動かれると傷つけてしまうので、静かにしておいてほしいのだが、あいにく麻酔はもう残ってないし、また抜糸程度で麻酔を投与するのもむしろリスクの方が高い。

僕は記憶を辿りながら子熊の手術の開腹部を体毛をかき分けながら探していく。指先に突起物が当たり、縫合糸を結紮した箇所が見つかる。

そう、抜糸のためにさらに野生の熊に麻酔を投与して開腹手術をするのは非現実的と、リスクは高くなるが、表皮から内臓の縫合糸を通して、損傷した内臓の再建手術を行い、再び縫合糸を表皮の外に出して結紮したのだった。これにより体外から結紮部分を切除して、反対側から抜糸をすることで、開腹手術を避けることにしたのである。

当然結紮部分が体外にあるということは、何かの拍子に結紮部分が外部からの衝撃で切れると、傷口がふさがらないうちに糸が外れて体内で大出血を引き起こし、今度こそ出血死してしまう危険があったが、野生動物は傷が癒えるまで、動かずにじっとしているという話をテレビで見たことがあったような気がしたので、それに賭けたのだ。

今日まで無事だったようで、しかも歩ける程度には回復しているようなので、抜糸に踏み切った。今度またいつ会えるかというのも分からないし、体内に吸収されない縫合糸は腹膜炎のリスクを時間と共に拡大させる。

2カ所ある縫合の結紮部分をハサミで切り、ゆっくりと糸を抜き取ったが、子熊の容態が急変する様子はなかった。

最後に抜糸の前後での脈拍数の違いをチェックしたが、急激な変化は見られないので、体内で抜糸に伴う出血はなかったと考えてよいだろう。

大きく安堵の息を吐き、手術が無事終了したことを確認出来て、心配が減ったことを実感した。

子熊を元に戻すと、親熊のところへ行き、子熊を顔の前に突きだして、手術成功を伝える。

まあ言葉は分からないだろうと思うけど、と思っていたら、ギンが「その熊は主殿に感謝しているぞ。自分に出来ることなら何でもすると言っている。」と伝えてきた。

あれ?と思ったが、「先日も我とキンググリズリーは会話は出来ておったぞ。そこの蜘蛛とは種族間の隔たりが大きすぎて意思の疎通は無理だが、熊とはいうほど違いは大きくないぞ。我の眷属である森狼とは生息域も同じであるし、全く話が通じなければ不便であろう?」とギンが続けた。

そうかギンを経由すれば話も出来るのか。

「ならば、子熊にはしばらく激しい運動はさせないように伝えてくれ」とギンに頼む。

「うむ、承知した。」

ギンは親熊に向かって吠えていた、ようにしか聞こえなかった、が直後に親熊が短く「ぐるぅ」と吠えた後、頭を下げて、僕を突き飛ばした。

突然の出来事に「うわっ」悲鳴を上げて。後ろに倒れた僕を見て、親熊はひどく慌てていた。

僕は一瞬何が起こったのかと思いながら起きあがると、ギンが「主殿との体重差も考えずに、感謝の気持ちで頭をこすりつけようとしたらしいぞ。」とのんびりとした口調で教えてくれた。敵意はないようなので、特にギンもムートも慌てなかったらしい。

親熊だけがまだ慌てた様子で、地面に顔を伏せていたので、大丈夫という意思を伝えるべく、近寄って頭を撫でた。

それで許されたと理解し、親熊に元気が戻り、そこから親熊も子熊も合流してしばらく水遊びを堪能した。

熊は水浴びが大好きらしく、またこの滝壺には時々水浴びや魚を捕るために来ることもあるのだそうだ。

僕らが滝壺にたどり着いた時から、その気配を感じ取ってこちらに向かってきていたのだが、子熊を乗せているので、それほどスピードは出せなかったらしい。それでも間違いなく僕たちの気配だと分かるくらいまでに近づいたら、我慢できなくなって子熊に短時間だからしっかり掴んでいるように指示して全速力でこちらに向かってきたらしい。

それまでゆっくりした動きだったのに突然速度を上げて向かっていったことがギンの警戒を引き起こしたらしいのだが、ギンもすぐに気付いたので、大事にはならなかったという話だった。


僕は、竈の火を再び起こして、調理を続ける。

せっかくだからとんかつは全部上げきってしまいたかった。中途半端に残すのはいくら時間の経過のない収納の中でも落ち着かない。

再開して間もなく、とんかつを揚げ終わる。


子熊は、僕に構ってもらいたいらしく、とんかつを揚げている間も落ち着き鳴く足元にっよってきては、僕の足を頭でつついていたが、危ないからと注意すると、落ち込んだ様子で、ギンたちの方へ歩いていく。

そしてしばらくするとまた寄ってきて同じことを繰り返すのである。

まあ、久しぶりに会えたので、構ってほしいという気持ちは嬉しくもあるけど、高温の油が掛かったらやけどするので、心を鬼にして作業は終わらせる。

そして全部揚げ終わったので、バットも綺麗にして全部収納し、油の入った鍋も収納にそのまま入れる。

どういう理屈か全く理解できないけど、高温の油を入れたままの鍋がそのまま収納出来て、他の物には一切影響がない。異次元ポケットは現代科学では全く説明できないおとぎ話的な何かであった。


調理が終わったので、釜ってもらえずに寂しそうにしていた子熊に、「調理終わったからおいで」というと、「ぱあっ」という効果音が聞こえてきそうなくらい子熊が嬉しそうな顔で、飛び込んで来た。

小さいと言っても元のキンググリズリーの成体から見ればという前置きが付く。

ゴールデンリトリバーよりも一回り大きなサイズの生き物が飛びかかってくるのである。

そのエネルギーはとても成人男性が直立不動で受け止められるものではなく、当然「ぶふぉっ」といううめき声を添えて、その場に膝から崩れ落ちるのだが、痛そうにすると子熊がまた落ち込むので、やせ我慢の一択である。

子熊の頭をわしゃわしゃ掻きながら、子熊をひっくり返し、お腹をなで回したあと、川に向かった。

抜糸した直後だけど、この後も森の中で暮らす子熊が水に入ったときに、傷口から雑菌が入らないとも限らないので、傷口がから水が入り込まないかを確かめるついでに水遊びをしようという算段である。

多少残っていた懸念にもかかわらず、川から出た子熊の傷跡を布で拭いたが、血は混ざってなかった。断定は出来ないが、傷口はふさがっており雑菌の侵入もそこまで心配しなくてもいいだろう。


最初から滝壺の縁で野営することにしていたので、夕飯は揚げたてのとんかつを取り出し、いつもの3匹、それに新たに加わった二匹の蜘蛛、そしてゲストの熊の親子の分を皿に分けて盛りつける。

蜘蛛は見た目以上に小食で、極小蜘蛛の井田さんに至っては、1枚も食べきれないので、その4分の1をさらに、細かく切った状態で出し、残りはタラちゃんが食べることにしたが、タラちゃんもそれで満杯なんだそうだ。野生の状態では何日も餌が罠に掛からないことの方が普通で、4,5日何も食べなくても問題ないように出来ているとのことだった。

従魔となったギンもムートも本来の食事は魔力なので、僕の料理は嗜好品としての位置づけであるが、僕の作る料理は僕の魔力に溢れているらしく、料理を食べることも大きな楽しみなのだそうだ。

そういう意味で一番食べるのがキンググリズリーの親熊で、しかも普段は火の通った猪の肉など食べることがないので、初めて食べる人間の料理に夢中になっていた。

この味を知ってしまうと、元の食生活に戻れるか不安だ、と言っていたらしいが、妙に人間臭さが感じられる発言に思わず吹き出してしまった。



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