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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード21

薬師ギルドのお偉いさんは見るからに高齢の女性だった。

やはりファンタジーの世界では薬といえば、魔女。魔女と言えば老婆というのがお約束らしい。まあ実際には男女比でいうとそれほど大きな差はないが、薬師を志すものは自ずから女性の方が多いらしく、男性は薬草の採取も含めて少し力を付けると一攫千金を夢見て冒険者に転身し、少なくない人数が冒険者として大成する前に命を落とすのだそうだ。

また薬師による製薬の作業は地味で単調な手順の繰り返しであり、忍耐強さが求めあれることから、性格的に女性の方が向いているのだそうだ。であれば女性の比率の方が高そうなものなのだが、ここのところ、魔物の脅威が増しており、冒険者の数が減ってしまい、リスクの高さに鑑みて男性も薬師にとどまろうとする人が増えたのだとか。

背景事情はともかくとして、僕は薬師ギルドを紹介してもらった目的の本題に話を進めることとした。

「私の仕事は怪我や病気をした人の治療なのですが、この病気や怪我を治す作業の過程で体に傷を付け、切り開いて中の臓器に直接アプローチすることが必要となることがあるのですが、そのとき体を切り開いたり、臓器を切ったり縫ったりする作業のときに、治療を受ける人が痛みを感じたり、切ろうとして刃物を当てた瞬間に反射的に動かれたりすると間違ったところを傷つけてしまいかえって危険になることがあるのです。私が使ってた薬は、その痛覚を麻痺させて、作業中に痛みによる反射的な動作が出ないようにするためのものだったのですが、度重なるけが人の治療でその薬が無くなってしまったのです。」

本当はキンググリズリーの親に使った量があまりに多かったのが原因だが説明しても納得してもらえる未来が1ミリも見えないので割愛する。

「ふむ、その薬がまだ残っていたら見せてもらいたいのだが。」

「残念ながら、使い切ってしまい、もう残ってないのです。その薬がないとけが人も病人もその方法で治すことが、難しくなるのです。」

「そうか」言われてもな、言葉だけでは心許ないものがあるぞい。もう少し詳しく説明してもらえんかの。」

「ギルド長さんは、人が痛みを感じると頭で考える前にその痛みの原因を避けようとする反射という行動がどのような事象かご存じですか。」

前世では当たり前の知識だ。反射は脳まで情報が伝達されず、身体の防衛本能として体外からの侵襲を電気信号と受け取ったとき、最初に伝達される脊髄からすぐに信号が送られて特定の行動、具体的にはその襲撃から距離を置こうとする動作を行う。別名痛覚反応とも言う。ただ、この世界は何でも魔法で説明しようとするため、人体に電気信号が伝わることでいろんな動作を行っているということがなかなか理解してもらえない。

「人が痛みを受けてすぐに反応するのは、神がそう作りたもうたじゃらじゃ。」

うん、分かってたけど薬学以前の話で会話が終了した。

アプローチを変える必要がありそう。

「たとえば、体の一部を刺したとき、その部分だけ刺されたことに気付かないにする方法とかって聞いたことありますか。」

「うーむ。話を聞く限りにおいてじゃが、魔物の中には、攻撃相手の感覚を失わせる「麻痺」という状態異常を手段とする魔物もおる。その魔物の持つ「麻痺」という状態異常を魔物討伐において攻撃薬として用いる特殊なポーションもあることはある。だが、それを怪我している人間に使うというのは前例がないのう。」

(麻痺かぁ。確かに麻酔というのは部分的に神経を麻痺させることなんだけど。前世では麻酔の原料は植物由来のものだったのだが)


とりあえず、今は何か手がかりが欲しいところ、植生も動物も元の世界とは似ているようでいて、全く違う。

それでなくても前世では医療に用いる薬品は全て製薬会社が納品するものだったのだから、薬草だのキノコだのから薬効成分を得るなど、ほとんど民間療法の領域である。

「済みません。今はどんなことでも知っておきたいので、その麻痺を引き起こす生物について教えて下さい。」

「あんた冒険者だろ?薬師でもないのにずいぶん研究熱心だね。そういうのは嫌いじゃないよ。」

ギルド長は、多忙な時間を割いて、それから麻痺の状態異常を生じさせる危険生物として、この街の近くで遭遇する危険のある生物を教えてくれた。

キノコが5種類、草花が3種類、蜘蛛が2種類、蜂と蛇がそれぞれ1種類である。

うち、幻覚作用をもたらすのはキノコ全種類と草木のうちの2つであり、体が動かなくなるのは、蜘蛛と蜂である。

同じ麻痺でも蛇のそれは細胞を破壊し、臓器も筋肉も溶かしてしまう症状をもたらすもので、残る一つの草花は死亡率が極めて高く、意識を失ったまま戻ら無いため、麻痺とよぶ症状に分類してよいのかどうかも怪しいとのことだった。

話を聞いたとき、植物でよかった。動物だと、こちらから近寄らなくても、被害に遭う危険があると独り言のように呟いたら、「知らないのかい、植物だって動くものは動く、歩き回る植物も少なくないんだよ。」と言われてしまった。

森や草原は何度か立ち入っているが、植物が歩き回るとかどんなホラーだよと思う。


聞きたいことは尽きなかったが、さすがにギルド長も終日僕のために時間を取る訳にはいかず、職員が呼びに来たところで話が強制的に終了した。

「あんたは見所があるよ。まだまだ聞きたいことがあるなら、日を改めて来るがいいさね。」

僕はお礼を言って、必ずまた伺ってお話を聞きたいとの旨を伝える。

その後、ギルドで入手出来る薬品は一通り全部購入することにして、その旨伝えると、「」冒険者に払える金額ではありません。」と対応した職員に冷ややかな目で見られた。

なんでも麻痺とその治療薬、毒とその解毒は効果に対応して上中下各等級があり、中でも上級の毒と麻痺は治療薬が対応していないため、取り扱いが極めて厳重に管理されており、冒険者でも、5級以上でないと買うことが出来ないらしい。

残念ながら、僕は6級だな、と考えていたら、冒険者ギルドの紹介状を持参してきているので、特例で6級でも購入は出来るとのことだった。

しかし、その値段が上級の麻痺で金貨1枚、上級の毒に至っては金貨5枚するとのことで、とても冒険者の手に負える金額ではないと職員は説明する。

(まあ、たしかに薬が10万円とか50万円とか言われればたいていの人は躊躇するんだろう。)

けど、前世の記憶があるだけでなく、医師だった僕は薬の値段が50万円だろうと100万円だろうと、あり得ない話ではないと理解している。薬の値段は開発コストと開発期間に特許期間の企業の収益、特許失効後の企業の収益を考慮して決定される、つまり開発に時間がかかり、研究コストも尋常でなく甚大なものでありながら、マーケットが小さいなどの事情があり、それでも必要とする患者がいるので製薬自体は続けなければならないということになれば、1回の使用分が数百万円という薬も世の中には存在する。そんな値段でも命をその薬に依存する人たちはおり、再三さえあれば製薬会社は薬を製造するからだ。

僕は、懐からお金を出すフリをして、収納から金貨をひとつかみ取り出し、カウンターに10枚筒積んで並べていく。

とりあえず、上級麻痺、上級毒は販売量が1つと決まっているため、1つ、各中級、下級、解毒剤と麻痺解除薬は全種類5つずつ、睡眠薬も全種類5つ下さい。

10枚筒並べた金貨をさらにもう一列並べようとしたところで「大丈夫です。そこまでで足ります。」という職員が慌てた声で遮る。

上級の毒と麻痺毒だけが突出して高額なだけで、そのほかは高いものでも大銀貨、ほとんどが銀貨で買える値段だった。

まあ、毒や麻痺は魔物相手に使いづらいが、矢に塗って武器として使用する需要が全くない訳でもないため、それなりに市場もあることで、値段がそこまで高騰しないのだそうだ。これに対し、治療方法がない麻痺や毒は暗殺目的以外で使用する選択肢が思いつかないらしく、王侯貴族にしか需要がない上に、確実に相手の息の根を止めるという特殊な需要に対応することから、簡単に入手できるものであってもいけないという特別な理由もあって値段が尋常ではないのだそうだ。

僕は買い取った薬を鞄に入れるフリをして異次元ポケットの収納する。僕にしか取り出せないこの世で一番安全な保管場所だが、第三者からは無防備な鞄の中にとんでもない劇薬が無造作に入っているようにしか見えないため、必死の形相で、管理は厳重にして欲しいと懇願されてしまった。

帰宅したらすぐに鍵付きの保管庫に移しますと伝えておく。


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