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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
19/96

エピソード18.5

それから半刻後、荷車を引いていたのはギンだった。荷台には分裂したプルンがルフィーネの下に敷き詰められ、地面からの震動を全部吸収していた。

まるでウォーターベッドに寝ているみたいだった。

プルンは気にしていなかったが、長時間下敷きにするのも忍びないので、ギンに引いてもらい、荷車の車輪が破断しないぎりぎりのところまで速度を上げて街を目指した。

結果、ギンに乗るよりも遙かに遅いが、馬車より遙かに速い時間で街の門まで僕とルフィーネだけ先にたどり着いた。

さすがにヴォルフ、イワノフ、ライラを乗せるスペースが荷車にはなく、草原とはいえ街の外なので、万一に備えてけが人のヴォルフとイワノフだけにする訳にもいかず、ライラが周囲の警戒を兼ねてパーティーで街に戻ることになった。

僕は町の外で門番に、森の中で冒険者がキンググリズリーに襲われ怪我をしたこと、あとから3人戻ってくるが、一番重傷の一人だけ急いで先に街に戻ってきたことを説明する。

門番は森にキンググリズリーが出たことに驚き、場所は森の浅いところと聞いてさらに街を襲ってこないか心配し、僕の「森の奥に帰って行った。」という説明に安堵し、ギンの姿におびえたものの、ギンに従魔の証のアンクレットがついていること、ムートは街中サイズのため、恐怖感を与えないこと、冒険者証がある以上、犯罪者でない限り、街への入場を拒否されないことから、無事に中にはいることが出来た。

僕たちは冒険者ギルドには寄らず、そのまま街の中心ではない方の広場に向かった。街を出る前に、ギンが一緒に泊まれる宿がないために聞いていた、宿に泊まるだけの稼ぎがない冒険者のためにさらに安い料金で水場とトイレだけ共用にしているテント村があるのだ。

僕はテント村の入り口で利用料金として一日銀貨1枚、10日分で大銀貨1枚を支払、今日の日付と有効期限が過ぎる最終日の記載のある札を受け取り、入り口から一番遠い区画に野外オペルームを設置した。

異次元ポケットはまず見ない魔法ということで、面倒ごとを呼び込むおそれがあると教えてもらったので、マジックバックから取り出すフリをして、オペルームを出しているが、それでも8畳の部屋くらいある大きさのため、まるまるはいるマジックバッグも十分高価なものに見えてしまうのだという。

まあ、こればかりは仕方ないと思うことにする。

荷車は、テント村の前に置いておくと盗まれるので、入り口の受付に事情を説明して、テント村の中まで運び、オペルーム入り口でお姫様抱っこして、オペルームの手術台に移す。

「なっ」とルフィーネは驚いて俯いてしまったが、まあ我慢して欲しい。

荷車は異次元ポケットに収納し、そのままオペルームに入ると、入り口ファスナーを閉めてしまう。これによって外部からの侵入が不可能となり、同時にドラゴンブレスすら寄せ付けない要塞となる。見た目は只のビニールハウスなのに、剣も魔法も寄せ付けない不思議アイテムである。アルテミアス様が気合いを入れすぎて、おかしな仕様になってしまっていたが、野外でこれ以上安全な拠点もなく、とても便利なミニハウスである。

僕は、荷車の強行軍で、ルフィーネの容態が悪化していないか、傷口が開いていないかをチェックし、ルフィーネに問診をした後、体調に変化があったら、躊躇せずに知らせてとだけ伝えて、もう一つのベッドで寝ることにした。追って他の3人も来るだろうが、ルフィーネが意識を取り戻した今は、24時間神経を張りつめる必要は無くなっている。休めるときに休まないといつ休めるか分からない。

僕は横になった途端、すぐに意識をなくしていった。


目を覚ますと、外は明るくなっていた。

うっかりそのまま朝まで寝てしまったらしい。疲れがたまっていたとはいえ、ギンとムートとプルンのご飯を忘れたまま寝てしまうなんて、僕は3匹にあわてて過った。「ご主人ー気にしなくていいよー。」「主殿、我らは元々人間の取る食事は嗜好みたいなものぞ。大切なのは主殿の側にいて、余剰の魔力のお裾分けを頂くことにある。細菌主殿は魔力を費消することもないので、昨晩はちょっと多めに頂くことが出来た。我とムートはここ数日の魔力消費が多かったので、ムートも満腹になるまで主殿の魔力を吸収させてもらっている。それにしても主殿の魔力は底知れぬな。我とムートの魔力を満タンにしてなお、一晩で回復するとか、およそ人であることを忘れてしまう。」「あるじ、あるじの魔力が一番美味しい。ご飯も美味しいけど、やっぱりあるじの魔力が一番」

プルンが気の抜けたようないつものしゃべり方だったけど、ルフィーネの治療のために分裂して、造血して、それなりに魔力の消費も多かったし、スライムベッドで荷車の揺れを押さえてくれた。ギンとムートはキンググリズリーの牽制からあの態度の悪い冒険者を追い払うところまで、ちょっと多めに魔力を消費したと言っていたが、やはりムートもギンも強大な力をもった魔物であり、費消する魔力も膨大なものになるというが、幸い全員の魔力を補充してあまりある魔力をアストレアス様に授かっている。

3匹の優しい言葉にほっこりしていたところに、ライラほかダイバー・シティの残りのメンバーが合流した。彼らは昨日閉門までに、街に戻ることが出来ず、門の前で野営したらしい。日没と共に閉門するので、彼ら以外にも普通に門の前で野営する人はたくさんいる関係で、野外とはいえ、門の前はそこそこ治安がいい。門番は門を開けず通行人を街に入れないというだけで見張りは日夜通じて行われており、夜間に魔物が街を攻撃してきた場合、門を死守し、街を防衛するため待機しているので、そう滅多なことで夜間だからといって門の前にいる人たちが魔物に襲われることはない。

朝、開門と同時に街に入りまっすぐテント村を目指して来たため、まだ冒険者ギルドには寄っていないとのことである。

冒険者ギルドも日の出と共に営業を開始するので、テント村による前に立ち寄ることは出来たが、ルフィーネの様子が心配とのことだった。

ルフィーネはまだまだ安静が必要とはいえ、快方に向かっていることが分かった野で、メンバーは安心し、ライラとイワノフがギルドにフォレストボア納品依頼の失敗を報告しに行くことになった。

僕はギルドにいたときにライラの求めに応じてダイバー・シティの救援に向かったことで、ギルドに報告しなければならないことは何もないので、肋骨に罅が入っているヴォルフとまだ起きあがるのは難しいルフィーネの主治医として付いていることにした。


ギルドに行ったと思ったはずのライラが、ギルドの職員と一緒にすぐに戻ってきた。

心なしか、ライラの顔色が悪い。

「どうしたライラ、なんか変なもの拾って食べたか?」

「こんな時によくまあそんなこと言えるわね。」

ライラが少し驚いて言葉を詰まらせた後、青ざめていた顔が赤くなって怒り出した。

うーんよかれと思ってボケて見たが失敗か?

と、そこへ、同行していたギルド職員、正副を来ているので受付の一人だと思うが、が僕に向かって話しかける。

「ケントさんですね。サブギルドマスターが話を聞きたいと申しています。お手数ですが、ギルドまで来てもらえませんか。」

言葉遣いは丁寧なものの、どこか有無を言わさない雰囲気と、少し上から目線で発現しているように感じられた。

この街ではまだ何もしていないはずなんだが、それにサブギルドマスターって何だ?サブっていうくらいだから一番偉い訳でもないだろうけど、なんか役職付きの人に呼びつけられて今まで良いことがあった試しがない。前世から合わせて。

「えーと、今そこのライラの仲間である女性冒険者が瀕死の状態だったところをなんとか治療して一命を取り留めた状態で、目が離せないんです。要件があるなら、ここで話してもらう訳にはいかないですか?ギルドに行っている間に彼女の容態が急変すると命に関わるんで。」

それを聞いたライラも心配そうにギルド職員の顔を伺うが、職員は、「ケントさんに犯罪の嫌疑が掛かってまして、ご自身の立場をご説明頂く必要があります。」

「えっ? 犯罪の嫌疑?全く心当たりはないと言いたいところだが、シリウスの町であの場か貴族が失禁した件だろうか?

そもそもこの世界には正当防衛という概念は存在しないのか。それとも貴族は何をしても許されるとか。

それにしても、もしあれが犯罪だというのなら、この街に入るときに犯罪歴のチェックをギルドカード提示の際にしているはずだが。まあ面倒ごとの予感しかしないけど、欠席裁判はもっと質が悪いので、やむを得ず同行することにした。

ヴォルフに、ルフィーネの容態で急変した場合に気をつけるところ、具体的には発汗が多くなった場合と脇腹の痛みを訴えた場合には、すぐにギルドに呼びに来て欲しいと伝えた。

この段階で警戒すべきは、傷口から雑菌が入った場合の感染症と、血管縫合に使用した縫合糸を異物と判断した場合の腹膜炎である。

特に腹膜炎は緊急を争うので、わずかでも違和感を訴えたら我慢しないですぐに申し出て欲しいと伝えておく。手遅れになれば命にも関わる。脅したくはないが、ここまで手術して、持ちこたえた命、肝胆に散らしたくない。技術も医師も圧倒的に足りないこの世界では、怪我や病気で簡単に失われる命が多すぎる。アルテミアス様の悩みと心労を軽減することが、人生のやり直しの機会を与えて頂いた僕のこの世界での存在意義でもある。

後でこの街でも修道院に礼拝に行こう。



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