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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード17

気がついたら朝になっていた。根落ちしてしまったらしい。

よだれを垂らしながらオペルームのベンチに腰掛け、壁にもたれかかっていた僕は、現状を把握し、瞬時に目が覚めた。

(まずい、患者の容態を確認していない!)

あわてて、手術台の一人と一匹の元へ駆け寄る。

女性冒険者はまだ意識を取り戻していなかった。容態は最後のチェックから変わっていないようだ。僕はほっと胸をなで下ろす。

一方子熊の方は、もぞもぞと動き出していた。その振動で子熊が意識を取り戻したことに気付いた親熊が子熊の体を一生懸命舐めていた。

僕はおそるおそる近づくと、親熊に、「子熊の様子を見るけど、いいかな?」と声を掛けて怖々手を近づける。噛みつかれたらどうしよう?そもそも麻酔切れてるよね?暴れるかな?と不安で一杯だったが、もし暴れるならもう暴れているだろうと無理矢理自分を納得させて、子熊の首筋に手を当ててみる。

すると子熊はくすぐったがるように、僕の手を巻き込んで、顔を腕にこすりつけ「きゅーん」と鳴いた。

(か、かわいい)大きすぎて怖すぎる親熊に対し、ぬいぐるみ、というのはちょっとおおっきいけどそれでも大型犬サイズにとどまる子熊が僕の手にじゃれつく姿は前世でペットの飼えなかった僕にはある種の庇護欲を満たしてくれる光景だった。

どうやら危機が脱したらしい。

その僕の安堵の気持ちが親熊にも伝わったのだろう。僕が危害を加える存在ではないと知って、親熊もおとなしかった。

重体患者の一人と一匹の回診を終えると、腕の骨を折った背の低いがっしりした男性と、獣の耳と尻尾を持つあばら骨を折った男性の容態も確認する。こちらは意識もしっかりしていた。

「改めて礼を言わせてくれ。オラはイワノフ、見てのと居りドワーフだ。それにしてもオラをたたきのめしたあの熊が、目を覚ましたとき同じテントの中で寝ているのを見た時は心臓が止まるかと思ったぞい。」背が低く、がっしりした大盾持ちの男性冒険者は名前をイワノフというのだそうだ。ドワーフ、が何かはよく分からない野田が、話の流れからすると、グルー王の名前か何かなのだろう。

「助けてくれてありがとう。オレはヴォルフ、見てのと居り狼獣人だ。ライラに聞いたよ。あんたがルフィーネの治癒をしてくれなければ、あいつは間違いなく死んでたって。あいつは俺たちのかけがえのない仲間なんだ。治療代は一生掛かっても必ず払う。」

「まずは安静にして傷を治すことを最優先に考えろよ。ところで、ライラって誰だ?ルフィーネって誰だ?話の流れからはルフィーネってのは、まだ意識が取り戻せていないそこの血手術台に寝ている女性のことだろう。ならライラというのは冒険者ギルドに応援要請に来た女のことか?」

「ああ、そうだ。ライラはパーティーの中で一案足が速いんだ。間に合ってよかったよ。あんたを呼んできてくれたんだ。最高の仕事をしたというところだ。」

「ほめられても何も出ないぞ。にしても、ライラはギルドでさんざん罵倒されていたが、あれは一体何だ?」

軽い気持ちで尋ねたのだが、ヴォルフはそれを聞いた途端顔を曇らせ、俯いてしまった。

「オレもライラも同じ国の出身でな。獣人というのは人と獣の混血で、それぞれを祖先のどこかに持つんだが、人間の中には、そういう存在を忌み嫌い軽蔑するやつが結構いるんだ。」

「ばからしい話だな。」

僕の言葉にヴォルフは驚いたように顔を上げる。「あんたは俺たちのことを何とも思わないのか?」

「何言ってるんだ。僕はあんたたちと会ったのは今回が初めてだろう。危害を加えられた訳でもないのに、あんたらを嫌う理由がどこにあるんだ?」

「そ、そうか・・・そんな人間もいるんだな。」ヴォルフは絞り出すようなかすれ声でそう呟くと、俯いたまま、静かに涙をこぼした。

「ありがとう。人間に優しくされた記憶が生まれてこの方なくてな。ちょっととまどってしまったみたいだ。」

「よく分からないけど、つらい思いをしてきたんだな。気持ちは分かるとはとても言えないけど、今は怪我を治すことに全力を傾けよう。怪我が治れば冒険を続けることが出来る。それが一番だ。」

僕はそっと肩を叩き、その場を離れた。朝ご飯の準備だ。

器が一度に全員の分用意できないので、僕とプルンとライラは後回しだ。

子熊とルフィーネ?だっけ?はまだ経口での食事は無理だから、ストックのスープをよそって、イワノフ、ヴォルフ、ギン、ムート、親熊に配る。親熊の皿はギンやムートの予備を、イワノフとヴォルフは僕の器と予備を使っている。街に戻ったら食器の数は増やしておこうと思った。

イワノフは「酒が飲みたいのう」とぼやいていたが、「骨居ってるんだぞ。酒は当面禁止だ。治るものも治らなくなるぞ。」と医師の忠告ってやつをしておいた。冗談抜きでアルコールは人体の損傷回復の悪影響を与える。

子熊は意識を取り戻したとはいえ、まだ固形物で栄養補給には時期尚早だろう。

体力回復ポーションも使い果たしてしまったので、点滴経由も難しい。

と、そういえば山羊のミルクがまだ少しだけ残っていたことを思い出したので、カップに山羊のミルクを注ぎ、注射器の針を外して、シリンダーにミルクを吸入する、

親熊を刺激したくないので、言葉が通じるとは思わないが、親熊に話しかけ、子熊に食事を与えると断ってから、そっと子熊を抱きかかえる。「キュー」と鳴き声を発したが、子熊は腕の中でおとなしくしていた。親熊もじっと僕の腕の中にいる子熊を見ているだけで、特に暴れる訳でもなかった。僕は子熊を抱えた状態で、子熊の口元に注射器を持って行き、中のミルクを押し出す。

すると、子熊は目を大きく開いたかと思うと自分から顔を突き出し、注射器の口の部分を舐め出した。

そうやって何度も何度もミルクを吸入しては、子熊の口に運び、カップのミルクを子熊が全部飲みきるまで否時差行を繰り返したが、前世でアパート暮らしでペットの飼えなかった僕は、腕の中の熊が今いる森の食物連鎖の頂点に立つ危険な生き物えだることをしばし忘れて、食事の介護を楽しむのだった。

子熊はミルクを飲み終えた後も、まだ物足りずに、甘えるように僕の胸の中に顔を埋めて擦りつけるが、プルンとライラの食事がまだなので、一端子熊を親熊の元に返し、空いた皿を回収して浄化し、ライラとプルンと僕の分をよそう。

プルンは床に置いた皿に覆い被さり、プロプル震えながら「ご主人の料理おいしー」と伝えてくる。

ライラはものすごい勢いで食べ始め、最初こそスプーンを使っていた野に、途中から直接皿に口を付けたまま傾け、一気に口の中に流し込んでいた。

僕は横目でその光景に苦笑いしながら、自分の分を食べ始めるが、すぐに子熊がよちよちと歩いて、僕の皿に手を伸ばそうとしてきた。

(食欲があるのは、良い傾向だ。)

僕はため息をつきながら、子熊を再び抱きかかえると、僕はスプーンで、子熊には注射器で、スープを交互に口の中に運ぶ。2回に1回は自分の口に入れてもらえるので、子熊もおとなしくなった。

そして今度こそ本当に食事が終わると、子熊はお八熊の腕の中に戻って眠り出した。

親熊もそれを確認して、子熊と一緒に目を閉じる。

冒険者たちはその光景に驚いていたが、親熊を宥める唯一の方法だったことから、自分たちが助かるにはこれしかなかったことを理解し、目の前の状況を受け入れることにした。

助けた冒険者たちとこの先お予定、より具体的には重症患者の退院予定見込みなどを話し合おうとしたそのときだった。

「主殿、警戒してくれるか。」

突然外からギンの声が聞こえた。僕は慌てて外に出る。

「いや、中にいてくれ、って間に合わぬか。ムートよ、我も万全を期すが、お主も主殿の安全を第一に考えてくれ。」

「分かってるよ。任せて。」

その会話を聞いていなかったであろう、木々の間から男女二人の冒険者がニヤニヤしながら、こちらに近づいてきた。

ギンが前傾姿勢になり、威嚇したところで、ギョッとした顔をしながら立ち止まるが、まだ顔には下卑た笑いが張り付いていた。

戦闘を歩いていた男が一歩前に出ると、突然口を開く。

「横取りした俺たちの獲物を返してもらおうか。」

(はぁ?)一体何の話をしているのか。

僕は目の前の男が何を言っているのか見当もつかなかったので、眉間にしわを寄せたまま固まったが、それを見た男は、憤ったように、「オレの命令が聞けないってのか。俺たちが戦って弱らせたキンググリズリーをおまえらが横取りしたんだろう。今すぐ、討伐証明の魔石と爪と毛皮をよこせって言ってんだ!」

「なるほどな。」僕は未だに意味が分からなかったが、前にいたギンが言葉を発した。

そのことに目の前の冒険者たちは驚きの声を上げた。

「おい、この魔物人の言葉を話すのか。話にしか聞いたことないぞ。」

「これはいい。珍しいだろうし、毛皮も高く売れるだろう。」「おい、そこの男、このばかでかい狼はおまえの従魔か?感謝しろ。俺たちがもらってやる。アンタレスのギルドでトップの俺たち、「英雄の集い」が有効に利用してやるって言っているんだ。だまって差し出せばおまえの命だけは助けてやる。従っておいたほうがおまえのためだぞ。」

何を言っているのかまだよく分からないが、少なくともギンを殺してその毛皮を売り飛ばすとほざいたことは分かった。

僕は目の前の男らに対する怒りが腹の底からこみ上げてくるのを感じ、反論しようとしたが、それよりも先に、ギンと並んで僕の前にいたムートが口を開く「ねえ、ギンのおじちゃん、今こいつらあるじを殺すって言った?こいつら頭おかしいの?」

「お、おじちゃんっていうな。」ギンは慌てたように訂正する。

(え、)今そこを気にしている場合なの?)

「昨晩痛い目にあったはずなのだがな、懲りていないらしい。」

ギンはため息をつきながら振り向いて「主殿、こやつらは昨晩主殿とテントの外で夕食を食べていた時に木々の隙間からこちらを狙ってた奴らだ。ムートに吹き飛ばされた野田が、性懲りもなくまた来たらしい。そして今の話から、あの子熊に惨い傷を負わせて、親熊をおびき出し、あの冒険者たちになすりつけて、弱ったところをとどめを刺すつもりだったらしいぞ。」

僕はその言葉を聞いて、頭に血が昇り、おかしくなりそうになったが、怒りにまかせて、変なことを口走らないよう、一度大きく深呼吸をした。

すると、そこに追い打ちを掛けるように、目の前の男が「おお、そっちの小さいのは何かと思ったらドラゴンの幼体か、しかも人の言葉も話すんだな。こいつはいい。貴族に高く売れるぜ。一生遊んで暮らせるぜ。おい、おまえ、そのドラゴンは生きたままもらってやる。お情けで命はとらねえ。ありがたく感謝して今すぐ差し出せ。」

「そうだ、おまえもこんなところで死にたくないだろ?」「キャハハ。この二人は強いのよ。言うこと聞いた方がいいわよ。」今まで喋っていた男の他に、もう一人斜め後ろにいた男とローブを着て杖を持った女も口を出してきた。

「もういい黙れ。」「はあ?」「黙れと言ったんだ。」

僕は言葉を噛むようにゆっくりと吐きだした。

「ギン、ムート、ごめんね。難しいことをお願いするようだけど、一応僕の仕事は生き物の命を大切にすることだから、こんなひどいことを言った奴らだけど、殺さないように、追い返してくれないかな。危なくなったら、手加減出来なくても仕方ないけど、そのときはこんな奴らでも助けなきゃいけなくなるから、出来ればそうならないようにお願い。」

自分でも無茶ぶりだと思うけど、あの親熊のキンググリズリーですら圧倒してしまったギンとムート、目の前の男らは、子熊を痛めつけることは出来ても自分たちの実力では親熊には太刀打ちできなかったのだろう。だから他人になすりつけたのだろう。そう考えると、ギンやムートとの実力差は大きいのではないか。

何かあった場合は、すぐにギンとムートにオペルームに入ってもらい治療するけど、そんなこと想像できないほどギンとムートの力はこれまでも圧倒的だった。

「ふっ、主殿も人が良すぎるのう。」「うんそうだね。でもそんなあるじだから大好きだし、一緒にいなきゃって思えるんだよ。」「そうだな。ムートよ。今回は我に出番を譲ってくれ。お主の起こす風の刃は当たる場所を間違うと胴と首が分かれてしまい、主殿の希望に応えられなくなるからのう。」「そっかー。これだけ近い距離だと、確かに命まで補償できないや。でもそういうギンおじちゃんも、大丈夫なの?」「だからおじちゃん言うでない。お兄ちゃんと呼べ。」「それちょっと無理ない?」「う、うるさいわ。」

「おまえら、舐めるのもいい加減にしろ!」

漫才になりかかっていたギンとムートの会話を前に、こめかみを引く尽かせた、男は持っている剣をギンに向かって構えつっこんで来た。

「今大事な注意をしているところだ、もう少し待っとけ。」「ぶほっ」ギンはそういうと前足をけだるげに払う。テイクバックは緩やかだったのに、振り払われた前足は残像を残して、ギンお動きが止まったと思うと、男の持っていた剣は柄の根本から音もなく二つに分かれてその場で地面に落ち、柄を手にした男のプレートの鎧の胸の部分が陥没した状態で10mくらい後ろにあった木まで吹き飛ばされていた。

「へ?」目の前で怒った出来事が頭の中で処理できずに、変な声が出た、もう一人の盾と手斧をもった男も、次の瞬間、手斧がやはり持ち手と刃の間の付け根信分から二つに分かれ、鎧の脇腹の部分がひしゃげたまま、最初に飛んでいった男の後を追って、同じように飛んでいった。

最後に残ったローブを来た女は「え?え?」と目の前の出来事に理解が追いつかずに首を小刻みに振って震えていたが、ギンが「ガルルルル」と吠えると、「ひっ」と短くうめいてその場で気を失って倒れた。ローブの裾、股の部分がシミになっており、悪習が広がる前に眉間にしわを寄せたギンが、女性の首根っこの部分をつかんで、先に飛んでいった男らに向けて放り投げ、一応腐っても女性であることに配慮したらしく、先に飛んでいった男に重なるようにぶつかり、そこで止まったので、衝突による外傷は少なめに済んだようだった。

「主殿、死なない程度にしておいたぞ。」

「あ、う、うん、ありがとう?」

結局なんだったんだろう?と疑問が頭から離れないまま、僕たちはオペルームに引き返した。



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