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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード13

ギンは軽く早足で歩いているだけだと言うが、周りの景色が目にもとまらぬ速さ出牛路に流れていく。

街道を外れて走っているのに、魔物に遭遇しないのは、きっと小耳に挟むほど、魔物は多くないのだろうと思って、ギンにそう話しかけるとギンからはれやれといったトーンで答えが返ってきた。

「主、この世界に魔物はそこそこいるぞ、特にこの辺りは人の住む町から離れているので、それなりの数は確認出来る。」

「そうなの?」僕は驚いて尋ねる。

「主が先ほどのゴブリンくらいしか目にしないのは、我とムートの気配をおそれて近寄って来ないからだぞ。昨晩だって、あんなに獣臭い臭いを辺りに振りまいていたら、普通は鼻の利く狼などにすぐに取り囲まれるぞ。実際遠巻きにかがってたしな。」

「えっ?」

「やっぱり気付いてはおらなんだようだの。狼は我の眷属のようなものだから、我と一緒にいる限り、襲われることはないが、野営のときにあれほど獣臭をまき散らす調理をするのは控えた方がよいぞ。まあ美味しかったので文句はないのだが。」

昨晩はようやく手に入れた大きな鍋でボアのあばら骨を炊いて豚骨スープを大量に創ったのだった。懐かしのラーメン店の臭いは確かにするのだが、逆にあんな臭い臭いを町中でばらまくのはと思い、野外で調理しようと思ったのだが、かえって仇になるらしい。全く気がつかなかった。

「それほど心配せずとも、我とムートがいるのだ、よほどのことがない限り、危険なことはない。主の料理は主の魔力に包まれていてとても美味だ。これからも主の料理を所望するぞ。」

「うん、僕もご主人の料理好きー」

いつの間にか、鞄の中からはい出てきたプルンがコートの襟から半身を出しながら相づちを打つ。

「僕も。」続けて肩口に移動していたムートも続く。

「毎日は飽きるから、また今度ね。」大きな鍋にたっぷり仕込んだ豚骨スープはまだまだたくさん残っている。それでも、少しずつ味を変えなければ、やはり毎日は飽きてしまう。

「贅沢な話だな。世の冒険者は塩だけで味付けしたスープと堅いパンと干し肉で旅の食事をまかなっているというのに」ギンはそういいながらも、それまで縁の無かった食事が楽しきみで仕方ないらしい。尻尾が激しく揺れていたのを僕は見逃さなかった。


ギンの早足は、馬車で3日掛かる道のりを10分の1で進む速度であり、日が落ちる頃、水平線の剥こうに大きな擁壁が見えて来たのだった。

夜には街へ出入りする門は閉じているので、僕らはあまり近づき過ぎず、街道から少し離れた場所で野営することとし、翌朝、開門と共に街に入ることにした。


オペルームにも朝日が差し込み、その明るさに目が覚めて起きあがる。

プルンがベッドについた僕の左手をよじ登り定位置の左肩に移動する。

ベッドの縁に腰掛けて、立ち上がるとムートも飛びついてきた。

いつもと変わらない朝の光景に一瞬野営中であることを忘れそうになる。

ファスナーになっているオペルームの入り口を開けて外に出る。

テントみたいな簡易さだが、なぜか、不審者は出入り出来ないようになっている。

構造の割に不思議なほどに安全な居住空間になっている。真偽は確認しようがないが、アルテミアス様に頂いたこのオペルームは竜の息吹にも耐えられるとのことで、緊急時にはシェルターになるとのことである。

もっとも竜の息吹なるものがどのようなものなのかは分からないんだけど。

こっそり僕は抱きついてきて今は胸の中で抱えているムートを見ると、ムートは不思議そうに僕を見上げ、首をかしげる。

ギンは外に出ていて、前足を伸ばし、上体を後ろに預けて大きく伸びをしていた。

軽いストレッチのつもりなのだろうが、ちょっとした地震くらいの揺れが周りに生じる。

オペルームの中は衛生上の理由で飲食を避けるようにしているので、僕は異次元ポケットから、朝食用のパンと野菜とチーズを取り出す。

ギンとムートは谷中に僕が寝ている間に僕の魔力を補充するので、特に食事はしなくても良いらしい。まあ、一生懸命創る料理は一緒に食べるとより美味しく感じるので、出来るだけ食事は共にしたいと思うが、できあいのもので軽く済ませる食事は特に食べて美味しいものでもなければ、食べなければならないというものでもないらしい。


食事を済ませた後、僕たちは昨日水平線に見えた大きな擁壁の街に向かって歩き出す。

街の近くには閉門に間に合わなかった人たちが野営するので、僕たちはトラブルを避けるために、ちょっと距離を置いて、かつ街道から外れて野営していたので、少し距離はある。

無論門の前で野営する方が魔物に襲われにくく、より安全に過ごせることから、閉門以後も街を目指す人たちが後から街の前に集まってきてめいめいに野営をしている。


僕らは、街の前に陣取って一晩過ごし、翌朝開門と同時に街に入ろうとしている人たちの行列が一段落する頃を見計らって街に入ることにした。

そうやって時間を調整しながら、街の門の前にたどり着くと、そこには緊張した面持ちの兵士たちがそれぞれに槍や剣を構えて、僕たちをにらんでいる。

隣にいたギンの殺気があふれ出し、一層の緊張感をもたらしている。

僕はギンを制止ながら、門の前に並ぶ兵士の中央にいた一番偉い人らしき人に話しかけることにした。

それでも何かあった場合に、切られるのは嫌なので、あまり近づき過ぎないように、何かあったら庇ってね、とギンとムートに頼んでから、おそるおそる進んだ。


「私たちが一体何をしたというのです。なぜ、このように取り囲まれなければならないのですか。」

僕はあまり近づきたくないので、少し離れたところから声を張り上げて、尋ねた。

「そちらの魔獣は貴殿の従魔なのか?」

真ん中にいる人が僕の問いかけに答えることもなく、質問してきた。

「そうです。登録もしています。」

僕はシリウスの街の冒険者ギルドで、ギンとムート、そしてプルンを登録していたことを思い出しながら、答える。

「そ、そうか。我等は街の安全を担う者として、人々に危険をもたらす魔獣が街に接近してきているとの通報を受けて、警戒しておったところへ、お主が後ろの魔物を引き連れて現れたので、防御態勢を敷いていたのだ。そちらの従魔は本当に貴殿の獣魔なのだな?知っていると思うが、従魔が街の中で問題を起こした場合、主人がその責任を負うことになる。そのことを承知した上で従魔の手綱はしっかり握っておくように。」

真ん中の一番偉そうな人がそう告げると、僕の身分証明書であるギルドカードを確認し、「本当にフェンリルを従魔にしているのだな、まあドラゴンは幼体だから、珍しいとはいえそれほど脅威でもないだろうが、それにしても・・・」とぶつぶつ言いながらもカードを返してくれて、僕らは街の中に入ることが出来た。

街の中は門や擁壁の大きさの違いはあるものの、シリウスの街とよく似ていた。

正面の門をくぐると、そのまままっすぐ広い道が奥に向かって伸びており、遠くに噴水が見えた。噴水の周りが広くなっていて、きっとそこが商業の中信なのだろう。

宿や各種ギルドなどは街の入り口に集中しており、街を中継点として各地を転々とする冒険者は正面の門を入った周辺で用事が足りるようになっていた。

僕は今のところ、特別行く当てもない旅を続けていたので、とりあえず、市場に行って食料を中心に買い物をしようと考えたが、目抜き通りの両側に構えられた店舗は町の人が利用する店というよりは、お金持ちや高位の冒険者が利用するような小綺麗な店だったので、市場や屋台を探そうと考えた。

併せて、あまり期待はしていなかったが、ギンやムートと同じ部屋に泊まれる宿もあれば宿に泊まるのもいいかなと考えていた。

もしもの場合は街を出て、その辺の野原で野宿してもいいのだけど、やはり安心して夜休むことを考えれば宿に泊まりたい。

そこで、まずは宿の情報を教えてもらうのと、市場や屋台が並んでいそうな場所、宿が無理な場合には町中でテントを張って良い場所があるか、などを尋ねるため、冒険者ギルドを訪れることにした。

シリウスの街の冒険者ギルドには数えるほどしか立ち寄らなかったけど、世界中のギルドが同じシステムであること、ギルドのある街では、比較的正門の近くにギルド建物があることなどを知っておくべき基本的な内容として教えてもらっており、門を入ったところで、すぐにギルドの場所は分かった。それでなくても周囲の建物より大きく、全国共通らしいギルドのマークが入り口の扉にも看板にも記されていたからである。


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