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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード12

僕が薬草を採取している間、プルンは異次元ポケットのダミーとして持っている鞄の中で寝ていた。ムートとギンは一応周囲の警戒にあたっていることになっている。

骨からスープを取る鍋の中から獣臭い臭いがあたりに広がるので、臭いにつられて、魔物が寄ってくる可能性があるというのだ。

もっとも、エンシャントドラゴンとフェンリルの気配を感知して近づこうとする魔物など街道近くの草原にいるはずもなく、のどかに時間が過ぎていった。

水を足しながら煮込むこと4時間、白濁したスープは僕の知っている豚骨スープの香りをしていた。時々アクをすくいとり、地面に堀田穴に埋めていくことで、臭いも落ち着いてきた。

僕は大きな鍋を日から下ろして、小さな鍋1杯分のスープを代わりに火に掛け刻んだ野菜と、薄切りにしたボアの肉、小麦粉を練って作ったえせうどんを煮込んでいく。

お昼も大分過ぎたが、プルンもギンもムートも、寝ている間に僕の魔力を食事として得ているので、どうしても食事が必要な訳ではないので、お腹がすいたなどと行ってくることもない。

できあがったところで、食事にする。野菜と肉の入った豚骨スープにうどんぽいものを添えるとなんとなく身と野津ラーメンのような、水炊きの〆にうどんを入れたもののような料理ができあがる。食事が必要ないとはいえ、食べることが出来ない訳ではないので、プルンたちの分もよそってみんなで一緒に食べる。

食事はおおぜいで下法が楽しいし。

食事が終わったところで、街道に戻ろとうとしたところで、ギンが、「急ぐ旅ではないにせよ、歩いて次の町に行くには時間が掛かりすぎるだろう。主なら背中に乗ってもらうのは歓迎だ。」と背中に乗せてくれると申し出てくれた。

僕は前世で馬にも乗ったことがなく、まして狼に乗って走ることなどなかったのだが、期待するようにこちらを見てくるギンに断ることも出来ないので、おそるおそる乗った。

「しっかり捕まっていてくれ。」という言葉も終わる前に、周りの景色が流れ出した。

不思議と風圧はなかったが、あまりの速さに目を開けていることもできず、目を瞑ってしがみついているのが精一杯だった。

しがみつくのに必死だったが、それほど時間もたたずに、ギンから「主、ついたぞ」と声が掛かったので、おそるおそる目を開けてみると、森から草原に出る出口だった。

草原の剥こうには街道があり、そして街道が交差するところに、街道を往来する者のための野営地となる広場があった。

フェンリルのような大型の従魔に乗って異動するところを見られるのは、大騒ぎになるので、街道を外れた森の中を走ってきたらしいのだが、予定では後2日かかるはずの街道の交差にわずかな時間でついてしまっていた。日没までの時間を考えると、ほんの2,3時間で馬車なら1日、徒歩なら2日かかる距離を異動したことになる。

野営地には、何組かの人が野営していた。

しかし、いくら従魔を連れている冒険者もいるとはいえ、フェンリルやドラゴンなど、遭遇して生き延びることなど不可能な存在であり、大騒ぎになることは疑いようもない。

無駄に目立つことは開けたいので、街道沿いの野営地を避け、僕たちは草原を挟んで街道の反対側の森の入り口付近に野営することにした。

カルマ値10000ポイント突破の報償として女神様に頂いた仮説オペレーションルームはギンがそのまま出入り出来て、オペ用のベッドは、そのまま寝具として使える優れものであり、野営用のテントを兼ねることが出来る。

地面に毛布を敷いて寝るこれまでの野営に比べたら、それこそ天と地の違いで、固い地面に寝て筋肉が固まることもない。

ギンと一緒に宿に泊まれない不都合も解消され、メリットしかなかった。

疲れていたのだろう、横になった途端、僕はそのまま意識を手放した。


「知らない天井だ」

何かの物音がしたような記がして、僕のまぶたが少しずつ開いていく・

まだ寝ぼけ眼の目の中に飛び込んで来た光景は、木造の建物の天井とは異なる無機質名白いふらっとな天井だった。


・・・まあ、アルテミアス様に頂いた移動式オペレーティングルームの天井だと気がつくまでにさほど時間も掛からなかったのだが。

と自分で一人完結していた僕の耳に、低音のうなり声が聞こえてきた。

あわてて音のするほうに目を向ければ、ギンが出入り口に向かって首を地面に向けて垂らし、殺気を放っていたのだった。


「・・・どうしたの?」

僕はあわてて尋ねると、ギンは軽くため息をつきながら、首をもたげ、僕の方を振り返り、「主を起こしてしまったのか、申し訳ない。」

そう語り出すと、再び出入り口に向き直り、

「先ほどまで、ゴブリンが出入り口を棒で叩いておったのだが、刃が立たないと見て、今は取り囲んでいるのだ。」

そういってさらに深いため息をつくと

「奴らは彼我の実力差も理解するだけの知能がないからな、我等に突っかかってくるなど、自殺行為でしかないのだが。」

いつの間にか隣にはムートが並び立ち、牙を剥いている。オペルームのテントに併せて小さくなってもらっているので、本人は精一杯威嚇しているつもりなのだろうが、ちょっと可愛く見えてしまう。

「主はここにいてくれ、我がちょっと行って静かにさせてくる。」

「僕も行く。」すかさずムートが自分もゴブリンを相手にすると言い出す。

「ムートよ。気配からして、ゴブリンの数は3匹。フェンリルである我とアンシャンとドラゴンであるお主とがそろって相手にする敵ではないぞ。過剰戦力にもほどがあろう。」

「なら、僕一人でやるー。」

ムートはあくまで戦いを譲らないとばかりにギンに対抗する。

「えーと、ちょっと良いかな?」

二匹の様子を見ながら、僕が二人の間庭って入る。

「ゴブリンって何?静かにさせるって何をしようとしているの?ゴブリンって食べられるの?」

僕は医者だ。この世界では医術が全くといって良いほど進んでおらず、代わりによく分からないポーションというものが怪我や病気を治す役割を果たしているが、それでも医者になるとき、命の尊さを知り、擁護すると誓ってその職業についた。人に限らず生き物は自分が生きるために他の生物の命を奪うことを宿命付けられており、その業まで否定するつもりはない。ましてこの世界は狩猟によって食べ物を獲得している分、他の生き物の命を奪うという行為がとても身近にあることは、まだこの世界に来てわずかな時間しか経過していない僕にも十分理解出来る。

けど、いくら襲わないと襲われるという人と魔物との関係があったとしても、町中ではなく野営し、彼らのテリトリーにおじゃましているのはこちらである。出来ることなら、無駄に傷つけることなく、逃げられるものなら、逃げたい。お互いに傷つくことなくそれで済むならそうしたい。

どうしても避けられない戦いなら、食べ物になるのであれば、いずれにしたって、誰かが食用のために戦わなければならないのだから、それが僕たちであっても、それは生き物の性と考えてよいのではないか。

ぼくはギンとムートにそう伝え、可能なら傷つけることなくこの場を離れたいと伝えた。

ギンは盛大なため息をつき、「フェンリルがゴブリンに背中を見せるなどというのは、不名誉でしかないのだが・・・」とぶつぶつ小さな声で呟いたが、「それでも主の頼みとあらば、仕方有るまい。ムートもそれでよいな。」

ギンはムートに声を掛けると、その場にしゃがみ込み、僕とムートに背中に乗るように告げた。

僕たちは、オペルームを出ると、ギンがゴブリン?を威嚇して足止めしている間に、オペルームをそのまま収納して、そのままゴブリンの包囲網を破って一端森の中にゴブリンを引き連れて入り、すぐにゴブリンが森の外に出てしまわないくらいに森の中まで引き連れたら、そこから距離をとって、大きく迂回して森の外に出る作戦を組んだ。

昨晩、街道沿いの野営地から距離をあけてキャンプを張ったとはいえ、すぐに置き去りにしてしまうと、街道の人たちに迷惑が掛かっても良くないということになったからである。

ギンの背中に乗ると、ムートが嬉しそうに肩に乗ろうとして、ギンに、ゴブリンを引き離すまでは急に激しい動きをすることもあるから駄目だと怒られ、寂しそうにギンの肩周りにしがみつく僕の腕の間に収まった。

プルンはどこに、と見回したら、プルンは肩からたすきに掛けた鞄の中に収まっていた。

準備が出来たところで、僕はギンに合図する。

「3,2,1、よし」

合図とともに、僕たちはオペルームの外に出る。

ギンが大きく吠えると周りで何かが後ずさる音がしたが、僕は外に出るとすぐに後ろを振り向いて、オペルームに向かって手をかざし、異次元ポケットに収納と頭の中に念じる。

原理は全く分からないが、かざした手に吸い込まれるように一部屋まるまるの大きさのオペルームが消えていき、頭の中にオペルームのイメージが浮かぶ。

僕は再び前を向き、ギンに収納が終わった合図をする。

と同時に進行方向にそれを見つけた。

それはどう見ても、栄養状挙の良くない老人の姿だった。

身長は1m2,30くらい、背中が曲がった高齢の老人と同じくらいの大きさだった。

髪の毛がまったく見あたらない頭は人間の頭蓋骨と同じ形状で、特徴的なのは耳の上部が鋭角に後ろに流れているが、それでも耳だと分かるくらいには集音に適した形状をしていた。ただ、肌の色が土色というか、青緑で、それはどうみても末期の肝硬変の患者が肝臓の機能も腎臓の機能も失い、二日に一度人工透析を必要とするような肌の色であった。

「病人じゃないのか?」僕はギンに問いかけるが、ギンは僕が何を言っているのか全く理解出来ないようだった。

3匹のゴブリンなど、警戒にも値しないと、ギンはあくびをしながら飛びかかってくるゴブリンを交わし、その間をすり抜けると、森に向かって歩き出した。

ギンが本気で走ると一瞬にしてゴブリンを置き去りにしてしまうため、森の中まで引き連れるには、心持ち早歩きする程度に速度を調整しなければならないらしい。

僕がギンの背中に乗ったまま、後ろをゴブリンがついてきているか時々振り返ると、醜悪な顔をしたそれが、手に持った棒を振り上げながら、走って追いかけてきていた。僕はそれを見て恐怖を感じながら、決して振り落とされまいと、ギンにしがみついた。

森の中に入ると、ギンは木を避けるように蛇行して進むようになるので、もはや後ろをふり見ている余裕はなく、目を閉じて体をギンの背中に押しつけしがみついていた。

しばらくすると辺りが急に明るくなったような気がした。

ギンが「主、もう楽にしてよいぞ。ゴブリンは森の中に置いてきた。」

その声に僕はおそるおそる目を開けると、草原にいた。森は抜けたらしい。

昨晩野営した場所を大きく回り込みながら、街道と平行して僕たちは草原を進んでいた。

街道は馬車が行き交うので、小さくなれるムートはともかく、ギンの存在は恐怖を与え、問題を起こしかねない。従魔も普通に存在する世界ではあるが、一国をも滅ぼす伝説の魔獣と言われるフェンリルだけに、なかなか理解を得るのは難しいらしい。

町にはいるときは背に腹は代えられないし、ギルドカードにも従魔の登録はしてあるのだが、それでも悪意のある人間を引き寄せてしまい、長居できなかったのだ。無理に街道を進む理由もない僕たちは、避けられるトラブルは避ける方針で、街道から離れた草原を次の町に向かって進むことにしたのである。


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