エピソード10
「そこのドラゴンと狼を連れた男、立ち止まれ。」
人間って、急に誰かが大きな声尾を出せば、その内容如何に関わらず立ち止まって、とりあえず何があったかと声のする方を気にするよね。
最初に振り向いたときはその程度の感覚だったけど、よくよく考えても、ドラゴンと狼を連れた男って僕のことか。
「そうだそこのおまえだ。」
振り向いた僕に、もう一度、声の主は口を開く。
なんとなくだけど、慇懃な感じだ。
僕は首を振ってあたりを見回すが、周囲の状況から考えても、僕に話しかけているらしい。
「何か用ですか?」
声の主は禁止をちりばめた高そうな服を着飾った金髪で中肉中背の男だった。まだ十代だろう。もっともこの世界では16歳で成人らしいが。まあ西洋人の年齢なんて見た目では分からないけど。
「おまえが連れているドラゴンと狼を金貨10枚で買ってやろう。俺の従魔にちょうどよい。」
「・・・主、この馬鹿は一体何を言っているのだ?」ギンが呆れたように小声で呟く。
「さあ?僕にも翌分からないけど?」
ギンもムートもタイツ名家族だ。金を出すからよこせとか言われて、はいわかりましたなどというはずもない。
「えーと、嫌ですけど?」
どこの誰かは知らないが、寝言は寝てからいってくれ。
「なんだと?おまえ平民のくせに貴族であるこの俺に逆らうっていうのか?不敬だぞ。この場で処刑してそいつらを手に一れても構わぬところを、金を払ってやると言っているのだ。おまえは黙って俺のいうとおりにそいつらを差し出せばいいのだ。」
「あなたがどなたかは知りませんが。ここにいるフェンリルのギンもドラゴンのムートも、あと話に出て来ませんがスライムのプルンも私の大切な仲間ですので、渡せと言われて、はい分かりましたなどというはずないでしょ。」
そう答えると、横にいた男性が急に気色ばみ、一歩前に出てきた。
「先ほどからおぬしは一体誰に向かってそのような口をきいているのだ。こちらにいらっしゃるのはこの町を納める辺境伯様のご子息なるぞ。平民のおまえなぞ、話しかけることすら許されない相手なのだぞ。」
「先ほどから聞いていれば一方的に言いたい放題ですが、私はそもそもこの町の住民ですらありません。この国の国民ですらない。この町の領主だからという理由で一方的に仲間を奪われる理由すらないのに、その息子が一体なんだというのですか。そのような理不尽な言い分を黙って受け入れるつもりはありません。」
僕は怒鳴るようにそう答えた後、ギンにこっそり小声で話しかける。
「に、逃げよ?背中に乗せてもらったら、門番も突破できそう?」
僕の言葉に目の前のくそガキが顔を真っ赤にして怒り出す。
「貴様、貴族に対する態度がなってないようだな。おまえら、あおの礼儀知らずを取り押さえよ。この俺に対する不経済で処罰してくれる!」
うわー、面倒なのに絡まれた。
「ギン、ムート、逃げるよ。」
僕はそういってギンとムートに合図し、ギンの背中に乗ろうとするが、ギンがそれを静止する。見ればムートも険しい顔をして貴族とかいうくそガキをにらみつけていた。
「主、ちょっと待ってて。青のふざけたガキをぶち殺してくるから。」ムートがにこやかな顔で怖いことを言い出した。
「あのー、確かにあの坊やの発言はあたまに来るけど、ほら僕人の命を助けるのがお仕事だから、殺すっていうのはちょっとなしにしようか。別にこの町にいなければいけないわけでもないし。僕たちが出て行っちゃえばいいだけじゃない?」
「主よ、この町にとどまらないのは賛成だが、主に危害を加えようとしているあの者たちは許す訳にはいかぬ。」ギンも牙を剥いて怒りをあらわにしていた。
「それでも、殺すとかいうのは駄目だよ。命は大切にしないと。」
僕が二匹をたしなめると、二匹は「「我らの主は」」とため息をはき出しながら、「「人がいいにもほどがあるが、まあだからこそ我らの主なのだろう」」と呟いて、僕を庇う用に前に出る。
くそガキが連れていた騎士らしき従者が抜刀して僕に向かって来ようとしていたため、二匹が立ちふさがったのだ。
従者たちは一瞬怯んだあと、それでもこちらに向かって来ようとしたが、そのとき僕の前にいる二匹の周りの空気が代わり、突然あたりが張りつめたように重苦しくなる。
「「「「ひぃっ!」」」」
短い声でうめき声を漏らしたあと、騎士たちはその場にへたり込んだ。ギンとムートの放つ殺気を受けてその場に経っていられなくなったのだ。
そしてへたり込む騎士たちの先には、あのくそガキが気絶して倒れていた。おしっこだけでなくうんこも漏らしていたことで、すぐにあたりに悪習が漂ってきた。
うわー。結局なんだったんだ?
これ以上面倒ごとに関わるのは願い下げなので、僕たちは足止めされる前に目的としていたテント村に向かい、その日の番はテント代わりにアルテミアス様にもらった新しい能力である「異動手術室」をテント代わりに設置して、ギンとムートにくるまれるようにして寝た。
あのくそガキが再び乗り込んで来るおそれもあったので、一応ギンとムートには、もし来たら警戒してねと伝えておいたが、幸いその日の番は何事もなく、翌朝を迎えることが出来た。
ギンは自分だけ仲間はずれにされずにみんなで一緒に寝ることが出来てご機嫌だったが、母校は変な人たちに絡まれたことで、寝付きが悪く、熟睡も出来なかった。
翌朝、夜が明けるとすぐに僕たちはテント村を出て、冒険者ギルドに立ち寄り、昨日あった出来事をギルドマスターに伝えた。
こちらは何もしていないのにみきなり金貨10枚で従魔のフェンリルとドラゴンを買い取ってやるといい、断ったら俺の言うことが聞けないなら処刑すると言われたこと、言葉だけでなく、本当に抜刀して危害を加えようとしたことから、フェンリルとドラゴンが威圧したらそのまま気絶したこと、をありのままに説明し、面倒ごとに巻き込まれたくないので、この町を出て、別のところに行くので、同じようなことが起きなさそうな町を教えて欲しいと伝えた。
すると。僕が「この町を出て行く」と話したところで、あわてて「ちょっと待ってくれ、ギルドとしては、タイラントボアを一撃で倒せる従魔を連れた冒険者をおいそれとよその町の繰り度に取られたくはない。話を聞く限り、おまえさんに迷惑を掛けた貴族というのは領主の次男のペインだろう。あいつはいろいろと問題を起こして、この町の住民もどちらかというと嫌っている奴が多い。領主に話をするからちょっとだけ臣とどまってもらえないか?」
「そういわれましても、こちらは突然、自分の大切な仲間を売れとか言われたり、平民の分際で貴族に刃向かうなど不敬だとか、この町にいて、正直あんなのと道ばたで偶然出会うのも願い下げです。この町にとどまらなければならないメリットなど何もないので、すぐに出て行きたいのです。」
「うっ。確かに言わんとすることは分かるんだが、それでもギルドとしては実力のある冒険者に長く滞在してもらうことは何かにつけてメリットが大きいんだ。
まして伝説の魔中を一匹でも驚きなのに二匹もとか、領主もおまえさんたちの町へ野滞在を歓迎しているんだ。」
「その領主ですが、そもそもにいおいてなぜ、領主が、そしてその領主の次男とかいうややこし人間が僕たちのことを知っているんです?貴族か何かは知りませんが、僕は元々この国の国民ですらないんで、貴族が偉いと言われても全く理解も出来ません。あなたには何ら思うところはないですが、正直あんな奴と同じ町に居続けたらいずれどこかで出くわしてトラブルになるでしょう。そもそも無効がこのままおとなしくしてくれる保障もないのに。あなたには何の恨みもないですが、お互いの平和のために、僕たちはこの町を出て行くのが最善だと思うのです。」
「うーん、結審は難いか。まあこちらにはおまえさんを引き留める理由もないんだけどな。それにしてももったいないよなあ。」
「一つお尋ねしたいんですが、町中で挑発して言い返したら貴族に対する不敬だと抜刀して襲いかかってくるのは、この町では罪にはならないのですか?それとも領主が父親だと何をやっても許されるとか?もしそうであるなら、貴族のいない町に行きたいのですが、冒険者ギルドがあって貴族のいない町とかはありますか?」
「いや、ギルドのある町は全部どこかの貴族の両地の領都だから、おまえさんがいうような町はないが、そもそも貴族が全部おまえさんのいうような差別意識の固まりという訳でもない。むしろペインのような選民思想の持ち主のほうが少ないんだ。ここの領主はそれほど悪い人間でもないんだがな。」
「そうですか。それなら別の国に行くという選択肢も視野に入れないといけないですね。お申し出羽アリがたいのですが、正直昨日のことは僕には到底理解出来ないので。それではお世話になりました。」
僕はギルドマスターに挨拶するも、出来ればあのくそガキについては厳重な処罰を屋くそkして欲しかったと重しながらギルドを後に知るのだった。まあ、砂漠人間と裁かれる人間が親子で、自由に処分が決められるとなれば、必然的に答えも出ているのだろうが。
僕はギルドを出たその足で修道院に向かった。
しばらくこの町に滞在しながら修道院に寄贈する食料を調達しようと思っていたのだが、町を出るとなってはそれも出来ない。せめてお金での寄進だけはしていきたいと考えたのだ。
幸い、タイラントボアの買取でふくれあがった所持金は鍋やフライパンなどの調理器具や食料品を山のように買い込んでも誤差程度にしか減らない。
院長宣誓に挨拶して、女神明日照り明日様にお祈りし、昨日の出来事を明日照り明日様にお伝えして、別の町に移ることを報告した。
お祈りを済ませた後、院長宣誓に寄付の以降を伝え、金貨10枚をお布施として渡す。
金貨10枚、うん因縁じみているので、浄財にするにはとうどいいかな。
院著酢遠征は驚いて、そんな大金と固辞しようとしたが、押しとどめて、孤児院のために使って欲しいと伝えた。僕も(前世では)孤児だったので、と伝えるとなんとなくうまい具合に誤解してくれたみたいで、涙を流して喜んでくれたので、最後にちょっとだけ心が晴れた状態でこの町を後にすることが出来た。
町の門をくぐり外に出ようとするとき、昨日の出来事が検問に影響するかと思ったが、何もなかった。やっぱりあのくそガキの暴走だったらしい。
僕たちは次の町を目指すことにした。辺境の町シリウスは魔境と呼ばれる森に隣接する辺境領の領都であるが、ヴィルさんのいた山とその裾野に広がる森に道がなく、森や山の先がどうなっているのかは麓の村の人もシリウスの冒険者ギルドでも分からなかった。
もちろん道はないので、よその国に行くにしても、一端交通の要点である王都の近くまでは行かないと、その先に進めないらしい。
馬鹿貴族の集まりらしい王都に足を踏み入れたいとは思わないが、食料はそのうち補給しないといけなくなるので、町を中継点に進んでいかないといけないのは間違いない。
アルテミアスさんにお願いされた、この世界の平均寿命が低すぎる理由である医療技術の低迷、そして何より前世で適わなかったたくさんの人の命を救うという夢医半ばにして死んでしまった僕の目標のためにも人のいないところに引きこもって生きていく訳にはいかなかった。
まだこの世界での人生は始まったばかりなのだから。
僕たちがシリウスの門をくぐり抜けた頃
冒険者ギルドでは、ギルドマスターが昨日の僕の陳情の裏付けを取っていた。場所も人の目が集まる場所で、人d通りのある時間だったため、目撃者には事欠かない上、貴族風吹かした領主の息子は日頃から領民に嫌われていたことに加え、ドラゴンとフェンリルの威圧を受けて気を失い、挙げ句の果てにはうんこを漏らす失態まで衆人環視の下でさらけ出したことで、瞬く間に領民のうわさ話に上る右こととなった。
そこで、ギルドマスターは領主への面会を求めて先触れを出したのだが、そのころには領主の耳にも当然その話は届いており、ギルドマスターが面会して冒険者への不当な要求を領主の息子が行ったことについて再発防止をもう強いrふぇるまでもなく、次男のペインは謹慎処分となっていたのであるが、そのころには、引き留めようと考えていた将来有望な伝説の従魔を連れた新人冒険者は町を出ていたのであった。
「畜生、俺にこんな恥をかかせやがって・・・」
自分の部屋で布団を頭からかぶったまま呪いのように呟く男は日頃から下に見ている平民の前でおしっこだけでなくうんこも漏らすという生き恥をさらしたことを思い出すだけで、怒りで顔が赤くなり、地が出るまで拳を握りしめて、自分に恥をかかせたあの男は絶対に許さない、むごたらしい方法で殺してやると誓ったのだった。
」
episo-do 10