第27話
昼休み、約束通りジュールは寛治を誘った。
人がたくさんいるところで話す内容ではないと思ったので、学食でとっとと食事を終え、屋上へ誘った。
そこで、ここ1か月ほどの總子との出来事を話した。
聞き終わった寛治は、珍しく真面目な顔をして、頷いた。
「そっか。…うんうん、良かったな、ジュール」
「ああ。…てか、良かった、って?」
うーん、と背伸びをしながら立ち上がると、ジュールに背を向けて
「ジュールくんさ、皆から人気あるけど…、基本的に人間嫌いじゃん」
黙って友達の言葉を待つ。
「超モテモテなのに女っ気ゼロだし。もしかしたらあっちかな、とか…」
「待て!それだけはないぞ!」
父がそうだから、もしかしたら…と悩んだ時期もあったジュールにとっては笑い話ではない。
「わかってるって。だから、安心したよ」
「俺が同性愛者じゃなくて?」
「そうじゃねーよ。…心開ける相手が出来たことが、さ」
寛治は再び優しい笑顔をジュールへ向けた。
「その、總子さん?の話してる間、ジュールくんめっちゃいい顔してた。なんていうか…ああ、すげー大事なんだな、ってわかった」
普段ふざけてばかりだが、ちゃんと自分を理解してくれていることが分かる。ジュールにとって寛治は總子の次くらいに大事な存在だった。
寛治の言葉を自分の中で反芻しながら、ジュールは独り言のようにつぶやいた。
「大事だよ…。めちゃくちゃ大事だ」
無表情だが決意を込めたような横顔はまるでギリシャ彫刻のようで、男の寛治も思わず見惚れた。珍しく真面目な話をしたことが急に恥ずかしくなった寛治は、どーんと横から抱き着いた。
「良かったなー!王子!よしよしよしよしよしよしよし!ちゅーしてやろうか、ちゅー」
「お、おい!やめ!まじで!!」
「でー?總子さんとラブラブなところに、3-Cの佐野に告られたってー?」
「ああ、そんな名前だったな」
「うわっ、覚えてねーのか!佐野って結構人気あんだぜ。可愛いから」
「知らねーよ」
「あーあ、ジュールくんこうだもんな。顔だけに騙されるとギャップあるんだろうなー」
「俺は別に騙してねーよ」
「分かってるって。女子が勝手に妄想したジュール王子に憧れるんだよな」
本来のジュールではないジュールを押し付けて「そんな人だと思わなかった」と見当違いな非難を受けたことは一度や二度ではない。ジュール自身は馬鹿馬鹿しくて覚えていないが、橋渡し役を頼まれることの多い寛治はよく知っている。
「でもさ」
寛治は続けた。
「總子さんはそんなことないんだろ?」
見た目の派手さで苦労しているジュールを見続けてきた寛治は、そこが一番心配だった。が、ジュールの話しっぷりから、杞憂だったと知れた。
照れたように笑うジュールが本気で可愛く見えて、またも抱き着いてしまった。
「おい!だからそれ!」
「いいじゃ~ん、幸せのおすそわけしてー。そうだ、今度会わせてよ、その總子さんと」
「え~…なんかやだな」
「なんでだよ?!」
「總子が減る」
「減らねーよ!」
下らない応酬を繰り返す二人の会話を、入り口の奥でじっと聞いている存在には、ジュールは全く気づけないでいた。
その日のうちに立ち聞きしていた人物は沖田へ会話の内容を報告していた。