第26話
週が明けて登校したジュールを、女生徒の集団が待ち構えていた。
その中の一人が、校門で声を掛けてきた。知らない顔だ。
「おはよう、小田切君。今時間ある?」
しかし向こうはジュールを知っているらしい。
「はよ…。もうすぐHRだぜ?」
「すぐ終わるから」
「…分かった」
その女子の後ろでみんなから肩を抱かれている女子もいて、何となく話の予想はつく。うんざりしながら従った。
体育館横の花壇まで来て立ち止まる。一人の女子がジュールの前に押し出された。
「あ、あの…小田切君、私…3-Cの佐野って言います。あの…」
「何?」
「あの…、す、好きです!付き合ってください!」
やっぱりか。予想が当たった。HR前にスマホで總子にメッセージを送ろうと思っていたのにその時間を潰されたこともあってジュールはげんなりした。
「悪いけど、俺彼女いるから」
それだけ言うと集団に背を向けて教室へ向かおうとした。が、最初にジュールを呼び止めたリーダーらしき女子に後ろから引っ張られた。
「何よ、それだけ?」
「は?」
「由美はあんたのことが好きだって言ってるの。他に何かないの?」
「だから、彼女がいるから付き合えないって言ったろ」
「だからその彼女ってどこの誰よ?!由美には知る権利があるでしょ!教えなさいよ!」
支離滅裂な理論に唖然とする。その女子がジュールを好きになったのはそいつの勝手でジュールに関わりない。總子はもっと無い。なのに教えろと来た。
「お前らに関係ねーだろ」
まだつかまれたままだった腕を振りはらって歩き出すと、まだ後ろで騒いでいた。
「何よ、ずるいわ!卑怯よ!不愉快よ!」
もうジュールは聞いていなかった。これだから女子は面倒臭い。自分たちの希望が正義だと思って、それが通らないと相手を罵倒する。そしてその行為すら正しいと思っているから手に負えない。
老若関係なく、今まではその手合いの女しかジュールの周りにはいなかった。だから恋人など作る気にはなれなかった。興味すら湧かなかった。
本当に…、あの痴漢騒ぎは、總子と出会えたことを考えると何という僥倖だったか。
さっきまでの不快感はどこへやら、總子のことを思い出したら知らずジュールは笑顔を浮かべていた。歩きスマホは總子に注意されたのでやらないようにしているが、教室に着くまで我慢出来ない。ポケットからスマホを取り出すと、先に總子からメッセージが届いてた。
『今朝もありがとう。もう学校着いた?頑張って勉強するんだぞ』
多少お説教じみたメッセージも總子からだと微笑ましい。「するんだぞ」の後ろに力こぶを作ったような腕のアイコンが付いていて可愛かった。
『今着いたよ。總子も仕事がんばれ。プリン食べすぎるなよ』
送信直後に既読マークがつき、うさぎが怒ってるスタンプが送られてきた。すぐにチェックしてくれた嬉しさと、總子こそちゃんと仕事しろよ、という苦笑も浮かぶ。
「おっはよー!モテモテ王子!」
「ぐはっ…、おい寛治!だからいきなり首絞めるのやめろって!」
「朝のスキンシップじゃーん」
「だからマジ苦しい…離せって!」
「いーや離さん。朝のモテ話と今のニヤニヤの理由を話してくれない限り、離さん!」
「ぐっ、おえっ…、分かった、わかったから…昼飯の時な」
「オッケー!じゃあ仕方ない、名残惜しいが離してやる」
「なんでお前が偉そうなんだよ?!」
「だってジュールくん、抱き心地いいんだも~ん」
語尾にハートマークが付きそうな気持ち悪い寛治のシナに、ふと總子の抱き心地を思い出し、ジュールの頬は再度緩んだ。