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幻を抱きしめたい  作者: 兎舞
第一部
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第12話

 ブー、ブブ。

 聞き鳴れないバイブ音に驚いてスマホを手に取ると、ジュールからのメッセージ着信だった。


『土曜日、空いてる?』


 短い内容だが、總子を驚かせるには十分だった。

(空いてるかって…)

 また二人で出かけようということか。それとも違う理由で聞いてきているのか。

 返事に逡巡していると、また着信が来た。


『また一緒にお昼食べようよ』


 困った。いや、悪い気はしないが、しかし「うんいいよ」と気楽に言える心境でもなくなった。昼に奈々からあれこれ言われた内容もあるし。

 ふと素朴な疑問が浮かんで、それを返信した。


『家族と食べなくていいの?』


 高校生ともなれば全て家族一緒でもないだろうが、先週も總子と出掛けたばかりだ。毎週となれば気になる親もいるかもしれない。

 だが、そのメッセージへの返事は短かった。


『いない』


◇◆◇


 仕事が終わって会社を出たところで、總子はスマホを取り出す。

 もう一度ジュールからの返信を見て、立ち止まった。


(いない…。どういう意味だろう)

 その日は居ないから、ということか。

 気になる。が、今の自分が聞いていいものだろうか。

 なんと返せばいいのか適切な言葉が思い浮かばず、日中には返事が出来なかった。

 しかしそのままには出来ない。土曜日どうするかの返事もまだだ。

 メッセージアプリを開き、返信を打った。


『そっか。じゃあ土曜日ご飯食べよう』


 そっと送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがつき、そして返信が来た。

『やった!じゃあこの前と同じ時間・同じ場所で!』

『うん。じゃあ土曜日にね』


 気が付いたらまた会う約束をしており、奈々の忠告はどこか遠くへ行ってしまっていることに、總子自身は気づいていなかった。


◇◆◇


 話の流れで總子から家族について聞かれた時、ジュールは一気に視界が狭くなる気がした。


 總子は恐らく、ごく普通の両親や家庭にジュールも属しているものと思い込んでの質問だったのだろう。

 だが、ジュールにとって「家族」とは、一番の地雷ワードだった。


(そんなもの、いたことないし、必要ない。俺には)


 母のぬくもりも、父の力強さもジュールは知らない。

 父の冷徹さと、自分の子すら道具と見る合理性はよく知っているが。母に至っては顔も名も知らない。

 

(可哀想って言われるのも、もう飽きたな)


 本当の自分を總子が知ったら、何と言うだろう。いや、どう感じるだろう。

 他の人と同じ反応をされたら、興ざめするだろうか。しかしだからと言って總子を責められるものではない。

 今怖いのは、普通じゃないジュールを知って、總子が自分と距離を取ることだ。

 かといって、一緒に居る時間が長くなれば、話さないのも不自然かもしれない。


 ジュールは、ソファに横になりながら、總子の面影を思い出しつつ、その横から父の手が伸びてきそうな気配がして、慌てて起き上がり、頭を振った。


(あんな奴の話、總子には聞かせたくない。總子まで汚れる)


 その時ジュールは、虚空に父の姿を認めたような気がして、ぐっと睨みつけた。

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