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   7月24日



 制服に身を包んだ榎真と芹、家を出る。

「行ってきまーす」

「行ってきまーす」

 二人手を繋ぐ。

 俯いたまま、何を話すことも必要としない。ただ繋ぎ合う互いのぬくもりが心を繋ぐ。

「おっはよー!」

 背後から声を掛けられる。振り返ることもしない二人の前に回り込むのはクラスメイトの女子。

「・・・・おはよ」

 ニヤつくクラスメイトに微笑み返す榎真。

 さりげなく手を離す芹。

「仲いいよね〜」

 ニヤニヤと好奇心剥き出しの女生徒に、そっぽを向き目すら合わせない芹。対して取り繕った笑みで軽く交わす榎真。

「聞いた?聞いた?金山の自殺の原因!」

 女生徒の振ってきた話題に首を傾げる榎真。

「なんかね、3バカトリオ殺されたんだって!自殺じゃなくて金山に殺されたんだってさァー!」

「うそーほんとにー」

「ほんとほんと、たぶん今頃すっごいことになってると思うよ、学校!」

 興奮気味の女生徒、それは他人事の極み。他人の不幸を喜ぶ満面の笑みを浮かべている。

「ふーんたいへんだー」

 同様の笑みを浮かべながらも褪め切った瞳の榎真。あくまで蚊帳の外の芹。

「おい!」

 突如背後から声を掛けてくる男子生徒が一人

「ハァ〜、ハァ、ハァ、ハァ、」

息を切らせ立ち尽くすのは、同級生の篠山(しのやま)。血走った眼で女生徒を睨み付ける彼、その風貌はイカレた若者。肩までだらしなく伸ばした髪は、まるで焦げたように斑な茶髪で、皮膚とゆう皮膚は泥でも塗りつけたかのように焼かれ、うっすらと髭まで伸ばしている。

「さ、先行ってるね、」

 ただならぬ雰囲気を察し、足早にその場を立ち去る女生徒。その後ろ姿が遠退くのを確認するのすらダルそうに息を切らす篠山が、待ちきれんとばかりに震える手を差し出す。

「あれだ、あれよこせ、」

「・・・・苦しそうだね」

 そんな彼を卑下するかのように微笑みかける芹。

「て、てめェ!」

 胸倉に掴み掛かる篠山を鼻であざ笑い芹は告げる。

「あげたいのはやまやまなんだけどね、今持ってないんだよ」

「あ、あぁ〜!?」

 殴り掛からんばかりの勢いの剣幕で

「ど、どこだ!?どこにある!!」

掴み上げる拳に力を込める篠山。

「・・・・学校に行けばあるよ」

それすらも楽しむかのようにニヤニヤと軽くかわす芹。

「ほ、ほんとだな!?」

頷きで返す芹に、途端に安堵の表情へと変わる篠山、その腕を離す。

「さっ、早く行きましょ」

震える腕を取り誘う(いざな)榎真。

 もはや一人で歩くこともままならない篠山を挟み、二人見つめ合いほくそ笑む。



      †



 生徒たちが次々と登校してくる正門前、報道陣が陣取っている。

 生徒たちに向かってマイクを向ける。

「ちょっといいかな?」

 立ち止まる生徒たちに片っ端にインタビューしていくレポーター達。

「金山先生ってどんな先生だったの?」

「えぇ〜、なんか頼りないって感じィ〜」

 同様の質問合戦があちこちで繰り広げられている。

「キモイキモイキモイ、キモ〜イ!!」

「キャハハハ、言いすぎ〜!キモーイ!!」

「ちょっと止めてください!警察呼びますよ!」

 教師の一人が必死でそれを阻止しようとする。しかしそれすらもインタビューの対象にしてしまうレポーター。

「あっ教員の方ですか?金山先生が自殺した生徒の事件に関与してるって本当なんですか!?」

「なっ、なに言って、」



      †



朝礼のために並び始めた生徒たちがざわつく体育館。

 校舎内から一人また一人と生徒たちの姿が消えていく。

誰もいなくなった教室、2年4組に芹と榎真と篠山が集う。

「は、早く、早くくれ、」

「はいはい、今あげますよ」

まるで子供をあやすように言う芹、机の中から風邪薬の瓶を取り出す。三つの白い丸い粒がカラカラと音を立て透き通った瓶の底に遊ぶ。

「ハァ〜、ハァ〜、」

震える手のひらを差し出してくる篠山。その上に全てを放る芹。それぞれ形の違う錠剤が転がる。

「い、いつもより、お、多いじゃねーか、か、形も違うし、」

朦朧とした意識の中、疑問を指摘する。

「いつもより効果が薄いのよ」

「だから種類も違うし数も違う」

微笑む二人の言葉を鵜呑みにする篠山、その錠剤を水もなしに一気に飲み込む。

「ハァ〜ハァ〜ハァ〜、」

口にした安堵に呑み込まれ恍惚の表情に変わりゆくその姿を、褪めた眼差しで見つめる二人。

「さっ行きましょ」

「朝礼だよ」


静まり返った体育館内、壇上に上がる校長が額から流れ落ちる汗を拭いながら生徒たちに向かい演説する。

「金山先生は、生徒思いの、大変、素晴らしい教師でした」

俯いたままで、幾度となく言葉を詰まらせるその言葉に説得力はなく、聞かされている生徒たちも教員たちですらもシラけた表情で皆俯いている。

「ハァ〜ハァ〜ハァ〜ハァ〜、」

2年の列に並ぶ篠山が青ざめ震え出す。キョロキョロとどこつくとこない視線を忙しなく泳がす。明らかな挙動不審、取り囲む生徒たちが彼を避けるように列を乱し始める。波紋のように広がるざわめきに教員たちが気が付いた次の瞬間、突如倒れる篠山。

 ざわめきがどよめきに変わる。

痙攣し泡を吹く彼のもとに駆け付ける教師が叫ぶ。

「おい!救急車だ!!救急車呼べ!!」

乱れ切った4組の列の中、無表情のまま立ち尽くしている榎真と芹、二人見つめ合い微かな笑みを浮かべる。









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