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   9:39


 階段を駆け上がる畑野、屋上のドアの見える下の階で立ち止まり腰を屈める。呼吸を整え銃を構える。屋上へと続く残りの階段を幾度となく後ろ振り返りながら近付く。

 人影はない。

 ゆっくりと上っていく。

 素早く屋上へと繋がるドアの脇に身を隠す。汗に滲んだ手のひらをその指で拭いそっとドアノブに手を掛ける。息を呑み祈るように瞳を閉じる。気を入れ目を開けた瞬間、

「??」

立ち眩みのように目の前の景色が歪む。首を振り目を擦り勢いよくドアを開ける。

 銃を構える畑野。

「!?」

 銃口を向けた視線の先、壁際に榎真が立っている。視界がぼやけ歪む畑野、意思に反した鼓動の高鳴りを覚え始める。微笑み掛けてくる榎真に銃を構える。感じたことのない重みが腕を震わせる。息が切れ始める。

「こんなとこに呼び出して何のつもりだ」

 不敵な笑みを浮かべただじっと見つめてくる榎真、その姿が幾重にも分裂して見える。

「ハァ、ハァ・・・・」

 激しさを増す呼吸の乱れ。朦朧とし始める意識。その姿をあざ笑うかのようにクスクスとせせら笑う榎真。

「な、何がおかしい!!」

「・・・・だってほんとに来るんだもん」

「なっ!?」

 挑発染みたセリフに我を取り戻す。

「ど、どうゆうつもりだ!!」

 あくまで笑みを崩さない落ち着き払う榎真、

「分からないの?」

その口から解答の序章が示される。

「全てはひとつに繋がるのよ」

「どうゆうことだ?全部お前がやったのか?」

「そうよ、虐められてた金山の代わりにまず三人を自殺に見せかけ殺した。虐めてた主犯の篠山を残してね」

「なっ、」

「脅える篠山を薬漬けにしたのも私」

「・・・・・・」

「篠山には、三人を殺したのは金山だって言って恐怖を煽った」

「・・・・・・」

「クスリで我を失った篠山は私の言った通りに動いた」

「ハァ、ハァ、」

「自殺に見せかけて吊るさせたってわけ」

「ハァ、ハァ、」

「あとは倒れた篠山がここまで導いてくれた・・・・」

「いったい何のためにそんなことしたんだ!!」

 息を切らせる畑野が叫ぶ。

「流れよ」

 手のひら上に向け前に差し出す榎真。

「な、流れ?」

 自分の手のひらを見続ける榎真。

「事件が起これば警察がやって来るでしょ。存在を知らしめるには囮が必要だったの」

「なんでそんな・・・・・吉田警部まで巻き込みやがって、目的は何だ!!」

 自分の叫びに再び意識が遠退く。片手で頭を抱えるその姿を見つめほくそ笑む榎真。

「テ、テレビ局まで・・・・使って・・・・ハァハァ、いったい、何するつもりだ、」

 手のひらを握る榎真。

「もっとひどいことが起こるわよ」

「ど、どゆうことだよ!!」

 左胸に両手を当てそれを見つめる榎真

「ちゃんと狙って」

自らを標的へと導く。

「!?」

「・・・・殺して・・・・」

 銃身が揺れる。

 手の震えが激しさを増す。

「そうしないと・・・・」

 榎真の視線は彼の頭上へ

「!!」

ハッと振り返り見上げた頭上、出入口の上、鉄パイプを振りかざし飛び降りてくる芹。



      †



「うぅ〜・・・・・」

 目覚める畑野、頭部に走る激痛、滴り落ちる鮮血。

 頭に伸ばそうとする手が上手く動かない。

 背筋に掛かる自重。

 右腕と右膝に絡みつく生温かい感触に違和感を覚える。

 定まらない視線の先には、ただ広がる空。

 仰け反る体、背中に走る硬く冷たい感触。

「なっ!」

 そして自分の置かれた立場を理解する。

「お目覚めですか?」

 その体は、屋上の塀の上に乗せられている。見下げたそこは遥か下の地面。

「な、なにしてんだお前ら、」

 榎真が右ひざ、芹が右腕を掴み支えている。

「自由利かないでしょ」

 ニッコリ微笑む榎真。

「お茶美味しかった?」

 ニッコリ微笑む芹。

 二人手を離し

「ひっ!!」

突き落とす。

 残った力を振り絞り両手で必死にしがみつく畑野、行き場を探す足におさまる場所はなく宙ぶらになる。

「や、やめろ、やめてくれ!!」

「やめない」

 しがみつく指を引き剥がそうとする芹。右手の指に手を掛ける。

「こ、こんなことしてなにになるってんだよ!!」

「ほんと、何になるのかしらね」

 褪めた瞳で突き刺す榎真。

「な、なにいって」

「私達未成年者はね、国に保護されてるみたいなの」

「過剰なくらい手厚くね」 

 ゆっくりと小指を持ち上げる芹。

「ヒィィィィィィー!!!」

 一気に離れる右手。

 必死でその手を伸ばし再びしがみつく。

「いったい何人殺したらきちんと裁かれるのかしら」

「あなたで・・・・5人目」

 指で数える芹。

「少年Aは9人だっけ?」

「それでも死刑にならない」

「そんな奴ですら保護しようとするクソどももいる」

「や、やめろ、こんなことして亡くなった両親が悲しむぞ!!」

 必死の訴え。

「死んだら悲しめないよ」

「悲しむのは残された者たちよ」

 右手に芹、左手に榎真が手を掛ける。

「死んでみれば分かるよ」

「そしたら教えてね」

 小指を掴む。

「た、たすけ」

 持ち上げる。

「バイバイ」




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