紙
7月25日
「メールですよ。出どころは二つ。生徒たちへ広めたのが北川榎真。双子の姉の方です」
「もう一つ、マスコミに流したのがその弟の芹です」
佐藤と木田が報告する。
朝霧に湿らされた遮断機が、高々と天を仰ぐ踏み切りの周りをパトカーが取り囲む。
「・・・・・・」
我を失い愕然とする畑野。その目の前にはブルーシートを被せられた肉の断片が転がる。
「・・・俺がいながら・・・・」
呟く畑野。その背後から声を掛けてくる刑事、佐藤。
「お前のせいじゃねーよ」
「でも俺があの時離れなければこんなことには・・・・」
もう一人、畑野の肩に手を乗せ声を掛けてくる刑事、木田。
「事故とは考えにくいよな」
「・・・・事故のわけないですよ」
肩を震わせる畑野に木田が告げる。
「運転手の話だと向こう側に少女らしき人影があったように見えたらしい。吉田警部のいたこちら側はこの壁で見えなかったと」
指差すそこは民家の塀。
「・・・・・れたんだ」
「ん?」
「殺されたんですよ吉田さんは!!」
木田の手を振り払う畑野。
「な、なに言ってんだよお前、まだそんな、」
「吉田さんは北川兄弟を張ってたんだ!向こう側にいたのは間違いなく北川榎真なんだ!!」
線路の向こう側を指差す。
「俺さえ・・・俺さえ一緒にいれば・・・」
「おい畑野!どこ行くんだよ!!」
走り去る畑野。
†
6:02
榎真の部屋の中。
机の上の写真立てを手にする芹、その中の写真を取り出し制服の胸の内ポケットにしまう。
「行くよ」
榎真が声を掛ける。
「うん」
見送りに玄関先に出てくる祖母に背を向け靴を履く二人。
「今日は早いのね」
「クラブの集まりがあるの」
「そう、頑張ってね」
靴紐を結ぶ榎真が声を掛ける。
「・・・・おばあちゃん」
「ん、なーに?」
「・・・・ありがと・・・」
ドアを開ける芹、榎真の手を取り出て行こうとする。
「榎真?」
思わず呼び止める祖母。振り返り微笑みかける榎真。
「なーに?」
「・・・・・・」
その屈託のない笑顔に何も言えなくなる。
「行ってきます」
「行ってきまーす」
「・・・・行ってらっしゃい」
静かにドアが閉まる。
ドアの外、うつむき涙する芹
「・・・・ごめんね・・・・ごめんおばあちゃん・・・」
その手を取りしっかりと握り合い二人歩き出す。
手を繋ぎ歩く二人の後ろを、一台のセダンがゆっくりと付いていく。その中、二人の後姿を憎悪に満ちた瞳で睨み付けるのは畑野。ハンドルを握る手が震えている。
†
6:30
報道陣の車が取り囲む、その姿が日常化した北中学校正門前、朝練すら中止に追い込まれた校内からは、生徒たちのかけ声は消え、まだ誰一人として登校してくる生徒の姿はない。そこへ榎真と芹が手を繋ぎ歩いてくる。その姿を見つけ手を振ってくるキャスター橋田愛子。
「おーい!」
じっと見つめる二人、そのもとに歩み寄る。
「はいこれ、頼まれてたものよ」
ポケットから一枚の紙切れを取り出し二人に手渡そうとする橋田
「どうも」
受け取ろうと手を差し出す榎真に、それを天にかざし微笑み言う。
「交換条件でしょ」
ほくそ笑む榎真、素直に橋田に耳打ちする。あわよくば大スクープゲットのチャンス到来に瞳を輝かせ聞き入る橋田。
「・・・・・・・」
だがその期待とは裏腹に、徐々にその表情は曇っていく。
「・・・・・」
話を終え離れる榎真、愕然とする橋田の手から紙切れを掴み取り
「いい案だったでしょ」
微笑む榎真、その場を立ち去ろうとする二人を
「ま、待ってよ!」
呼び止める。背を向けたまま振り返りはしない二人にそのまま尋ねる。
「本当なの?」
何も答えない二人。
「こんなことして何しようとしてるの?」
「・・・・じゃあね」
「頼んだよ・・・」
答えることなく門の中へと入って行ってしまう。
「何だって?」
茫然とその場に立ち尽くす橋田にカメラマン、樫沢が声を掛ける。