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【江戸時代小説/仇討ち編】

【江戸時代小説/仇討ち編】郭の仇討ち

作者: 穂高

 事の次第は二日前に(さかのぼ)る。

 未明、八丁堀のお堀口で水死体が上がった。身元を調べたところ、川越藩の勘定組頭(かんじょうくみがしら)(くるま)彦左衛門(ひこざえもん)という者に違いなく、その遺体は肩から腰にかけて斬られた(きず)があった。

 また、彦左衛門には吉原に奉公に出ている娘が一人いるということだったので、早速その一人娘の明野(あけの)訃報(ふほう)を届けに往くと、泣いたその口で、明野はわたしに剣の腕前を問うてきた。どうやら父親の仇を取るつもりらしい。

 わたしは、剣の腕だけは北陸に至っては五指に入ると噂されていたため、その旨を包み隠さず話すと、明野はこれ幸いとばかりに深々と頭を下げ、仇討ちを頼んできたのである。

 そして現在。宵五ツ時(午後八時)の堀辺(ほりべ)

 ようやく辿り着いた仇に問い詰める。

 「おぬし、川越藩勘定方、(もり)又衛門(またえもん)に違いござらぬか」

 「いかにも」

 「先日殺された同藩勘定組頭、車彦左衛門の死に関して、なにか申し開きがあれば聞こう」

 又衛門は答えない。逃げもせず、剣を抜こうともしないところを見ると、大方、数日のうちに、こうなることを見越していたのであろう。その目には覚悟が見えた。

 「車彦左衛門が一人娘明野に代わり、その首、頂戴致す」

 一閃、刃が闇を裂いた。

 続いて、ドボンと丸太が水に落ちる音がした。

 血糊(ちのり)(ぬぐ)うと、その足で吉原に向かう。

 事の経緯(いきさつ)を話すと明野は満足したように笑んだ。

 それから幾度か、見舞いを口実に明野の元へ通うようになったわたしは、それが自然と言わんばかりに明野と相思相愛になり、彼女を身請けし、彦左衛門殿の三回忌を終えてのち、祝言をあげたのである。

 ひとつ心残りがあるとするならば、明野のこの晴れ姿を彦左衛門殿に見せられなかったことくらいであろう。


 おわり

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