4.差し入れはパウンドケーキ ~お菓子の魅力にハマりなさい~
どうせ工房に行くならお菓子を知らないケヴィンたちに差し入れ用に何か作ろうかな~
と翌日もキッチンに立った私。
今日は何にしようかな~と悩んでたら今朝の朝食がレーズンパンだったのでそれ見て閃いた。
ドライフルーツ入りのパウンドケーキにしよう♪
型崩れもしにくいし、一本もので持って行けば何人いても分けられる。
ラッピングも可愛くできるしね♪
ってことで、卵にバター小麦粉と砂糖ドライフルーツに風味づけにお酒も用意してもらう。
ベーキングパウダーはまだ無いから重曹とレモン汁で代用してっと。
材料を混ぜながらふと気づいた…型が無いわ!!!!
パンの型だと大きいし、グラタン皿も浅いし…
新聞を折るか。
昔カステラを作る時に新聞を折って型にしたのを思い出したのだ。
材料を混ぜていた手を止めて新聞を取りに行く。
この世界、ホッチキスとパラフィン紙はあったので新聞数枚重ねて折り、四隅をホッチキスでしっかり止める。
内側にパラフィン紙を敷いてっと。
うん!できた♪
生地作りを再開させて、作った方に流し込む。
オーブンで焼いたら出来上がり!
キレイに割れていい感じだわ。
焼き上がりに満足したので、型から外してしっかりと冷ます。
あ、ちゃんと家族用のもあるから2本分作ったわよ。
「クレマン、これ夜にまたみんなに出してね!あ、あなたたちの分もちゃんと取っていいからね!」
「はい!ありがとうございます!師匠!!」
クレマンのキャラがだんだん崩壊してきた気がするのは私だけかしら…
まぁいいか。
お昼を食べた後、しっかり冷めたパウンドケーキをパラフィン紙で包んでリボンをかける。
お気に入りの赤いリボンだ。
「いい感じ♪じゃあ行ってきまーす!」
バスケットにケーキを入れてセバスチャンに用意してもらった馬車で直接工房へ向かった。
「こんにちは~」
工房の玄関で扉を開けながら声をかける。
…反応がない。
仕方ない、勝手に入らせてもらおう。
「お邪魔しまーす」
一応とばかりに声をかけながら入る。
悪いことしてるわけじゃないけどなぜか忍び足になってた。
昨日行ったケヴィンの部屋に向かうと机に向き合っているケヴィンの後ろ姿が見えた。
――コンコン――
「ケヴィン」
壁を軽くたたいて声をかけるとケヴィンが振り向いた。
「あぁ来たのか」
「ええ。試作品出来た?」
「出来てる」
立ち上がったケヴィンの右手にはハンドミキサーっぽいものが握られている。
「どうやって使うの?」
無言でそれを差し出してきたので受け取りながら使いかたを確認する。
「ここにスイッチがあるから回すとオンオフと強さが調整できる」
ハンドル部分の上の部分につまみがあり、そこを指していた。
「へぇ~」
つまみを回すと泡だて器の部分が回る。
昔の記憶と照らし合わせて比較する。
「うーん、MAXの時もう少し早く回るようにできるかしら?あともう少し軽量に。あ、これ連続で20分くらい動かせる?あと、丸洗いできる??」
「え?ちょ、待てっ!」
矢継ぎ早に告げた私にケヴィンはあっけにとられたような様子ながらも、私が言った言葉をメモしていく。
「パワーは上げられるけど、軽くすると魔石を小さくしないといけないからどれくらいにするかだな…」
ケヴィンはぶつぶつとメモした内容を一つずつ確認していく。
そしてハンドミキサーの内部を見せながら
「軽くするには魔石を小さくする方が早いが、そうすると出力が落ちるし魔石自体も長期間持たないけど、どうしたい?」
うーん。魔石…
前の世界の電池みたな感じだけど、電池交換みたいな方法は一般的ではないんだよな~
魔石だけの販売も禁止されてるしなぁ…
そう。魔石って魔力を持った石だから専門の職人が加工したものじゃないと基本的に一般人は使えない。
使い方次第では強力な武器になってしまうから。
なので今回みたいに魔道具の中の魔石を直接見る機会なんて私も初めてだった。
あ!
「ねぇ!これ自体には小さい魔石を入れて、別に大きい魔石で専用の置台みたいなのを作って、そこに置くことで小さい魔石の魔力を戻すみたいなことって出来る!?」
そう、私が思いついたのが充電式!
こちらの世界には他の魔石から魔力を補充するというような使われ方はしていない。
これが出来ると画期的だわ!
「大きい魔石から小さい魔石へ?そんなこと試したことないな…」
ケヴィンは顎に手をやりしばらくぶつぶつと考え込んでいたが、突然顔を上げ
「いける!ちょっと待ってろ!」
バンと机を叩くと立ち上がり部屋から出ていった。
しばらくして戻ってきたケヴィンは手に色々な道具と大きい魔石を持っていた。
私が視界に入ってないのか、無言で椅子に座ると持っていた道具で何かを作り始めた。
あっという間に置台が出来、今度は紙に何かを書き始めた。
ペンを置くとそこには絵か記号か文字かすらわからないようなものが羅列されていて、持ってきた大きい魔石をその上に置くとぶつぶつと何かを言っている。
魔石が一瞬光ったと思うと口元に笑みを浮かべたケヴィンがさっき作った置台に入れた。
置台の上にハンドミキサーを重ねると小さいが魔力が流れているのがわかる。
あ、魔力を持ってる人間ならある程度の感知は出来るわよ?
「出来た!これはいいぞ!」
目を(たぶん)輝かせたケヴィンはハイテンションだ。
眼鏡と前髪のせいでほとんど目が見えないのが気になった私はおもむろにケヴィンの前髪を撫で上げた。
「っ!おま何するっ」
「コミュニケーションをとるには目はきちんと見えた方が良いのよ!」
嫌がるケヴィンを無視してついでに分厚い眼鏡も取ってみた。
…これはただの興味だったのだけれど…
「うわぁ」
そこに居たのは超がつく美少年だった。
何これ、漫画とかのお約束?眼鏡取るとイケメンとか!!!
ケヴィンは思わず感嘆の声を漏らした私から眼鏡を奪い取るとすぐにかけた。
「もったいないわ!!そんなにきれいな目をそんな分厚い眼鏡で隠すなんて!!!」
速攻で抗議の声を上げた私に怒りの為か羞恥なのか顔を赤くしたケヴィンが睨んでくる。
「男は顔なんてどうでもいいんだよ!!」
「どうでもいいわけないでしょう!顔だって立派な武器なのよ?!そんなきれいなのに使わないなんてもったいないわ!!」
私の勢いにケヴィンは口をパクパクさせている。
「料理だって綺麗に盛り付けられて出てくるのと、何もしないでただ乗せただけのもの、あなたならどっちが美味しそうに見えるのよ!!ちゃんと活用しなさい!!」
「あ、あぁ」
思わず肯定したっぽいケヴィンにニヤリと笑って続けた。
「よし!今週中には髪切って眼鏡の作り直しに行くわよ!!」
「え?」
「当り前じゃない!!私も一緒に行くからね!」
「は?なんで?」
「一人だとめんどうになるでしょ?」
「…ちっ…」
「男が一度やるって言ったんだからちゃんとやりなさいよ!」
「くそっ」
不服そうだけど、約束?をこじつけたので満足した私はそういえばとお菓子を取り出した。
「せっかくだからお菓子でも食べながら話しましょう?机を少し開けて」
念のため持ってきたカトラリーを開けてもらったスペースに並べ、パウンドケーキを切ってケヴィンに差し出した。
「これがお菓子よ」
お皿を受け取ったケヴィンはフォークでケーキを突きながらなかなか口に運ばない。
自分の分もお皿に載せるとすぐに口に運んだ。
「ん~おいし~」
お酒の香りで少し大人っぽい味になっていてそれがまた良い。
私の反応にケヴィンも少しだけフォークにさして口に入れる。
「ンまい」
すぐに二口目が口に運ばれていく様子に満足して私も食べ進める。
シンプルなプレーンのパウンドケーキも好きだけどドライフルーツ入りもやっぱり良い。
「こういうの作るのに使うのか、コレ」
私より先に食べ終わったケヴィンが感心したような表情でハンドミキサーを見ていた。
「コレを使うともっとふわふわのお菓子が出来るのよ」
「…すぐに改良するからまたなんか作って来いよ」
「ふふっわかったわ」
よし、またお菓子ファンの出来上がりね♪
「あ、それでケヴィンの次の休みはいつなの?髪を切りに行ってからよ、次のお菓子は!」
「…それ本気だったのかよ…」
「当り前じゃない!」
ってことで3日後に連れ出すことを約束したわ♪