1.無いなら作ろうパンケーキ ~初めてのお菓子~
ふっと前世の記憶が蘇ったのは12歳の誕生日。
野良犬に追いかけられて川に足を滑らせて死にかけてたら思い出した。
…どんくさいとか言わないで!自覚あるから!!!
前世の私はお菓子が大好きで甘いものに目が無い私は気づけば彼氏もいないまま花のJKライフを終わらせていた。
毎日のように友達とおいしいものを食べたり作ったりしてたから楽しかったし充実してたけど、女子高生の時にしか出来ない経験したかった!!
いつどうやって死んだか覚えてないけど、多分卒業式までしか記憶が無いからその後で何かあったのだろうと思う。
と過去(前世)を振り返っていたら思い出した。
ちょっと待って!!!
この世界でケーキもチョコもクッキーもアイスもポテチも見たことが無いんだけど!?!?
近いものでも少し甘味のあるパンくらい?
砂糖やはちみつはあったけど、それくらい?
果物もあるけど、加工なんてしないでそのまま食べるのが一般的。
チョコレートもない…カカオはお願いだからあって!!!
前世の私は料理研究部の部長だったので、カカオの加工の仕方ももちろん研究済!!!
私の青春はスイーツ一筋だったんだもの!!!
カカオがあればチョコレートが食べれる日も夢ではないわ!!!
などと考えていたら盛大な音量でお腹が鳴った。
空腹は大きな原動力!
早速厨房へ向かった。
そうそう、現世の私は国でも有数の貿易商の次女。
5人兄弟で兄3人と姉1人の末っ子。
しっかりと甘やかされて育ちました!
歳は12になったばかりで、名前はマドレーヌ!!!
マドレーヌの無い世界でまさかのお菓子の名前なのよ!!!
もう運命しか感じないわ!!!
平民だけど、それなりに裕福な暮らしをさせてもらっている。
厨房ではうちの料理人たちが晩御飯の仕込みをしているところだった。
「お疲れ様。クレマン、少し厨房を使わせてもらってもいいかしら?」
「お嬢様、もう体調は良いんですか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「何か食べたいものでもあるのでしたら私が作りますが?」
「説明が難しいから私が作るわ。材料だけ用意してほしいのだけど、あるかしら?」
「…ケガだけはしないでくださいね」
私が言っても聞かないタイプだと長い付き合いで分かっているようですんなりと折れてくれた。
本当は名前的にもマドレーヌを作りたいところだけど、ベーキングパウダーや型の準備が必要だから今回は諦めることにした。
生まれ変わって最初のスイーツはパンケーキよ!
「卵と砂糖、牛乳、バターに小麦粉とあとは泡だて器、ボウルとフライパンをお願いしたいんだけど?」
「ありますけど、本当に何を作るんですか?」
「ふふっ!内緒よ!!」
「あ、後でいいからもしあれば果物とあとはちみつも準備しておいて!」
「…はいはい」
ぶつぶつ言いながら料理長のクレマンが周りに指示を出してすぐに材料をそろえてくれた。
卵を卵黄と卵白に分けて、卵黄と牛乳、砂糖、小麦粉を混ぜて、卵白は砂糖と混ぜてメレンゲを…
「うーん…ハンドミキサーが無いときついわね…あ、誰かこれを凍らせる魔法使える人はいない?魔道具でもいいけど」
そう、この世界は魔法があるの!!!
残念ながら私は簡単な火の魔法が使えるだけだけど。
でも焼き菓子を作るにはちょうどいいはずよね!
「あ、それなら私が」
「じゃあお願いするわ」
料理人のドニが私の差し出したボウルに魔法をかけてくれた。
「それくらいで!」
軽くシャーベット状になったところでストップをかける。
「ドニありがとう。助かったわ!」
「いえ」
軽く頭を下げたドニはそのまま作業に戻った。
うーん、毎回手間を取らせるのは申し訳ないから後で魔道具でどうにかならないか、お兄様に相談してみよう。
凍らせてもらった卵白を混ぜて、良い感じになったら砂糖を加えてしっかりと泡立てる。
先に作った方と泡をつぶさないように混ぜたら今度はバターを魔法でいい感じに溶かして入れて、生地の完成!
「あとは焼くだけね!」
用意してもらったフライパンを温めていると視線を感じる。
クレマン達が興味深そうにこちらを見ていた。
「もう少しで完成だからできたら食べさせてあげるわね!」
とニヤニヤしながら提案してあげると戸惑った表情が返ってくる。
なによ、私の料理の腕を舐めてるの!?
絶対おいしいって言わせてやるわ!
ちょうどいい具合に温まったフライパンにバターを引き、生地を流しいれた。
弱火でじっくり焼いている間に、用意してもらった果物を見る。
イチゴにブルーベリー、バナナがあった。
「今回はイチゴとブルーベリーにするわ」
バナナはチョコが出来るまで我慢しよう。
チョコバナナ最強よ!!!
なので今回はイチゴとブルーベリー。
イチゴを少しだけブルーベリーと同じくらいのサイズに切り、小鍋で砂糖と煮る。
飾り用にもいくつかイチゴをカットすると、フライパンからいい匂いが漂ってきた。
「いい感じだわ!」
キレイな焼き色を確認してパンケーキをひっくり返した。
その頃には香ばしい匂いにクレマン達の目が輝き始めた。
ふふっと思わず笑いながら焼きあがったパンケーキをお皿に載せた。
コンポートとはちみつをかけて、イチゴとブルーベリーで飾れば出来上がり!!
「上手に出来たわ!さすが私!!」
ちょっとお行儀は悪いけどその場ですぐに味見してみた。
これよ!これよ!!パンケーキ!!!
「おいしーーー!!!」
幸せな甘さに目尻がこれでもかと下がる。
あっという間に半分を食べ終えた私は周りに目をやり、ニヤリと告げた。
「食べてみたい人!」
「「「はいっ!!!」」」
クレマン達の声がキレイにハモった。
残りの生地の量を考えて、私のよりは少し小振りなパンケーキを人数分焼いてあげると、
「「「うまいっ!!!」」」
みんなが口をそろえて絶賛してくれた。
「ふふふ~そうでしょう?」
クレマンに至っては涙目になって感動している。
そうよ、おいしいは正義なのよ!!!
「こ、この作り方を教えていただけないでしょうか?」
緊張の面持ちでクレマンが言う。
この世界では存在していなかったスイーツのレシピ。
そしてここは貿易商の家。
さすがに簡単に教えて欲しいとは言えなかったみたいだけど、興味が上回ったみたい。
「一応お父様に確認してみるわ。でもクレマンが作ってくれたら助かるからそうなるように話してみるからまってて」
ということで追加で家族用の生地作りをした。
その夜、晩御飯の後に家族に出したらみんなから大絶賛された。
もちろん、お父様にはクレマンへ教える許可は取ったわよ。
ただ、お金の匂いがしたのか、クレマンだけに教えることとこの家でしか作らないことが約束させられたけど。
さぁ次は何を作ろうかしら♪




