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第87話 乙羽の想い

 私は気絶しているその南の勇者候補をインチキとエドルドへ引き渡し、迷宮内でのその出来事を伝える。すると、すぐさま2人の国王から全国民にその事実が伝えられた。

 魔物の脅威が無くなったことで、被害にあっていた国の状態は安定していくことになる。

 南の国の勇者候補は、真の勇者として祭り上げられ、連日各国でお祝いのお祭り騒ぎが起こっている。目を覚ましたらこのお祭り騒ぎになっていたので、全く状況がつかめていないようだけど。


 国については、インチキとエドルド2人が協力して全ての国の国王を務めることが決まった。誰が何処の国を管理するという縛りを無くし、どの国もみな平等にそれぞれの国の良いところを反映させていくという言葉で全国民は納得したようだ。


 とりあえず国の方は落ち着いたけど、まだ私達にはやるべきことが残っていた。


 それはあの大天使の計画を阻止すること。そして一番大事なのは、ヘタレを救い出すことだ。


 あの時、間違いなくヘタレは私達を助けてくれた。


 私の心臓にヘタレの剣が刺さった瞬間、魔力が大量に流れ込んできた。もともと、北の勇者候補を助けるために異空間内の時間を完全に止めていた私。その前の闘いもあって殆ど魔力が残っていない状態で大天使と闘っていたのだ。


 当然あのままでは勝ち目も無かったし、私もマヌケも殺されていただろう。


 でもあの光の剣の形をした魔力の塊は私を優しく包み込んでくれるような、あの頃のヘタレの優しさそのものだった。その優しさで私は神成モードを100%で開放することが出来たのだった。


 そう、私達はあの子に救われたのだ。


*****


 私の名前は光月乙羽、あだ名はヘタレ。

 私の大好きな子が付けてくれた愛しいあだ名。


 そう、私はずっとあの子のことが大好きだった。


 私達が初めて出会ったのは、あの海の近くのベンチじゃない。あの子はあれが初めての出会いだと思っているかもしれないけれど、実はもっと昔に一度だけ私達は会っていたのだ。


 それは私にとって特別で大事で忘れることのできない出来事だった。


 何故ならあの時に私は死んでいたはずなのだから。


 私は小学校の頃、お父さんに買ってもらったばかりの自慢の自転車で街中を走っていた。新しい自転車で気分も乗っていたこともあり、私はいつの間にか隣町まで来ていたのだ。


 そして事件は起こった。


 ある踏切に差し掛かったところで、線路の上を走行していたところ突然の強風に煽られ、自転車のタイヤが線路の隙間に挟まってしまった。その当時の私の身体にはかなり大きめの自転車だったこともあり、重たくて持ち上げることもできなかったのだ。

 そして悪いことは重なるもので、すぐに電車の通過を知らせる鐘が鳴り踏切が降りてしまった。しかし、その状態になっても私は大事な自転車を何とか守ろうと必死だった。


 やがて、「逃げてぇ」と叫ぶ声が私の耳に入って来た。その声がする方へ振り向くと、遠くの方から必死な顔で叫んでいる小さな女の子の姿があった。

 ふと後ろを振り向くと、まだ遠くを走っていると思っていた電車が私のすぐそばまで迫っていたのだ。


――あれ? これって……私死ぬの?


 漠然とそう思ったことを覚えている。避けようのない「死」というものがそこまで迫っていることに、恐怖と絶望の感情が込み上げ、体の芯から震えが止まらなくなった。


――い、いや……助けて。


 必死にそう願って、先ほどの叫んでくれた女の子を見る。


 その女の子は必死に走りながら手を伸ばしている。しかし、その小さな手はあんなに遠い場所にある。


――もうダメなんだ。


 そう諦めた時、私はその死の運命を受け入れた。


 ……はずだった。


 いくら待っても激突の痛みも衝撃も何も襲ってこない。その代わりに感じたのはフワッと香るいい匂いと優しく身体を包み込まれるような感覚だけ。


 気が付くと私は何者かに身体を抱き抱えられ、踏切を越えていたのだ。遠くの方で電車の急ブレーキと自転車を跳ね飛ばす衝撃音などが聞こえた気がしたが、それよりも私は、私を優しく抱くその細くて小さな暖かい手と、とても可愛いその笑顔に夢中になっていた。


 その人は、その可愛い笑顔のままで「守れて良かったよ」と言った。


 その瞬間に緊張の糸が解けた私は涙が止まらなくなってしまった。


 泣き続ける私を優しい手が慰めてくれていたが、突然その子は倒れてしまった。


 その後2人で病院に運ばれたが、それ以降その子に接触することは禁じられてしまったのだ。それでも病院内を隈なく探し回っていたが、見つけ出すことは出来なかった。


 後から知った話だが、あの子は何処か特別な施設へ移された後だったのだ。


 それから私はお父さんの仕事の都合で引っ越しを行うことになり、新しい町で普通の生活を送っていた。ただ、その間も私はあの女の子をずっと探し続けていた。


 そして、あの事件が起こってから3年の月日が経ったある日、あまり人気がない海が見えるベンチに座っている1人の女の子の姿を見つけた。


――あのかわいい顔、細くて小さな手、間違いない! あの子だ!


 私は、やっと探していた大事な人と会えたことで、心臓が弾けそうになるほどドキドキしながらすぐにその子のもとへ駆け寄った。


 突然声をかけた私を見たあの子の目はどこか寂しそうで、儚くて心が締め付けられるようだった。


 私は命を救ってもらったこの子にもう一度会えたなら、絶対にお友達になって、自分の生涯をかけてお礼をし続けて行こうと心に決めていたのだ。


 悲しいを目をしたその子の名前は服部桜夜。私の命の恩人で、大好きで愛しくてたまらない素敵な女の子。私達は少し時間がかかったけど友達になることができた。それから毎日ずっと一緒に過ごしていくたびに、心を通わせることができるようになっていった。


 そして、私は突然別の星に連れてこられてしまった。その時は記憶を無くしており、自分のことも桜夜のことも忘れていた。しかし、桜夜が刺されたあの一番最悪のタイミングで全ての記憶が戻った。

 私が一生をかけて守ると誓った桜夜が腕の中で死んでしまったと思い込み、その悲しみの中で神光カミアリの力が発動した。


 人形のようになった私が連れてこられたのが、「天上界」という場所。そこにいたのは大天使と名乗る者だった。

 桜夜が死んでしまったら私の生きる意味はないと自殺を考えていた私に、その大天使は桜夜が生きていることを告げた。


 そしてモニターに映る、先ほどの迷宮内の映像にはマヌケに抱かれて安らかに眠る桜夜の姿があった。


 それに安堵した私に向かって大天使は脅しをかけて来た。


 それは、いつでもこの2人を殺すことが可能だと言う。この者にそれだけの力があることは私でもすぐにわかった。

 大天使にとって、桜夜とマヌケは邪魔者でしかない。しかし、大天使の計画には私の神光の力が絶対に必要だということ。

 2人には絶対に手を出さない代わりに、私が大天使へ力を貸すということで2人の命を守って来た。


 その代わり大天使の計画を実行すれば、この星の人類を全て滅ぼすことになるのだ。

 この世界の人々とたかが桜夜とマヌケ2人の命を天秤にかけられ、私は一切の迷いもなく2人の命を取ったのだ。

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