第8話 いい場所発見!
到着したその場所は周りには木々が生い茂り、その中央には大きな湖があった。その木には見たことも無い果実が実っているようだけど、かなりの高さだ。
――私の身長が低いわけじゃないはず……ないったらないの!
《お一人で何を言ってらっしゃるのですか?》
――き、気にしないで。
しかしどんなに高い木だろうが、今の私には神成モードがあるのだ! このくらいならなんてはことない。
私は一っ飛びで木の枝に降り立ち、木の実を手に取ってみる。アイレンズでそれを見てみると、成分などが表示される。一応人体に害がありそうなものは無かったので、多分食べられそうだ。
――スマコ、これ食べられるやつだよね?
《問題ありません。食用です。しかしその手の…》
――やった!
私はお腹が減っていたこともあって、その果実にかぶりついた。その瞬間、途轍もない苦みが襲ってきた。その強烈な苦みにジタバタと悶絶する。
《主、説明を最後まで聞いてください。その手の物はまだ緑色なので成熟していません。成熟していない木の実は強烈な苦みがあって食べられたものではありません。実の色が青いものが成熟している果実です。》
――は、早く言ってほしかった……。
気を取り直して、青い木の実を手に取り口にする。その瞬間、口の中に甘みが広がる。
――お、美味しい……。
さっきの苦みはどこへいったのかというくらいに口の中は甘みに支配されている。これなんて果物なんだろ?
《メリドの実です。クズ神よりインストールされた情報の中にこの木の実の情報がありました。この木はメリドの木という種類の木で、その木から成る果実なのでメリドの実という名前で呼ばれているそうです。》
――へぇ~。
聞いたことも無い果実などが普通にあると、本当にここが地球ではないことを再確認してしまう。何も考え無しにここに来てしまったけれど、ヘタレを助けた後は、どうしたらいいのだろう。本当なら地球に帰れたら一番良いんだけど、もしかしたらそれは無理なのかもしれない。それならこの世界で生きていく必要があるので出来るだけ知識を付けておく必要がある。
そんなことを考えながら、お腹を落ち着かせるためにメリドの実を3つ食べた。その後、木を降りて湖まで来てみた。
この湖は大きくてそれなりに深いようだ。それに透明度が半端ではないので、かなり水が奇麗なんだと思う。底を覗いてみると、魚も泳いでいるのがアイレンズで見えた。
――スマコ、あの魚どうにかして取れないかなぁ。
《可能です。まず湖の中央まで歩いて行って下さい。》
――この靴で浮けるんだよね?! 沈まないよね?!
《大丈夫なはずです。》
私は水の上に恐る恐る足を付けてみるが、足は沈まなかった。まるでトランポリンの上に立っているみたいな感覚でボヨンボヨンと跳ねることも出来る。
――これ超面白い!
私は水の上でピョンピョン撥ねて少しの間遊んだ。これぞ「忍法、水蜘蛛の術」だ。
私やお母さんはこの靴を履かないと水の上を走れないが、お父さんだけは何の道具もなしに水面を走れる。小さい時に一度だけ教えてもらったことがあるけど、あの人の理屈はよくわからない。
「右足が沈む前に左足を出して、また左足が沈む前に右足を出すのを繰り返せばいいだけだよぉ。なぁ、簡単だろ?」
などど、ふざけたことを言っていた。私の眉間にしわが寄ったのは言うまでもない。あいつが同じ人間であることを私は認めん。
《主、そろそろよろしいでしょうか?》
――あ、はい。ごめんなさい。はしゃぎ過ぎました。
《湖の中央まで来たら、神成モードを10%まで引き上げて、内部に直接衝撃を与える桜雷拳を放って下さい。》
忍殺拳には龍雷拳のように表面から内部へ衝撃を与える突きと、内部へ直接衝撃を与えて内側から破壊する突きが存在する。それが桜雷拳だ。
小さい頃にその突きの修行も行っていた。空き缶の後ろに水を入れたコップを置いて、空き缶の後ろのコップの水だけを揺らすというもの。
神成モードを10%に引き上げた私は、呼吸を思いっきり吸い込み、酸素を全身に回す。そして流れるように左足を前に出し、腰に回転を加えて勢いを付け、その勢いを拳に乗せて水面を打つ。そしてインパクトの瞬間に呼吸を一気に吐き出して力を内部へ流す。
水面はピクりとも動いていない。
――手応えあり!
その瞬間、湖の内部で爆発したような衝撃が起き、湖に大きな穴が空いてしまった。その衝撃が内部から広がっている関係で、私を中心に湖の底が露わになった。
――久々の桜雷拳だったけど、撃てちゃったよ……。
おそらく今の私はお父さんやお母さんよりも力は強いだろう。
湖の底では魚がピチピチ跳ねている。私はそこへ瞬時に移動し、魚を回収した。
だいぶ遅れて湖が元の状態に戻ろうとしていたので私は地面まで戻ってきた。
――これ、食べれるよね?
《問題ありません。ただ、火を通した方が安全です。》
――どうやって火を起こそう……。
ここにはライターもなければ太陽もない。さて困った。
アニメの忍者とかだったらよく忍術とかで簡単に火を出せていたけど
昔の忍者の火遁の術っていうのは、火薬なんかを利用して敵を翻弄していただけで、種も仕掛けもある、マジックみたいなものだった。
「あんな何も無いところから魔法みたいに火が出せたらいいねぇ」なんておばあちゃんがテレビを見ながらぼそっとつぶやいていたことを思い出す。
――助けて、スマコちゃーん!
《申し訳ありませんが、今はまだ火を起こせる手段がありません。》
――マジかーい。折角この魚捕まえたのに……どうしよう、このままじゃあ腐られちゃうよ。
《スキル空間支配の空間収納を使用しましょう。そこでは時の流れがありませんので、食材が腐ることはありません。》
――おぉぉ! そうなんだね。
私は忍者ポーズを取ってスキル空間支配を発動し、異空間を作り上げた。すると、一部空間が歪んだ場所が発生したので、そこへお魚さんを放り投げた。
――これでいいの?
《はい。今の主なら収納する物の大きさにもよりますが、魚であれば約1000匹、メリドの実であれば役1200個程を収納することが出来ます。》
なんて有能なんだろうこのスキル達。ちょっとあのクズ神のことを見直す必要があるようだ。
――悪口言ってごめん。ほんのちょ~っとだけ見直したわ。
「その程度の感謝なのですか? 滅ぼしますよ?」
唐突に聞きたくもないあの声が聞こえた。私はそれにビックリし過ぎてひっくり返り、大股開きの恥ずかしい格好へとなってしまった。