第81話 窮地
ここは王都内の国王の城の内部である。
「な、なんだと……?! 我らが最高機密であった空船が破壊されただと?! 13号は、勇者候補はどうしたのだ! あの血液は無事なのか?!」
「い、いえ……全て消滅してしまっていたようです。」
「なんということだ……。勇者候補なしでは我々は生きられんのだぞ! やむを得ん、各国に散らばっている者どもを戻すのだ! そして、血液をあるだけ全て回収しろ!」
「そ、それではあの者どもが……。」
「お前が命を捨てて渡すか?」
「……承知しました。」
空船というのはアンブが破壊したあの空飛ぶ船のことだ。そして、勇者候補の3号と言うのが、アンブが異空間へ収納したあの子のことである。
現在、キリサメのもとへ空船の破壊と、勇者候補の死亡という報告が入った。その報告を受けたキリサメは各国へ散らばっている機械人達を急遽集めることにした。
その者たちが持っている勇者候補の血液を全て回収し、自分が生きながらえることを選択したのだ。
その直後、各国に散らばった機械人へ「作戦中止、直ちに帰還命令」の連絡が入る。それに加えて「勇者候補の血液に問題があることが分かった為絶対に服用するな」という連絡も付け加えられた。
大量の機械人達は魔物をそのまま放置し、中央の国の王都へ向かって猛スピードで向かっている。
その間、キリサメは頭をかかえていた。
このような状況になってしまっては、早く代わりの勇者候補を探し出す必要がある。そうしなければ自分達は滅びてしまうのだ。本来、空船には全ての機械人が数年ほどは生きていける程の血液がストックしてあった。しかし、今はそれがない上に補充することも出来ない。
かくなる上は、どこかの勇者候補を探し出し、すぐに血液を抜き取らなければ自分たちの命は無い。
中央の国の勇者候補は驚異的な強さを持っていると報告を受けている。この空船破壊に関しても関与しているかもしれないとのことだった。
東の国の勇者候補と西の国の勇者候補は死亡しているので、残っているのは南の国の勇者候補だけだった。
キリサメは王都に来ていたシリウスに、全ての魔物を迷宮へ向かわせ南の国の勇者候補を探し出すように指示を与えた。
シリウスはそれから魔物を操ることが出来る機械を起動させて、各国に散らばっていた魔物を全て迷宮へ向かわせたのだった。
魔物を操るには薬剤を服用させた後、シリウスが持つ機械で特殊な電磁波を放って操っていた。テンガラスの機械人達にはそれの子機のような簡易的なものを渡しておいたのだが、シリウスが持つこの親機からの命令には子機以上の強い電磁波を放ち、絶対的な命令を行うことができるのである。
しかし、これで勇者候補が見つかる保証もない。
キリサメはやむを得ず、特殊なデバイスである人物へ連絡を行った。
「キリサメでございます。大変なことになりました。我らが空船と勇者候補が何者かに破壊されてしまいました。このままでは我らは全て滅びてしまいます。現在、センテロスの勇者候補を探しておりますが、見つかる保証もありません。どうにかお力をお貸しいただけませんでしょうか。」
「……ふむ。それではこちらにとっても都合が悪いというものか……。よかろう、その状態にした者達には見当が付いておる。お前は明日予定通りに人間の国王を処刑しろ。お前が人類を正しき方向へ導いてみせよ。」
「はっ。仰せのままに」
そして、マキシムとエドルド両名の処刑が執行される時間へとなった。
処刑場所として、王都の城の裏手にある広い敷地に処刑台が建てられていた。そこへ2人の国王が石の壁に、はりつけにされている。
その周りには王都の住民がたくさん詰めかけており、群衆は心配そうに貼り付けにされた2人の姿を見守っていた。
やがて北の国王が出てきて声を発する。
「全世界の国民よ、突然のことで驚いていることだろうが聞いてほしい。偉大なる神がこの地と人、魔族をお作りになられてから早1000年。これまで我々人類は魔物の被害に苦しみながも必死に生き抜いてきた。我々には唯一、勇者候補という力を与えられていたが、今まで誰一人として魔物がいる迷宮を攻略したものはいなかった。このまま勇者候補に任せておけば、人類は魔物の手によって滅びてしまうことは誰が見ても明らかであろう。お前たちはその時を黙って見ているだけで良いのか? 我らテンガラスは滅びゆく運命よりも戦い抜く運命に身を転じた! そして、新たな人類の力として機械人へと生まれ変わったのだ。我々も元は人間だが、魔物に対抗するための力を得たことで魔物に怯える生活は無くなった。力は誰でも得られるのだ! 今こそ、我々人類は進化しなければならない時が来たのだ! それを今から証明してみせよう!」
このキリサメの演説は、中央の国を含めた全ての国の国民に向けて一斉放送されている。それは各国が設置した各所にあるスピーカー、デジタルモニターなど様々な方法でリアルタイムに投影されているため、各国の全住民がこの光景を見ている。
そして、映像はキリサメから王都の外の映像へと切り替わり、王都に向けて空を飛ぶ操られた1匹の魔物へ向けられた。
すぐさま王都の防衛システムが働き、その銃口が魔物の方へ向けられて魔動力のエネルギー砲が発射された。それは見事に魔物に命中するが、魔物には傷一つ付いていない。やがて映像はキリサメに切り替わる。
「見たか、これが今の人間の限界だ。そして我々の手にかかれば……」
キリサメが手で合図すると、1人の男が魔動力を発動させて飛び立つ。その後を追うように映像が切り替わっていく。
やがて、その男は魔物の前に立ちふさがり、腰に携えていた剣を抜いて魔物の翼を切り落とした。そして地上へ落下する魔物に向かって、魔動力で魔法を放ってみせた。
「ソイルランス」
機械人の男は、魔動力で地面の土を操り巨大な槍の形へと変化させた。そこへ向かって一直線に落ちて行く魔物。やがて、その巨大な槍は魔物の胴体を貫いた。魔物は断末魔を上げて、すぐにパリンと消滅してしまった。
その光景を全国民が固唾を呑んで見つめていた。
「これが我々の力だ。我に従えば、全国民がこの力を手にすることができるのだ!」
キリサメがそう宣言したと同時に、どこからともなく小さな歓声や拍手が広がっていき、やがてそれは大きなものへと変わっていく。




