第80話 なのなの星人
――え?! 誰?!
――アタチなの! あなたの目の前にいるの!
――ふぇ?! あなた、勇者候補なの?!
――そうなの! 初めましてなの! 小さなお嬢さん!
――あんたに小さいとか言われたかないわ! 体形は同じようなもんでしょうが! それに喋り方もアンタの方がお子ちゃまって感じだし! やぁ~いお子ちゃま!
――ち、違うもん! アタチお子ちゃまじゃないんだもん! これでもピチピチの205歳だもん!
――なッ?! 205歳?! ババアじゃん!
――バ、ババアなんてひどいの! 人の魅力に歳をとった数なんか意味ないと思うの!
――アンタさぁ……いろいろと突っ込みどころが満載なんだけど、まずその年齢でその姿と喋り方はかなり痛いんじゃないの?
――ひ、ひどいの! 自分がお子ちゃまロリ体形だからってあまりアタチをひがまないでほしいの! 今アタチは脂ものってて1番食べごろなの! アタチの身体があんまり魅力的だからってジロジロ見られるとさすがに恥ずかしいの!
――いや、引くわ~。その姿で魅力的って本気で思ってるあたり、マジ引くわ~。
「ね、ねぇ? なんでさっきから黙ってんの? やっぱこれ、壊しちゃうわけ?」
――あれ?! ヨゴレには聞こえないの?!
――そっちの子の声はアタチも聞こえないの! あなたの声だけが聞こえるの!
――どういうこと?! スマコ、なんか分かる?
《すまん、主。さっきから主の声しか聞こえないんだわ。また変な独り言を言い出したもんだから頭でもおかしくなっちまったかと心配していたところだ》
――またって何よ! ていうかこれはどういうことぉ?!
――ププププ! 1人で喋ってて面白い子なの! 最後にこんな面白いお喋りができたからもうアタチは満足したの! もう思い残すことはないの! 早くこの装置を壊してここから逃げるといいの!
私にはもうこの子を殺すことなんて出来るはずがなかった。まだ会話をしていなければこのままこの装置を全て壊してこの子を殺し、何日かこっそり泣けばいいと思っていた。しかし、会話をしてしまったことでそれが出来なくなってしまったのだ。プロのスパイとしては本当に最低なことをしてしまった。ターゲットとする者はそれがどんな人物でも速やかに暗殺するのがプロの仕事である。
ターゲットに情を移した挙句、会話までしてしまったことで暗殺も出来なくなってしまうという失態。やっぱり自分にはその世界で生きて行くのは無理だと痛感する。
――ご、ごめんなの! 会話したらやりづらくなるのは分かっていたつもりなの! でもあなたの声が聞こえた時に本当に嬉しくて、黙ってることが出来なくなってしまったの! アタチが悪いの! だから気にしないでほしいの! もうすぐアイツらが来てしまうの! だから一思いにやってほしいの! これはアタチの為と思ってほしいの! だからお願いなの!
――うん、分かった。ごめんね。私も会話出来て……良かったよ。
私は手に持っていた大きな手裏剣を勇者候補に向けて投げつけた。
それは勇者候補が入っていたカプセルの周りの配管や管なのを破壊していく。それによりいろいろな液体が噴出しながら流れて行く。隣にいるヨゴレは何も言わずに唇を噛んで黙ったままだ。
――ありがとうなの! これでやっと楽になれたの……。さようならなの。
そして、その手裏剣はそのまま周りの機械や戦艦自体を破壊しながら突き進んでいく。やがて、この戦艦の大半を破壊したことであちこちから爆発と火災が発生し、この戦艦は高度を下げることになった。
私達は戦艦の外に転移している。
――これでギリギリいっぱい最後の術だよ。
「焔遁、砲炎火の術」
そして、私は爆発しながら降下している戦艦に向けて黒炎魔法を放った。それにより戦艦は黒い炎に包まれて爆発しながら消え去ってしまった。私はそれを確認すると、すぐにマヌケ達のもとへ空間転移した。
――しかし私は知らなかった。この時、この私の様子を遠くから眺めていた人物がいたことを。
「あ、おかえりなさいませ主さ……きゃあッ?!」
転移した私はすぐにコンと異空間へ放り込んで、マヌケに抱き付く。
「ど、どうしたの?! 何かあったの?!」
私の不思議な行動に皆が驚いている。
――私は……私は……。
私はマヌケの身体に顔を埋めたまま動くことが出来なかった。
《マヌケ様、主を頼むぞ。私はコンに付いている。》
「え? う、うん。わかった。」
「アンブ、勇者候補はいたの?」
「……」
「なら、その……もう大丈夫なの?」
「……」
「……そっか。よしよし、よく頑張ったね。」
「……」
マヌケの問いかけに対して首を振ることで返事をした。今は少しだけこの温もりに癒されたい。もうすぐ始める闘いに備えて。
*****
――これは一体どういうこと?! この機械は何?! これは……人間なの?!
主様に異空間へ放り込まれたウチは、中にいたヨゴレ様の隣にある機械とその中に入っている人の姿をしたものに目が釘付けだ。
《コン、これは北の国の勇者候補だ。お前の力でなんとかならないか? 主の望みだ。》
「なっ?! そんな……この方はもう……すでに亡くなっておられますよ?」
*****
アンブはそれからアタシにくっ付いて離れなくなってしまった。それに心なしか、かなりしんどそうだ。表情を変えないから分からないけど、おそらく今も何かの力を使っている感じがしている。
何が起こっているのかは後で聞くとして、今は何があってもアタシがアンブを守る。
とりあえず作戦の準備は全て済んだので、コンちゃんの作った薬を入れた機械をデスくんとインコくんとポチくんがそれぞれ仕掛けに向かった。
想定していたよりも早く準備を終わらせることが出来たのは、港町の皆が手を貸してくれたからだ。
町の皆には今起こっている事態の全てを話していた。すると、インチキさんの為に自分達も何か手伝いがしたいと言ってくれていたのだ。
だから、今回の作戦の重要な役割を果たす魔物を操る薬剤を無力化する薬剤の準備を手伝ってもらうことにした。
何といっても時間との勝負だったので、港町の住民全員が快く承諾してくれたのには本当に助かった。
そのおかげで、当初予定していたよりもかなりの速さで準備を終えた。
また、アンブのおかげで今いる機械人が生きながらえることも無くなったし、大量に血液を保管していた場所を破壊してきたことも聞いたので、おそらくスマコちゃんの想定通りに魔物も大量の機械人達も動くはず。
――後の問題は彼らがどう動くかだね……。
処刑時間まで残り6時間。




