第78話 生贄
盾を持っていた前の2人は倒れた。
しかし、それに構うことなく私をブス呼ばわりした長い槍を持った女が、その長い槍を大きく回転させながらこちらに向かって振り下ろしてきた。
ヨゴレがそれを自身の槍で受け止めるが、その力があまりに強くそのまま地面に叩き付けられた。
「うッ?!」
私にはそれに近づけさせまいと後方の3人から遠距離魔法が次々に撃ち込まれている。
――もう! こんなにうまく連携されてちゃあ厄介だよ! しょうがない、魔力もほとんどなくなっちゃうけど、もう一度氷監獄の術で動きを止めよう!
「氷遁、氷監獄の……」
「待って!」
私は術を発動しようとしたところで、それをヨゴレの一声で静止させられる。尚もあの女に抑え込まれているヨゴレ。
――一体どうするつもりなの?!
「緊急脱出! 風魔法、エアージェット!」
ヨゴレは抑え込まれていた状態から、槍の底部分から風を噴射し急加速してその場を離脱するとともに、そのまま遠距離から攻撃していた3人のうちの1人のコアを槍で突き刺した。
長い槍を持ったあの女はヨゴレの方だけに目がいっていたので、その隙に私の間合いである懐へ入り込んだ。
「忍殺、龍雷拳」
「ぐわぁっ?!」
「……ブス……私……ブス」
私は少し落ち込みながらも、拳に回転を乗せた龍雷拳により槍を持った女のコアを破壊した。その女を戦闘不能にしたことで、残った2人を始末することはそう難しいことではなかった。
コアを破壊した機械人6名の胸の鼓動が聞こえないことをアイレンズで確認し、奥の扉の方へ足を進める。
《さて、いよいよ勇者候補のもとに行くぞ。2人とも……覚悟しておけよ。》
私は勇者候補がいると思われる奥の扉を開いた。
「え? それはどういう…………何よこれ……」
すると、すぐにヨゴレが声を上げた。
扉の奥にいたその勇者候補と思われる人物の姿を目の当たりにした私達は絶句することになる。その姿は、全身を液体が入ったカプセルのような機械の中に入れられ、全身のあらゆる箇所に管を通されており、それは内臓や頭の中の脳にまで達していた。
更に、人の肌とは到底思えない程にその肌は薄く、身体の中の血管や細胞、内臓や骨に至るまで中身が透けて見えてしまっている状態なのだ。それは、かろうじて人の形を維持して強制的に生かされているだけの存在であり、まさに血液を提供するだけの生贄と言っていいだろう。
――こんな状態を普通の人が見たらもちろん……。
「うッ……うぇ……」
――こうなる。
ヨゴレは口元を抑えて、必死に吐き気を我慢していた。こんな状態をマヌケが見ていたらおそらくどうなっていたかわからない。
――スマコはここまで考えていたの?
《まぁな。これが1番最悪なパターンだった。もしこんな悲惨な状態をマヌケ様が見ていたら、あの方の性格上は耐えられん。あの方が本当にブチギレたら世界の終わりだ》
――た、確かに……それを否定できないのがまた怖い。でも私もこの状況を許すつもりは全く無いけどね。
「ゆ、許せないよこんなの! なんてひどいことを……。あの子、意識はあるの?」
《分からん。どちらにしても無理やり生かされている状態なんだ。あの装置を破壊すれば全ては終わるさ。》
「……え?! 壊すの? あの子を殺すというの?!」
《あの子は機械人達の命そのものだ。今止めないと人間全てが死ぬことになるんだぞ。それに、マヌケ様を含めたお前たち勇者候補は全員があの子のようにされてしまうんだぞ。ウチの主はそんなこと絶対に許さん。》
「そ、それは……。」
結局ヨゴレはそれから黙ってしまった。
――あなたの考えは正しいよ。人の命は選別しちゃいけない。たくさんの人を救う為に1人を殺していいわけない。ましてや、この子は何にも悪いことなんてしていないし、むしろ被害者でしかないんだもん。
――でもね、どんなに心が痛くても誰かがやらないといけない時があるんだよ。
「それでもアタシ……え?! アンタ、泣いてるの?」
どうやら自分では分からなかったけど、目から涙が流れていたようだ。
――なんだろ……ヘタレのことがあってからは悲しみには慣れたつもりでいたんだけどな。逆に弱くなっちゃったのかな……。
私は目の前のターゲット含め、その全てを破壊しようと忍術発動のポーズを取った。
しかし、その瞬間に私の背後に猛スピードで迫る機械人の気配がした。
――早い?! 狙いは……私か。
やがてその者は私の胴体を巨大なハサミのような武器で真っ二つに斬り裂いた。
「え?! うそ……そ、そんな?! アンブ、うそでしょ?! 嘘なら嘘って言ってよ!」
「……嘘。」
「……へ?! えぇぇぇええええ?!」
真っ二つになった私を隣で一緒に見ている私達。そして隣にいる私を見て、目玉が飛び出しそうなほどに驚いている。
――いちいち良いリアクションするんだからこの子は。
もちろん暗遁、闇代わりの術だ。今回も忍術発動のポーズを取っていたのが幸いし、素早く闇分身と入れ替わることに成功した。しかし、これで私の闇分身は全て消えてしまった。
そして、私は瞬時にその者の背後へ戻り手裏剣を首元へ突き付ける。
「あら? 殺したと思いましたのに。今のはどういった原理ですの?」
「……」
「また会いましたねぇ。599号ちゃんはお元気かしら?」
「……」
「相変わらずあなたは喋らないのですね。しかし……599号もそうでしたが、あなたもまた只者ではなかったのですね。一体何者なんですの?」
そう喋りかけてきたのはあの港町の町長の元妻である90号とか言っていたおばさんだ。こいつが港町での事件の黒幕だったことはマヌケからも聞いていた。
こいつはマヌケから計画を暴かれたことで、もう港町にいることができなくなってしまい、このテンガラスへ逃げ帰っていた。それからは、この勇者候補の身体の状態を維持しながらその血液を大量に採取して保存する役割を行っていたそうだ。
もともと、本来はこの勇者候補と同じようにマヌケも同じ運命を辿らせる予定だったらしい。この星の決まりで仕方なく迷宮へ向かわせたのだが、その後にこっそりと拉致してこのテンガラスへ連れて来る予定だったようだ。
しかし、手違いでヘタレを含めた天使族であるカオスがマヌケと一緒になってしまった。それに加えて見知らぬ私の登場だ。
どうやら機械人は天使族の手下のような立ち位置であるようだ。そのカオスの命令により、マヌケには手出しが出来なくなってしまったので、仕方なく町の人を実験材料として定期的にこの国へ送っていたようだ。
「本当なら599号をこの隣に並べて、その苦しみに悶え苦しむ様を楽しみにしていましたのに。とんだ邪魔が入ったものですわよ。」
――こいつ……このまま刺してやろうかしら。
こんな会話を続けていたところに、もう1人私の方に向かって来る機械人の気配を感知した。こいつは、123号とかいう町長の執事をしていて、私の身体を上から下まで舐めるように見つめていた渋いおっさんだ。




