第70話 天使族
カスに拉致られていたクモと瀕死だった4人を異空間へ収納した私は、口元の血を拭っているカスと対峙している。
当然あの子らもそうだが、私達の力がカスに通用するとは思っていない。その証拠に先ほどの私の攻撃も全て全力で打ち込んだのだが、それでもカスは平然と起き上がっているし、血を拭っているがただ薄皮1枚切れただけだ。
しかもカスはまだ全力を出しておらず、何か力を隠しているような気配すら感じている。私自身の力がどこまで通用するか分からないが、それでも何とかする。
――マヌケ、頼むよ。
「あの状態で生きてたのも驚きなのに、なんでここまで強くなってんだ? こりゃ流石にやべぇわな。」
「……」
「相変わらず喋らないんだな、お前は。ヘタレには会ったのか? ちゃんと本音を聞いたか?」
「……」
揺さぶりのつもりなのか、もしくは本当に知らないのか、傷をえぐる様な言葉を浴びせるカス。それにより私は胸の奥からズキズキと痛みを感じる。それが少しだけ表情に出ていたのか、何かを悟る様に笑うカス。
「さすがの俺も最初聞いた時はびっくりだったぜ? あんだけ平気な顔して仲良いフリができるなんてよ、女ってのは心で何を思ってんのかわかんねぇもんだな! あははは!」
私の精神を不安定にしたいのか、私の1番の心の傷である部分をえぐる様に話し続けているカス。
「……」
「お前もそんな表情もするんだな。ヘタレになんて言われたんだ? 詳しく教えてくれよ。ははは!」
「忍殺、龍雷……」
「おせぇ!」
龍雷拳を打ち込もうとカスの懐に入った瞬間、それを待ち構えるようにカスのエルボーが私の後頭部へ振り下ろされる。その攻撃は見事に直撃し、私は地面に叩き付けられた。しかし、その瞬間に私の身体は黒い霧のように消えて無くなる。
「暗遁、闇代わりの術。からの焔遁、砲炎火の術」
「ちぃッ! いちいちめんどくさい攻撃をするよな、お前らは!」
カスは私の砲炎火の術を剣で縦に斬り裂く形で勢いを左右にずらしている。しかし、砲炎火の術の勢いの方が強いので身体ごと後方へ追いやられる。
「くそッ! やっぱここままじゃダメか。しゃあねぇ、エンジェルフォーマー、オン!」
カスがそう言うと、自身の身に付けていた装備が変形していく。全身には黄金の鎧が装備され、両腕の肘から先が剣の形へ変化した。更に背中には完全な機械で出来た赤い羽根が付いた翼が出現し、その模様が大きな悪魔の目のようになっている。
カスが放っていた魔動力が先ほどよりも爆発的に上昇しており、その見た目の神々しさとは裏腹に、身体に重く圧し掛かる重圧の殺気をまき散らしながら私を威圧している。
「この俺に力を開放させたのは褒めてやる。だが、こうなってしまった以上お前はもう助からん。本当ならヘタレが始末するのが本能だろうが、もう俺自身も止まることは出来んぞ。覚悟しろ。」
カスはそう言うと、自身の身体と同化している剣を軽く横に一振りする。
するとその剣筋に沿うように斬撃が私の方へ向かって来ているがアイレンズを通して分かった。スキル感知とアイレンズで見ていなければ、それは肉眼では全く見えない斬撃だった。
私がその斬撃を避けるとその後ろで建物や地面がゆっくりと斬られていく。それにより建物は崩壊され、地面では大きな地割れが起こった。
「お前は本当に厄介だな。この斬撃も見えるのか? 苦しませずに殺してやろうと思ったのに、これじゃあ自分が苦しいだけなんだぜ?」
カスはそういうと機械式の翼を起動し、私に向かってきた。そのスピードは凄まじく、私の胴体視力では到底追えるものでは無かった。私は瞬時に闇身代わりの術を発動しようとしたが、それよりも先にカスの蹴りが私の腰を蹴り抜いていた。魔動力により身体能力が爆発的に上げられており、ただの蹴りでも凄まじい威力がある。
私はその蹴りで廃墟になっている5階建ての建物へ激突する。その激突で建物の外壁は打ち貫かれ、フロアごとにある内壁すらもどんどん打ち貫いていく。それでも勢いは止まらずに、私は反対側の外壁をも打ち貫いて大きなその建物を貫通してしまった。
建物を貫通した先には尚もカスが待ち構えており、鋭い剣で突き刺そうとする。
「忍殺、制動忍空圏」
半分意識を飛ばされかけながらも、何とか術を発動してカスの剣を躱す。尚も、もの凄いスピードで蹴りや斬撃を連続で放ってくる。それを薄皮1枚斬られながらもギリギリで避けていく。
しかし、剣先にばかり気を取られていたので下からの蹴り技には対抗できず、膝に一撃を受けてしまった。
その攻撃で動きが止まってしまったところへ、更に下から上空へ蹴り上げられた。その蹴りは腕でしっかりガードしていたのと、わざと上空へ飛ばされて勢いを殺したことで致命傷を避けていた。しかし、攻撃を受けた私の腕はビリビリと痙攣している。そのまま上空で黒い翼を出現させた私は空からカスと対峙する。
「はぁ……全くお前は大したもんだよ。その小さくてひ弱な身体のどこにそんな力があるってんだ? お前みたいな奴は好きだぜ? 正直、本当に惚れてきたわ。」
「……死ね」
「ははは。秒でフラれちまったか。なら、悲しいが終わりにしよう。」
カスは私を見上げながらそう言った。そして自身の魔動力を両腕の剣へ集中的に集めている。最後の大技を出すつもりのようだ。
――これを避けられるかで私の命は決まるね……。
「天使の剣に斬れぬものなし。懺悔せよ、聖光斬撃」
カスの両腕の剣が魔動力の力で光を放ち、それが巨大な光の剣へと変わる。それを十字になる様に構え、その位置から集めた魔動力を全てのせて空を斬り裂いた。
すると、その光のエネルギーの斬撃が巨大な十字架の形をしたまま、私に向かって光の速度で迫っている。
この巨大な光に飲み込まれれば一瞬にして身体が消滅してしまうのは間違いないだろう。更にこの光の速度はいくら私でも普通に回避することは叶わない。
――でも、これでいい! マヌケッ!
カスは私を強敵と認めて、魔動力をフルに使っての全力攻撃を行った。もちろんこれが最後の攻撃であったが、私がこれを防ぐ術はないと分かっていた上で攻撃を行ったのだ。
しかしその瞬間、別の角度から高主力のエネルギー砲がカスのコアを撃ち貫いた。
「神機スナイパーモード、ブラスターカノン」
「ぐああああああぁぁぁぁぁ?!」
マヌケはずっと我慢していた。クモやあの4人が痛めつけられても、私が生と死の狭間でギリギリの戦いをしていた時も、歯を食いしばって唇から血を流しながらも、地面にポタポタと涙を流しながらも、ずっと我慢していた。
そう、全てはこの瞬間の為に。




