第68話 怒れる龍魔
必死に私の身体にその細い腕を強く巻き付けているマヌケ。その手は私に行かないでと必死に訴えかけるものであったが、その腕がプルプルと震えているのが分かった。
当然マヌケもすぐに助けに行きたかった思いは同じだが、それをしたら私達はどうなっていたか分からない。おそらくは殺されていたと思う。それくらいにカスは周囲へ殺気をまき散らしながら身構えていた。
迷宮でのあの残酷な記憶がフラッシュバックする。それを目の前で見ていたマヌケにとってはとても辛い思い出なのだ。故に私が出て行くのを必死に止めたのだ。
《2人ともよく我慢した。さっき飛び込んでおけば一番最悪なシナリオになっていた。》
拉致されたクモの発信機の位置を確認しながらも、インチキ達の様子を伺う。インチキと南の国王はまだ利用価値があるということでとりあえずは生かされることになり、この城の別館の頂上にある牢屋へ入れられた。
それからキリサメはシリウスと共に全ての国へ向けた緊急の一斉放送をすぐに行った。その内容は、5つの国を1つの国にまとめること、その国王にキリサメ、王妃にシリウスが決まったこと、全ての最終決定権はキリサメにあること、この決定は各国の国王の満場一致で可決したことなどを放送し、また後日に詳しい内容の放送を行うと最後に締めてその日の放送は終わった。
ここまでの出来事で分かったことは、キリサメやシリウス、更にはこのテンガラスの国民のほとんどが機械人であるだろうということ、私のアイレンズでも完成された機械人を感知することは出来ない。何故なら、全身が機械で出来た機械人とは違ってその体の形状や中身などは人間と全く変わらないのだ。なので、魔動力を発生するコアが動いていない限りそれを感知することは出来ない。
因みに、各国の親衛隊についてもまとめてどこかの牢屋に入れられたようだ。医療班として一緒にいたコンは私達と同じように話を盗聴していたので、すぐにその場を離れて私達の元へ戻っていた。
――国の状態はとりあえず置いといて、まずはクモだ。
アイレンズで位置を見てみるとテンガラスからは出ておらず、国の一番端っこの小さな町にいるようだ。盗聴器からは時々喋り声が聞こえるので生きているのは確認できている。
その内容を聞く限りは、やはりカスは私達の生存の確証を持っているわけではないらしい。
私達は今、インチキが捕らわれている牢屋の中に来ていた。
「マヌケくん、クモくんは無事なのかい?!」
「はい、まだ生かされてはいます。しかし、あの者の狙いはアタシ達なので、早く行かないといけません。」
「しかし、あのクモくんでもあっさり捕まえてしまうほどの相手だ、大丈夫なのかい?」
「それは……わかりません。しかし、何としてでもクモちゃんは助けます。」
「そうか……。こんな時に何も力になれないのが歯痒いな。」
「マキシム、彼女らは一体……?」
「すまんエドルド、後でちゃんと説明するよ。 必ず全員無事で帰ってくれよ!」
「わかりました。」
それから私達は城の外へと転移し、クモが捕まっている場所を目指した。
テンガラスの端にある小さな町の施設に、カスに捕まったクモが人間の姿で作業台の上に寝かされ、がっちりと分厚い錠で身体を拘束されていた。その周りには様々な悍ましい拷問機械が並んでいる。
「もう本当のことを吐いた方がよくないか? そろそろ死ぬぞ?」
「はぁ……はぁ……はぁ……だから主様もマヌケ様も死んだの。何回言わせたら気が済むの? アンタバカなの?」
「いいねぇ~その強がり! わざわざ人間の姿のままでいるのも俺に躊躇させるためか? だとしたら逆に壊しがいがあるってもんだぜ? ははは!」
それから幾度もクモへの拷問は続いた。何度もその痛みで失神しては強制的に意識を戻され、また生物としての極限の痛みという苦痛を与え続けられることになる。しかし、その間もクモは悲鳴を上げたり、絶叫したり弱音を吐くこともなく、ただじっとされるがままに耐えていたのだ。
「あぁ~いい加減うんざりしてきたぜ。やっぱりアイツらは死んでるのか……だとしたら時間の無駄だったな。もういいや、お前は用済みだ。」
「破龍の咆哮」
突然、龍気を纏った衝撃波の閃光がクモの拷問を行っていたその施設の半分を吹き飛ばしながらカスを襲った。カスはビックリしながらもその閃光を片手で受け止め、それを上空へ弾き飛ばす。
「一体なんだぁ~?」
「妖術変化、青龍の逆鱗」
カスがそう言ったと同時に、龍気を纏い全身が青い炎に包まれた巨大な九尾の化け物が現れた。その化け狐は溢れる怒りを露わにし、巨大な青い炎を吐き出した。その勢いで流石のカスも後方へ吹き飛ばされる。それを予知していたかのように待ち構えている狼の化け物。
「氷龍の遠吠!」
凛々しくも怒りを露わにしているその狼から、動くもの全てを凍らせてしまうほどの龍気を乗せた閃光が放たれる。それにより瞬時に全身を凍らせられ、身動きができなくなるカス。
その動けなくなった獲物を上空から狙っている大鳥の化け物。
「風龍の空狩!」
視界では捉えられない程の上空からその獲物だけを目掛けて攻撃を仕掛ける空のハンター。龍気を纏いし空の王者に狙いを付けられたが最後、逃げる術はない。
全身に風を纏って翼を巧みに使い、ハリケーンを発生させながら超高速でカスへ向かって突っ込み、その勢いのまま自身の鋭利な足爪でカスの身体をえぐった。
すると、カスの装備は砕け散り尚もカスの身体へ勢いを乗せたハリケーンの回転の力を全てぶつけているので、カスはその勢いで回転しながら地面へ向けて叩き付けられる。その勢いで地面に大きなクレーターを作ることになった。
「ぐあぁッ?!」
尚もカスの回転は衰えることなく地面にめり込んでいく。そのクレーターの周りを囲うように集まった怒れる龍魔達。やがてそのクレーターの中で大きな爆発が起きると同時に、カスの身体は止まり口を開く。
「おいおい、ちょっと効いたじゃねぇかよ、おめぇら。龍魔の名は伊達じゃねぇってことか。それで? この俺に手を出して死ぬ覚悟はあるんだろうなぁ~おい?」
4人に向けて殺気を込めながら威圧するように言葉を発するカス。それだけでも身震いしてしまうほどの殺気ではあったが、仲間にひどい仕打ちされたことに対しての怒りが収まらないこの4人は全く動じていない。それどころかますます敵意を向けて怒りを露わにする。
「実は俺も怒ってんだぜ? 折角アイツらが生きてて殺されに来たのかと喜んだのに、来たのはこんな弱っちいお前らときたもんだ。これが怒らずにいられるか? あん?」
先ほどまで攻撃をされるがままだったカスが遂に動き出す。




