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第64話 ヤリの子

 槍のギアメタルを構えたその者はゆっくりと寝ているインチキさんの元へ歩み寄った。そして、槍先をインチキさんの心臓へ向けて止まった。


 しばらくその静止状態が続いていたが、やがて槍の子はボソッと口を開いた。


「アタシがやらなきゃ……アタシがやるんだ……覚悟を決めろ……国を守るんだ。これはアタシにしかできない……こいつを殺して、すぐに迷宮へ逃げる……そうすれば完全犯罪だ……。」


「……いやいやいや、そんなベラベラ喋っちゃダメっしょ。」


 槍の子は突然の少女の突っ込みでビックリして飛び上がり、尻餅をついた。そして国王以外に誰もいないはずの部屋をキョロキョロと見渡し、震えながら声を上げる。


「だ、だだだ誰?!」


「アンタさぁ~暗殺するんならもっとスパ~ンと侵入してサク~っと殺ってササ~っとトンずらこかないとダメでしょ?! 基本よ! 基本! 何をモタモタモタモタしてんのよ! 見ててアクビが出たわよ全く。」


「おいおいクモくん。それは俺をさっさと殺せって言っているように聞こえるんだが……。」


「ひっ?! 国王様……なん……。」


「うるさいわよアンタ! マヌケ様から聞いてるんだからね! あろうことかアタシ達の主を狙ってるらしいわね! 絶対許さないんだから! そんな奴は早く死ね!」


「ひ、ひどい言われようだ……それにオレはそん……。」


「あ、あの~……。」


「アンタもシャキッとしなさいよ! おしゃべりのアタシがずっと無言で黙ってるのがどれだけ……ギャッ?! ……。」


 ずっと喋っているクモちゃんにイライラしたのか、アンブが突然神成(カミナリ)モードを発動し、目にも止まらぬスピードでクモちゃんを拉致した。


 そして、そのクモちゃんは絶叫と共に宇宙の彼方まで意識を飛ばされていた。その絶叫はインチキさんの親衛隊の皆さんを叩き起こすほどの音量であったので、少しばかり大騒ぎとなってしまった。


 アタシはインチキさんの元を訪れて槍のギアメタルを持った子を引き取り、少し離れた高原へ来ていた。


「アンタは誰よ……。それとアンタにくっ付いているその子も誰よ。全くこんなに見張られていたんじゃどっちにしても暗殺は上手くいかなかったわね。」


「そうですね。どちらにしてもその気が無かったようなので心配もしていませんでしたが。」


「どういう意味よ! さっきのおしゃべり少女が邪魔をしなかったらアタシだって……。」


「ふふふ、そうですか。まぁもしそうなっていたなら今頃あなたの命はありませんでしたけどね。」


「ふん、あんな少女に何が出来るっていうのよ。アンタがボスなの? このアタシを甘くみないことね! アタシは……」


「勇者候補でしょ?」


「え……? なんでそれを……。」


「その槍は魔動力を充填して使う物ではなく、自身の魔動力で発動するもの。鎧や他の装備が具現化されたのがその証拠ですよ。」


「……コアギア起動! 風魔法、「トルネード・ランス」」


 突然槍の子はコアギアを発動し、装備を具現化した。そして、自身の魔動力を風魔法に変換し、槍から風を噴射して回転しながら突っ込んで来る。


神機カミオリモード発動……ってあれ?! アンブ?!」


 アタシが神機カミオリモードを発動しようとしたら、それよりも先にアンブが動き出して槍の子の方へ向かってしまった。


「アンブ?! 殺しちゃだめだよ?!」


「忍法、剥ぎ剥ぎの……術。」


《だからそんな忍法ねぇっての!》


 このやり取りを聞いたのも何十回目か忘れたけど、槍の子はアンブの剥ぎ剥ぎの術にかかってしまい、見事に一瞬で全ての衣類を剥ぎ取られてしまった。


「……へッ? ……えッ?! えぇぇええええええ?!」


――気持ち分かるわぁ……。


 全く何が起こったのか分かっていない様子の槍の子。アンブはそれ以降何もすることなく、凄く満足気に無表情のままアタシの元に戻って来た。


――宇宙まで飛ばされなくて良かったね。


 と内心思ってしまった。


「あ、あああああアンタぁぁ! なんてことしてくれんのよ! 変態なの?! そういう趣味なの?! ホント信じらんない!」


 素っ裸で大事なところを隠しながら喚き散らしている槍の子。


――もう一回言っておこう、気持ち分かるわぁ~。


「こんな辱めるんなら、一思いに殺してよ!」


「それはお断りです。さぁ、行きましょう。」


「え? どこに行こうというの?!」


「だってそろそろ出発の時間でしょ?」


「いやいや、アタシ国王を殺そうとしたんだよ?」


「それをしなかったでしょ? だからそれでいいじゃないですか。まぁ下手な考えを起こしたらその時はたくさんの人の前でそんな格好を晒すことになるだけなので。」


「ひぃっ……アンタら一体何者なの?」


「アタシですか? アナタと同じ、勇者候補ですよ。この子は大事な親友です。」


 インチキさんたちは時刻通りに出発した。槍の子が服を着てインチキさんの元へ戻ると、何故か嬉しそうに手招きをし、何事もなかったかのように招き入れた。

 その後彼女はこれまでと同じように親衛隊の人達と一緒にインチキさんの護衛を務めていた。

 それからしばらく進むと急激に気温が低下していく。これはテンガラスに近づいた証拠でもあるのだ。そしてインチさんたちが通っている専用道路がテンガラス独特のガラスに囲われた通路へと変わる。そこは温度を高く保っており専用道路を通る人達を快適な環境にしているのだ。

 しかしアタシ達はその外なのでとても寒かった。アンブもガタガタ震えていて可哀想だったんだけど……途中でクモちゃんを見つからないように拉致して棒に縛り付け、燃やそうとしていたので全力で止めてあげた。


 更にしばらく進むと、北の国(テンガラス)へと到着した。


 ここは国中が水と氷に囲われている国で、外気はマイナス20度~30度付近の極寒世界であった。人間が住んでいる町などの区画はそれぞれにガラスのドームのような物で全体を覆われており、その中は比較的快適な温度を保っていた。

 この国の中央都市も同じように全体をガラスのドームで覆われているが、その規模はとても大きく、周りのガラスが何層にも重ねられて強度を保っているようだ。


 インチキさんたちは真っすぐ中央都市の国王の城だと思われる大きな建物に向かって進んでいた。その建物の前ではたくさんの人たちがインチキさん達の到着を待ち構えていた。


「ようこそテンガラスの中央都市へ。お待ちしておりましたぞ、ルドラルガの国王様。」


「ふむ、出迎えご苦労。北の王に変わりはないか?」


「はい、お変わり無くお元気でございます。現在上の客間でお待ちですので、どうぞお入り下さい。」


「あぁ、ありがとう。」


 それからインチキさんたちはその建物の中へと入っていった。


 インチキさんには小さくなってるクモちゃんと、医療班として同行しているコンちゃんが傍に付いており護衛をしてくれている。

 デスくん、インコくん、ポチくんには「天空界」についての情報収集をしてもらう予定だ。


 そして、アタシとアンブは城の中に忍び込んでこの国の情勢を探ることにした。

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