第63話 刺客
王都を出発してから1日目は特に何事も無かった。北の国までの道のりは3日間ほどで到着の予定だ。
何で同じ国内である、港町までの道のりよりも早いのかというと、それは各国同士を専用道路というものが繋いでおり今回もその専用道路を通っていくからだ。
港町から王都までは険しい山道を何度も超える必要があるのでどうしても時間がかかってしまう。しかし、専用道路はほとんど上下道は無く、山にはトンネルが掘られているので一直線に目的地まで到着できるのだ。
因みに途中で宿泊が可能なキャンプポイントも用意されており、今はそこで野宿を行っている。
夜も更けて、辺りは静まりかえっていた。
「動き出すなら今からだね。各自警戒をお願い。」
「マヌケ様、早速お出ましみたいだよぉ~。暗闇の森の中にいっぱいいるよぉ~。ボクがやっちゃってもいい?」
ポチくんは敵が何処にいるのか匂いで分かっているみたいだ。
「ポチくん、殺しちゃだめだよ?」
「分かってるよ~任せて。<氷の息吹>。」
ポチくんが氷の息吹を放った瞬間にその森の一部が氷の世界へと変わる。足先から口元までを完全に凍らせられて身動き一つとれなくなってしまった暗殺部隊の皆さん。
全身を黒づくめの装備でまとめており、魔動力で発動する剣や銃などを持っているようだった。首も動かせないので目だけがギョロギョロと動いている。その表情から未だに何が起こったのかは分かっていないようだった。
「さて、みなさんはどちらの刺客の方々ですか?」
コンちゃんが超巨大な分身体を作り出し、急に目の前に現れもの凄い形相で威圧する。その恐怖のあまり全身が失神してしまった。
「あらあら、これでは何も聞けませんねぇ~。まぁどうせ喋らないでしょうが。マヌケ様、この方々は異空間のウチの研究室までご案内してもよろしいでしょうか?」
「うん、任せるよ。アンブ、異空間を開いてコンちゃんを入れてあげて?」
アンブは何も言わず、コンちゃんと暗殺部隊の人達を全て異空間へ収納した。今のところアタシのレーダーには魔物も機械人の反応もない。しかし、90号や123号の事もあるので警戒は強めている。
「はいは~い! マヌケ様、こちらクモちゃんだよ! なんかインチキの寝込みを襲おうとしている女がいるんだけど、どうする?」
「凶器を持ってる?! それとも毒とか?」
「あぁ、毒なら食事の時にその女が盛ってたのを見てたから、インチキさんに確認して代わりにアタシがこそっと食べたったよん! 食事が終わっても何も起こらなかったからその女目ん玉飛び出そうなくらいに驚いてたけどね! きゃははは!」
「あ、アンブ! どぅどぅ……。クモちゃんとりあえずインチキさんに手を出しそうなら殺さずに捕まえてね! 後、お腹壊さないようにね?」
「ひっ?! 主様怒ってんの?! もう宇宙にイクのは嫌だよぉ~! ちゃんと働くからもう許してよぉ~!」
クモちゃんが完全にビビっている。
――そりゃ~あれだけ失神させられたらねぇ……。
アタシやコンちゃんも餌食にはなるんだけど、アタシはまぁ……いつもだったからなんか耐性が付いたというか……コンちゃんもそれなりに宇宙まで飛ばされているけど、クモちゃんは何故か必要以上にいじめられている。あまり耐性がないクモちゃん曰く、あれはもう生き地獄らしい。
まぁそれは置いといて、その女の人も刺客で間違いないだろうねぇ。とりあえず捕まえてコンちゃんに送った方が情報は入るかもしれないね。あの暗殺部隊の人達もどんな方法で吐かせているか想像もしたくないけど……。
しかし、それ以降クモちゃんからの連絡は無かった。後から聞くとインチキさんが寝ている部屋へ入ろうとしていたが、何やら思いつめたような顔で引き返していったようだ。
アタシ達はその後も交替で見張りを行い続けたが、それ以降は何事も無かった。
次の日、インチキさん達は朝食を済ませて出発しようとしていた。あの女の人はそれ以降何もしてくる気配はないようだ。昨日の晩御飯と同じようにインチキさんから朝食を分けてもらったクモちゃんがアタシ達のところまで運んでくれた。
折角なのでそれを皆で頂いて食べた。
2日目も昼間の経路は何事も無く順調に進んだ。途中で魔物の襲来があったが、操られている魔物では無かったし、インチキさん精鋭の人達で十分対処可能な魔物だったのでこちらは手出ししなかった。
デスくんとポチくんにはこの専用道路を先に進んでもらい、何か危険や強い魔物が潜んでいれば危険がないように対処してもらっていた。そのおかげで2日目も夕方には宿泊できるキャンプ場へと到着した。
落ち着いたので、アンブにコンちゃんを引っ張り出してもらい状況を聞いた。
「コンちゃん、どうだった?」
「それが……あの刺客を送ったのはテンガラス側でもハピシス側でも無く、東の国の者達でした。」
詳しく話を聞くと、現在リスリルの国内はいろいろと大変らしい。国が反映していないから国民の懐は寂しく、1日生き抜くだけで精一杯のようだ。しかし、国王はそれでもどんどん国民から金を徴収し、自身は贅沢な暮らしをしているので国民からの信頼が無くなっているらしい。そんな状態で国の継続を行うことは出来ない。
そこでリスリルの国王は、この星の経済を一番動かしているルドラルガの国王を暗殺し、国を乗っ取ろうと考えたようだ。そうすれば、再び国民からの信頼を取り戻せると思ったらしい。
《けっ。どこにでも金の亡者がいるもんだな。》
――そうだね。どうしてお金は人をおかしくしちゃうんだろう。お金で皆が幸せになれるの? その為なら人を殺したり、他の人を不幸にしてもいいの?
そんな事を考えていたら、アンブがアタシの顔を覗き込んでいたので頭をヨシヨシしておいた。すると気のせいかもしれないけど、少し嬉しそうな表情をしたような気がした。
「機械人や魔物を使ってくるなら今日の可能性が高いよねぇ~。」
《だろうな。でも向こうはこちらの存在を知っているからなぁ。安易に仕掛けて来るとも思えんがな……。》
「そうデスね。警戒だけは強めておきましょう。」
その夜、機械人も魔物の襲来も結局は無かった。
しかし、昨日インチキさんの寝込みを襲おうとしていたあの女の人が、今日もインチキさんの眠っているその場所へ静かに忍び寄っていた。その者は太もも部に仕込んでいた折りたたみ式の槍のギアメタルを起動し、武装した姿でインチキさんの部屋の扉を開けた。そして眠っているインチキさんの元へゆっくりと歩み寄る。




