A3_目撃情報
あれから進展はなかった。アイツの家に侵入することは出来たけれど、何も出てこなかった。モドキを使うのはもうやめた方がいいかもしれない。
あいつは別の意味でやばくなっている。あれからずっと顔を赤くしてニヤけているのだ。聞くと、あの部屋に入ってからその時の匂いやクローゼットの中の下着などが頭から離れないらしい。
――マジでキモイ。正直ドン引きだ。
と言いたいところだけれど、まぁある意味健全な高校生男子の反応なのかもしれない。しかも好きな人の部屋となるとそうなるのも仕方のないことかもしれない。
さて、今後どうしていこうかと考えていたところに思わぬ情報が舞い降りて来た。
「おい、ヘタレとアンブを見た奴がいるってよ!」
「ホントに?! 2人ともどこにいたの?!」
「それが、東京のクレープ屋さんにいたらしいぜ?!」
「えぇ?! 東京?! なんで?!」
「そこまでは知らねぇ~よ。俺もまた聞きだしよぉ~。」
「本当にヘタレとアンブだったのかなぁ? 似た人じゃないの?!」
「確かになぁ~。東京ならあのくらい可愛い子も多いだろうしなぁ~!」
「いやいや、あの2人はその辺の芸能人より美人じゃんよ~。」
ウチはその会話をずっと聞いていた。
――ヘタレ様が東京に?! どういうこと?! やっぱりウチが見たあれは何かの間違いなの?! いや、そう決断するのは早い。まずはその情報源を調べることだ。そして、事実関係をしっかり確認すること。
思いもよらぬところで次の行動が決まった。早速、今日の放課後から東京に向けて出発しようと思う。今日は金曜日だから、土日しっかり捜索出来るしね。そうと決まれば、今の内に睡眠をしっかり取っておこう。
「…サー?」
「チェイサーってば!」
「フミャ?! モドキ?! あれ?」
「もうとっくに放課後だぞ?! お前寝すぎだろ…。」
なんということだ。最近夜もあんまり寝ていなかったこともあって、ぐっすり寝てしまっていたようだ。もともとウチは、寝るとなかなか起きないという特技も持ち合わせている。
「先生呆れてたぜ? あんだけ身体ゆすられても人間起きないんだな。」
「今何時?!」
「え?! 17時過ぎだけど?」
「ぬぉぉおん?! 行くよ! あんたもこい!」
「はっ?! おい! どこ行くんだよ! 引っ張んなって!」
ウチは無理やりモドキの制服の裾を引っ張りながら駆け足で下校する。
「ちょっ?! 待てって! どこに行くんだよ?」
「東京。」
「はぁ?! マジで言ってんの? 2人を見たって噂のやつだろ? 本当にいたって確証でもあんのか?!」
「それを今から調べに行くんでしょ!」
「マジかよ?! ボクそんなお金持ってないよ?!」
「それなら心配すんなや! ウチを誰やと思ってんねん!」
「なんで関西弁なんだよ…。まぁいいや、じゃあ着替え取ってくるわ。」
「急いでよ? 18時に駅に集合だからね?」
「マジかよ! 全然時間ねぇじゃねかよ!」
そういうとモドキは全力で家まで走り出した。同じくウチも走るが、ウチの家は駅の近くだったので、モドキほど走る必要はない。家に帰り、瞬時に荷造りをする。そして、友達の家に明日まで泊まることを親に伝え、家を出発した。そして、新幹線の切符を2人分購入する。
「これであいつ来なかったら死刑ね。」
そんなことを思いながら駅のホームで待っていると、息を切らしながら走ってくるモドキの姿を確認した。その姿を確認すると少しほっとしている自分がいた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「だらしないわね。しっかりしなさいよ。」
「はぁ…しょうが…ないだろ? はぁ…結構家…遠いんだぞ…。」
「はいはい。行くわよ。」
そう言いながらモドキの服を引っ張り、改札口を通り抜ける。そしてウチらは新幹線へと乗り込み、東京へと向かった。
「しかし、お前なんでお金持ってんの?」
「実はこの悪趣味のおかげでたんまり持ってんのよ。」
そう、ウチはこのストーカー紛いの趣味のおかげで金ズルがたくさんいる。実はテレビに出るような人の弱みも握っているので、そういう人は必ずお金で解決させようとするのだ。まぁ~ネット経由なのでウチの存在もバレることはないし、足が付くこともない。簡単なことだ。
ニヤっとして胸元のポケットから封筒に入ったお札をチラっと見せてやる。
「お、お前やめろそういうの! 見えるだろうが!」
「あんたが心配してるから見せてんでしょうが。全く…。」
――お金を見せるくらいなんだってのよ。まぁ、安易に見せられるお金じゃないことは確かだけどさ。
この時私はシャツの間から胸が見えていたことを知らなかった。また貧相な膨らみのせいでいろいろ隠れていなかった。
そうこうしているうちに東京へ着いた。気付けば隣ではモドキが寝ている。
――こいつ腹立つわぁ~。
苛立つ気持ちを抑えつつ、モドキを起こして人込みのホームを抜けていく。この人込みの中でもウチは1人1人をしっかり確認していく。もしかしたらこの中にヘタレ様がいるかもしれないのだ。チェイサーであるウチに確認漏れがあっては名が廃る。
そう思って人の顔ばかりに目が行き、自分の足元には全く注意が行っていなかった。突然、自分が踏むはずだった地面が無くなり態勢が崩れた。そこは階段だったのだ。
気付いた時にはもう遅く、ウチは真っ逆さまに落下するところだった。しかし、突然身体を誰かに支えられ、落下を免れることが出来た。
「こんばんはお嬢さん。何かに気を取られて足元を疎かにしてはいけないよ?」
そう言って身体を支えてくれたその人は、とても優しそうなイケメンのおじさまだった。その人の身体に支えられたが、とても凄い筋肉だった。
「あ、あの…すいません。助かりました。」
「いえいえ、どうしまして。それじゃあ、気を付けて帰るんだよ?」
「は、はい。ありがとうございました。」
そういうとおじさまはスタスタと歩いて行ってしまった。
「だ、大丈夫か?! 正直もうダメかと思ったわぁ~。しかしあのおじさん凄かったぞ! お前が落ちそうになった瞬間、すぐに駆け付けてさ!」
「うん。行くよ。」
「え?! 待てってば!」
私はすぐにそのおじさまの後を追い出した。
「ど、どういうことだ?! あのおじさん何かあるのか?」
「あれは、アンブのお父さんだよ。見たことないけど間違いない。あの家の匂いがした。」
ウチは匂いにも敏感だ。人の家の匂いとうのはどくどくであり、同じ柔軟剤とか芳香剤とか使っていても決して同じ匂いにはならないのだ。そしてあの人からはアイツの家の匂いがした。




