第47話 そこはあかんって……
研究施設を後にした私達は城の屋上に転移していた。空を見るともう夕暮れ時であり、奇麗なピンク色に染まっていた。それはいつ見ても幻想的な美しさを感じさせる。
お腹もペコペコなので、私達はログハウスへ帰ることにした。迷宮へ行った皆はまだ戻ってきていないようだった。
マヌケは夜ご飯の支度をしてくれている。今日は暇つぶしのクモもいないので、特にやることも無くてボーっとしていた。
静かなのは凄く快適なんだけれど、いつもやかましい奴らがいないならいないで少し寂しくも感じてしまう。
「ふふ。今日は静かだね。アンブもクモちゃんいなくて寂しいんでしょう。」
「そんなこと……なくも……ない。」
「えへへ。ホントにクモちゃん気に入ってるみたいだね。なんか少し妬いちゃうなぁ~。」
「ち、違う……。」
「あはは。冗談だよ! さぁ、ご飯出来たから食べようか。」
「……。」
なんかマヌケを傷つけてしまったんじゃないかって少し怖くなった。どうでもいい他人なら、私がどう思われようが嫌われようが知ったこっちゃないと思っている。でも、大好きな人からはやっぱり嫌われたくない。
――今の私にとっては、ヘタレとマヌケだけは特別だから!
だから……2人の為なら何でもする。
私はハムハムしていた箸を止め、おもむろに立ち上がっていきなりマヌケに抱き付いた。
「ふぇ?! ……アンブ?」
「……。」
「えっとぉ……どうしたの?」
――ヤバい。超恥ずかしい。多分私の顔、赤いし熱くなってる。なんでいきなり抱き着いてしまったんだろ?
自分の突然の行動に自分で勝手に恥ずかしがり、固まる。
「そかそか、不安になったんだね? 大丈夫だよ! アタシはずっとアンブの隣にいるんだから!」
そう言いながら頭を撫でてくれるマヌケ。
なんて暖かいんだろ。
なんて心地いいんだろ。
なんていい匂いなんだろ。
とても心がポカポカする。
「えへへ。アンブってば、まだお風呂入ってないんだからあんまり匂い嗅がないでよ。早くご飯食よ?」
そして私達は残っていたご飯を食べた。
「アンブ、皆がお腹空かして帰ってきた時の為にご飯作っておいたから、異空間へ入れておいてくれる?」
「うん。」
私はマヌケの料理を異空間へ収納した。その後、ゆっくりとお風呂に入ることにした。脱衣所で裸になり、温泉施設さながらのお風呂場へ行く。そして身体を洗う為に、洗い場に座った。
「あ、アンブ! 今日はアタシが洗ってあげるよぉ~!」
――何故だ?! どうしてそうなる?! なんでヘタレもマヌケも身体を洗いたがるのだ?!
私が固まっていると、そのすぐ後ろに座るマヌケ。ゆっくり温水をかけながら石鹸を泡立てる。そして優しく背中を擦り出した。
この歳になって、人から洗ってもらうなんてそうそう経験しないことなので凄く恥ずかしいけど、なんか人肌の温もりって心地良いものを感じる。だけど、所々なんかくすぐったいような変な感覚に陥っていく。念入りに背中を洗ってくれていた手がおもむろに前の方にも向かってきた。
私はそれにビックリし過ぎて飛び上がってしまった。
「……?!。」
「急に立つからビックリしたよぉ~。さぁ座って?」
――いやいやいや、おかしいから! 前は絶対におかしいから!
私は大事なところを隠しながら、首をブンブン横に振った。
「今日はアタシが洗いたいの! お願い。」
――何故ここまで真剣な顔をしているか怖いんだけど……。
私が恐る恐る元の位置へ座るとマヌケはギュッと後ろから抱きしめた。
「なんだろうねぇ。正直アタシもいろいろと不安があったのかもしれない。でも、さっきアンブがアタシに不安を抱いて必死に甘えてくれたのが実は凄く嬉しかったりしたの。ヘタレのことが一番大事なのはもちろん分かってるんだけど、アタシのことも少しは大事に思ってくれているのかなぁ~なんて。えへへ。」
――そうだったんだ……。
きっとマヌケはずっと不安だったのかもしれない。不安ながらに、必死に私の為にいろいろとしてくれている。不安という名の心の壁っていうのは想い合っていても、自然と出来ているんだね。私はそう思うと心が軽くなったような気がして、つい身体の力を抜いてしまった。
すると、泡が付いていて滑りが良くなっていたマヌケの腕が、私の小さな2つの山頂で止まることなくスルリと滑り落ちてしまった。
その瞬間、全身に途轍もない衝撃が走った。そのあまりの衝撃にビックリしてまた飛び上がり、そのまま後頭部を強打して気を失ってしまった。
「……ブ?………アン…ブ?………アンブ?」
マヌケの腕の中で目を覚ました。
後頭部が痛……くないな。
――何だったのあの衝撃は?!
「ごめんアンブ……。アタシが変なことしたせいで……。」
泣きながら謝ってくるマヌケ。どうやらヒール魔法をかけてくれた後に私を抱いて湯舟に浸かってくれているようだった。私はマヌケに抱き付いて頭をヨシヨシしながら、大丈夫なことをアピールした。それでも泣き止まないので、お返しに同じところへ同じ衝撃を与えてやった。
「ひぁん?! ア、アンブ?!」
「大丈夫。」
マヌケが落ち着いたので、身体を洗いに行こうとしたがマヌケに止められた。
「あの……気を失っているだけってわかったから……一応全部……洗っちゃった。てへ。」
――ふぇ~ん。私、もうお嫁に行けませしぇ~ん! 全部見られたぁ。いろいろ見られたぁ。
「アンブだって……その、アタシの全部見てるくせに……。」
――知らないけど?! 見たことないけど?! 何言っているのかよく分からないけど?!
その後私達はお風呂を上がり、少し皆の帰りを待っていたけどそんな気配も無かったのでベッドで横になった。この場所からは思念で呼びかけても音声は遠くて届かない。一応アイレンズで見ると発信機は反応しているので、迷宮にいることは分かっている。まぁ、あいつらなら心配ないと思うけど。
「明日は残りの研究施設に侵入してみる?」
「うん。」
「だね。なら今日は少し早いけど、もう寝ようか。」
いつも通りマヌケが抱き着いてきたので、心地良い温もりを感じたまま私は目を閉じた。
――おはようございます。
日の光が降り注ぐさわやかな朝。
小鳥のさえずりに遠くから小さく聞こえる船の汽笛。
そして、隣にはあられもない姿で幸せそうな顔で眠る美少女。
――引くわ~。
いやマヌケにとかじゃなくて、おそらくこれは私の寝相のせいなのだろうとわかっているので、自分に向けて言った言葉ですよ、はい。




