A2_モドキ
ヘタレ様が消えてから4日が経った。
――今ヘタレ様はアイツ(アンブ)に何をされているのだろう…。
したくもない良からぬ想像を勝手にしてしまい、アイツに殺意が沸いてくる。なんてうらやま…じゃなくて、なんて非道な奴だ。くそが。
――さて、どうしたものか…。正直手詰まりだ。
あの後、もう一回アイツの家に行ってみたけど、やっぱり侵入は無理だった。なんか何処からかずっと見られてる感じするんだよねぇ。チェイサーであるウチが捜索されるわけはないはずなんだけど、正直嫌な感じはする。
こうなったらアイツを仲間に取り込むしかない。
そいつはどんな鍵でも開けて侵入してしまう、同じクラスの男の子だ。前世は怪盗だったんじゃないかと思うくらいに侵入が得意でなのだが、怪盗とは違って侵入が趣味であり、物を奪ったりはしないそうなのだ。その趣味は全くもって理解できないが、今はこいつに頼るほかない。
本来、知り合いの家には絶対に侵入しないという訳の分からないプライドを持ってはいるが、その男はあのくそ野郎アンブの事が大好きなので、そいつの家に助けるために侵入するとか適当に嘘を付いておけば協力するはずだ。
早速、次の日学校でそいつを呼び出す。
「どうしたチェイサー、話ってなんだ?」
「ヘタレちゃんとアンブがまだ戻らないじゃん? ウチさ、実は二人が消えるその瞬間を見ていたのよ。」
「な、なんだって?! アンブは?! アンブはどこにいるんだ?!」
「ちょ、ちょっと! 離れろこのエロ! どこにいるかはわからないの! 消えるその瞬間を見ていただけ。」
「す、すまん。一体どういうことなんだ?」
それからウチはヘタレ様に起きた出来事を話し、くそ野郎アンブの家に侵入して手がかりを探したい旨を伝えた。これは二人を助ける為に絶対必要なことだと伝える。
するとしばらく考え込んでいたが、結論が出たようである。
「…わかった。アンブを助ける為に手がかりを探そう。」
「ふん。よろしくね。モドキ(擬き)。」
このモドキというあだ名は、こいつの趣味を知ったヘタレ様が「ルパンみたいでかっこいいねぇ! でも盗まない良いルパンだから擬き(モドキ)だね!」と言い出したのがきっかけだった。
それから皆はこいつの事をモドキと呼ぶようになっていたのだ。普通の女の子なら気持ち悪い! とか悪趣味! とか言うところなんだけど、ヘタレ様は違う。実際、ウチもこいつの趣味とかキモイって思ってた1人なんだけど、変な趣味以外は普通のヤツだし、その趣味も使いようによってはウチみたいに皆の役に立つ時もあるし。
まぁそんなわけでモドキと一緒に今夜くそ野郎アンブの家に侵入することにした。その日の夜の深夜2時にモドキと待ち合わせをし、服部家の玄関まで来ていた。
周りは夜中という事もあり、シーンと静まりかえっている状態だった。モドキは玄関の鍵について調べている。
「これは…。ここら辺じゃああまり見たこともない鍵のタイプだな。一見すると普通の鍵穴なんだけど、実は中にデジタル信号を受信する端末があって、それが鍵をさした時に照合されて…」
「あぁ~! よくわかんない説明はいいから! 空けられんの?! 無理なの?!」
ウチはイライラしながらそう問いただす。
「空けられるに決まってるだろ? ボクを誰だと思ってるんだ?」
そういうとモドキは針金や端末などを使い、鍵を開ける為に作業を開始した。ウチはその間、人が通ったら大変なので外を見張っている。すると「ガチャ」という音が後ろから聞こえた。
振り向くと、モドキが笑顔で親指を立てている。
ウチたちは静かに家の中に侵入していく。音を立てないように玄関を閉め、忍足で先へ進む。
玄関から入ってすぐ右には収納クロークがあり、その先にはトイレや洗面、お風呂、ウォークインクローゼットなどが続いていた。左側には和室と繋がったリビングがあり、その先にダイニングとキッチンが続く。一見するとごく普通の一般家庭の家だ。人の気配はしないので、それらの箇所をいろいろと調べ回る。
モドキの顔を見ると赤くなっている。まぁそりゃ好きな人の家に勝手に入り込んで好き勝手に覗いているこの状況は少なからず興奮してしまうのだろう。
ウチは全く何も思わないけど。
一階は特に不審な点など見つけることは出来なかった。廊下から2階に上がる階段を見つけたので、そこから2階へ上がっていく。階段を上がった先にはトイレや寝室、そして桜夜と書かれたアイツの部屋があった。
まず寝室をゆっくり通り過ぎて、アイツの部屋へゆっくり入った。
その瞬間、モドキの鼻息が荒々しくなっていく。
「鼻息激しすぎだっつーの! バレたらどうすんの?!」
ウチはこそっとそう伝える。
「だめだ…。いい匂い過ぎて…。ヤバい。心臓が爆発しちまう…。」
――ダメだこいつ。本当にキモイ。完全に変態の域に達してしまっている。
ウチはその変態を無視して、周囲を念入りに調べていく。
この部屋にあるのは机とその上にPC、タブレットや教科書などが置かれている。
そしてヘタレ様とのツーショット写真。なんとも言えない感情がウチの中でグルグル回る。
――怒り? 憎しみ? 悲しみ? いや…多分、嫉妬。ウチはアイツに凄く嫉妬しているんだろうな……。多分こんな笑顔のヘタレ様の隣にいれるのが羨ましいんだろうね。
写真から目を離して再度、周りを見渡す。机の横には本棚があり、いろいろな本などが並べられている。窓際にはダブルサイズ程のベッドがあり、奥にはクローゼットがあった。
ウチはベッドに近づき、マットレスを捲ったり下から覗いてみたりしたが何もなかった。
その奥のクローゼットに手をかけた瞬間、隣の寝室から「ガチャ」と扉を開ける音が聞こえた。
ウチらはヤバいと思い、咄嗟にクローゼットの中に身を潜めた瞬間に「ガチャ」っとこの部屋の扉が開かれた。
「桜夜…。」
部屋に入ってきたのはアイツのお母さんだった。しばらく身を潜めているとアイツのお母さんは寝室へ戻って行った。
――はぁ…今のは危なかった。
クローゼットの近くにいなかったら絶対にバレていただろう。
――ホッと一安心だ。
クローゼットの中も調べてみたけど、やっぱり何も出てこなかった。引き出しを調べたらアイツのブラパンが出てきて、モドキが鼻血を出して目を回していたので、今日は退散することに決めた。
――ウチの検討違いだったかなぁ…。でも何かこの家、怪しい匂いがするんだよねぇ…。




