第40話 蜘蛛忍者
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――アタシはクモ。
「今日のアタシは一味違うよぉ! だって魔王様の命令で、全力で戦っていいことになってるんだもん! 自分の全力を出せるなんてそうそう無いからねんッ! 久しぶりにクモちゃんは全力でワシャワシャ働くよ! きゃははは! 必殺、蜘蛛糸縛り~! 必殺、蜘蛛毒の舞い~! きゃははは! 見たか、スマコ様経由の主様直伝、忍者っぽいアタシの攻撃を!」
忍者なんて者はアタシ全く知らないんだけど、スマコ様曰くアタシなら主様のような動きに近いことが出来るらしい。それが主様の力になれるのならもちろん頑張って練習するに決まっている。
「これでもっと主様に褒めてもらえるぞぉ~! まだ褒めてもらったことないけどねぇ! きゃははは!」
――アタシは元気で明るいのが取り柄だ! それ以外には特に何も取り得ない! えっへん!
龍魔族の血を引いて生まれたアタシは他の蜘蛛の魔物とは違って圧倒的な強さを持っていた。卵から孵った瞬間に共食いを始める兄弟たち、更にアタシの両親なのかよく分からない巨大な蜘蛛まで子供たちを食べ始める始末。
――生まれたてなのにアタシはドン引きしたね!
何とか仲良くしようと思って全力で喋りかけてみたんだけど結局は無駄だった。アタシまで食べようと迫る兄弟にはバラバラになってもらい、はみ出し者のアタシを始末しよう全力で殺しにくる巨大な蜘蛛にも猛毒で永遠の眠りについてもらった。アタシはただ、仲良くしたかっただけなんだけどなぁ。
それからアタシは迷宮内をあちこち移動しまくっては、そこらにいる魔物達に全力で話しかけて仲良くなろうと頑張ってみた。
でも皆アタシの姿を見た瞬間にすぐ逃げ出してしまう。たまに全力の敵意をむき出しにして殺しにかかってこられることもあった。
アタシはただ、仲良くなりたいだけなのに…。
それでもアタシは諦めずに、仲良くなれる仲間をずっと探し続けていた。するとある日、アタシの言葉が分かる魔物達が現れた。まず始めに出会ったのは狐龍という名の狐の女の子の魔物だった。アタシは言葉が通じることに喜びを感じすぎて、メチャメチャ纏わりついて話しかけた。
最初は狐龍からも凄く邪険にされて、全力で殺されそうになったこともあった。それでもめげずに全力でアタシの気持ちを伝え続けていったら、少しずつ狐龍も話をしてくれるようになったの。
それからアタシ達はどんどん仲良くなって、更に同じ境遇の他の3匹とも出会って直ぐに仲良くなれた。この出会いはアタシにとって、とてもかけがえのない大切なものだった。
出来れば、ずっとみんなと一緒にいたいし、ずっと喋っていたい。けれど迷宮の管理はアタシたちの使命だから絶対にやらないといけない。だからみんなと会えるのが半年に1回くらいだったのが寂しかった。
それが数百年くらい続いていたんだけど、そんな時に魔王様が生まれた。このアタシが身震いするような邪悪なオーラを纏った魔王様。
――正直、怖かった。
でも使命には逆らえないから、覚悟は決めていた。我慢すればずっとみんなと一緒にいられるということだけ自分に言い聞かせて。
でも実際に主様と行動を共にするようになってまだ数日だけど、全然怖い人じゃなかった。確かにいつも無表情で無口で素っ気無くて愛想もないんだけど、なんか一緒にいると暖かいというか……。
――こんな人間は初めてだった。
昔は暇だったから人間にも喋りかけてちょっかいを出したこともあったんだけど、大体失神されるか、いきなり攻撃されるかだったもんね。もちろん人間の攻撃なんか効きはしないんだけど、心が痛かった……。
でも主様は普段素っ気ないくせに何かと絡んでくるし、アタシが絡んでいかないと少し寂しそうにするし、マヌケ様に甘えたいのかいつもスリスリしてるし……何この可愛い生き物って思った。本当は主様にこんなこと思っちゃいけないんだろうけど……アタシという存在を認めてくれてるんだなぁって感じる。
――そんな可愛い主様の命令ならアタシ頑張っちゃうもんね!
アタシの蜘蛛糸はネバネバにもなるし、硬く固めることも出来るのだ!
「受けてみよ! 必~殺! 蜘蛛手裏剣!」
手裏剣ってのをアタシ知らないけど、硬く固まった蜘蛛糸の刃を回転させながら飛ばして敵を切り裂く!
「か~ら~の~! 蜘蛛糸絡み地獄!」
蜘蛛糸は太くすることも出来るけど、逆に目に見えない程に細くすることもできるのだ。それをいたるところに張り巡らせて、糸が反応したらそれを引っ張り上げる。すると、細い糸がめちゃくちゃに絡まり、そのまま切り刻まれて殺してしまう。その攻撃を受けた魔物は、肉の塊しか残らない。
――自分でいうのもなんだけど、気持ち悪ッ! これ誰かに見られたらドン引きなんだろうねぇ。
「ってい?! 主様いつからいたの?!」
振り向くとそこには魔王様がいつもの無表情……よりもちょっと引いているような顔をして立ち尽くしていた。
「いつからいたの?! えっと…これは褒めてくれるのかな? だったら嬉しいなぁ! 何かご褒美とかもらえたり~? 何をお願いしようかなぁ~。えへへへ。」
そんなことを言っていたら、急に強いオーラを纏った人間が現れた。
「あんた誰?!」
「……。」
「て無視かーい! そういうのは、うちの主様だけで間に合ってるっての! あッ……」
「……。」
「い、いたたた! ごめんってば主様。冗談! 冗談! えへへ。」
――全く冗談が通じないんだから主様は。さて、こいつ本当に何者?! 人間だよね?
その人間はピストルらしきものを構えて、銃口をアタシに向けて撃ってきた。
――アタシに普通の銃なんて効くわけないじゃん?! まぁ、思い知らしめて逃がした方がいいかもね。
そんなことを考えて、そのまま銃弾を受けることにした。
しかし、主様に後ろから蹴り飛ばされた!
「い、いった~いよ主様?! 今のはマジで痛かったよ?! アタシのお尻へこんでない?! 酷いよぉ~!」
主様は銃弾が通ったところを指さす。そこには一つの銃弾で木々がなぎ倒され、めちゃくちゃデカい大穴が開いていた。
――うわぁ~あれ受けてたらアタシのお腹に大穴が開いてたね。マジで笑えないじゃん?!
その人間はあろうことかその銃を連続で撃ってきた。ヤバいと思って、アタシは身体を小さくして銃弾を回避した。
「主様、大丈夫?! ってあれ?! なんで避けてんの?! それ見えてんの?! おかしくない?!」
ひらりひらりと銃弾を華麗に躱す主様。
何あれ! 超かっこいいんだけど?!
「クモ。」
主様に呼ばれて、アタシは主様の肩に乗る。
「……ぅ、重い。」
「ひどぉ~い主様! 主様が乗れって言ったんじゃん!」
主様はアタシが肩に乗っているのに、銃弾を躱し続ける。アタシはその隙に蜘蛛糸で敵を拘束していく。
――クモちゃん特製のガチガチのグルグルの巻き巻き攻撃で身動き1つ取れなくしてやったわ! あははは!
すると主様はアタシを全力で投げ飛ばした。
「ちょっと扱いひどくない?!」
そう愚痴を言いながら、そのままの勢いで身体を元の大きさに戻して自身の鋭い鎌で敵の首を切り取った。
一安心して振り向くと主様の姿はもうなかった。
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