第39話 空の王者
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――オレはインコ。大空を翔る空の王者と言われるもの。
今オレは主様の命令で、王都へ侵攻してきている魔物の大群を殲滅している途中だ。だが、正直ビビっている。
――というかめっちゃ怖い! こいつらどっから湧いて出た?! なんで王都に向かって進行している?!
地上への出口は確かにたくさんあるが、その辺の魔物が簡単に見つけることが出来るような場所ではない。本当にたまたまそこを通らないと、抜けられないのだ。だから今まで大量の魔物が地上に出たことも無かった。それ故に今の目の前の光景には目を疑ってしまう。
しかも、この魔物達は何故か全員が殺気立っている。迷宮の魔物達はそこまで殺気立って多種多様の集団で襲うような習性はない。これは明らかに異常とみるべきだ。こんなことは例外すぎる。
怖すぎる。もう逃げ出してしまいたいくらいだ。でも皆が戦っているのに自分だけが逃げるわけにはいかない。それだけが今オレを戦いに向かわせている支えだった。
とりあえず魔物の数は多いが、今のところオレに勝てるようなヤツがいないのが救いだ。オレは空の王者なんて呼ばれちゃいるが、中身は正真正銘のビビりだ。
――ビビりなめんな、くそ野郎。今でも手一杯なのに、更に強敵の増援だって?! スマコ様そりゃねぇ~よぉ~。オレ、マジで泣きそうだぜ? 早く主様の異空間の中でのんびり皆とダベりてぇなぁ~。
そんな考えとは裏腹に、明らかに強いオーラを持った者が現れやがった。それは人間の男の姿をした者だった。魔物の大群の中をスタスタと平気な顔して歩いて来やがる。明らかにアイツは異常であり、普通の人間ではないってことだ。
まぁウチの主様もマヌケ様も普通の人間じゃねぇけどな。あの2人とか見てると、人間全部が怖く思えてきてしまう。今まで人間なんか魔物以下の存在としか思ってなかったのに、急に価値観が変わってしまった。
主様のあの恐ろしい程のオーラ……。思い出しただけでも怖くて涙が出てくるぜ。
――いかんいかん。さて、あの人間どうしよう……。きっと強いはずなんだよなぁ……。とりあえず攻撃してみっか?! まぁあんだけ大群の中にいるからもう一度デカい竜巻でも起こしてみよう!
そう思って全力のトルネードをあちこちに放った。すると、先ほどと同じように魔物達を次々に巻き込みながら、勢いを増して消滅させていく。
そして、人間がいる場所にもトルネードが通過するが、なんとその場所でトルネードが止まってしまった。しかし、周りの魔物達は風の勢いでどんどんトルネードの中に吸い込まれていき、やがてトルネードの中の静電気で出来た雷により、魔物共は消滅してしまった。やがて、近くの魔物は人間のみを残して、全て消滅してしまった。
問題の人間に関しては全くの無傷で尚も歩いて向かって来ている。しかし、突然その人間は立ち止まり、辺りをキョロキョロ見渡し始めた。
「は……。」
「……は?」
「は、恥ずかしぃ!」
「……はぁ?!」
いきなり挙動不審にウロウロし始めてしまった。
「えっと……お前何者だ?」
「あれ?! 魔物に隠れていたはずなんだけどなぁ?! ボクの周りの魔物はどこに行ったんだい?!」
「えっと、わりぃ。殺した。」
「き、君は迷宮の管理者だな?」
「そうだが?」
「じゃ、邪魔をするな! に、人間は殺すんだ!」
「お前は人間じゃあ……無さそうだな。もう一度聞く、お前は何者だ。」
「ぼ、ぼくらは人間に変わる新たなる新人類……だ!」
「新人類? お前らがこの魔物を王都へ襲撃させたのか?」
「そ、そうだ! 何故君達が人間の味方をする?!」
「まぁ、成り行きだ。今なら見逃してやるから、引き上げてくれねぇか?」
――頼むからこれで引き上げてくれぇ! マジで頼む! もう怖いのは嫌なんだよぉ~。
「そそそ、そんなこと出来るわけないだろ?! 殺されて……しまう。」
そういうと人間は背中の皮膚が盛り上がり、そこからジェット噴射して飛び上がりこちらに向かって突っ込んできた。
「おいおい、やめとけって。オレには風の鎧が……。」
ここまで言いかけて、オレは緊急回避した。自分の感が危険と訴えかけたのだ。
「ちっ。惜しかったなぁ。あと少しで首を刎ねられたのに。」
いつの間に出したのか、でかい斧を片手に振り抜きそう呟く。その斧は表が鋭い刃先が付いており、反対側はハンマーの形をしている。
なんてことだ。今のは本当に危なかった。自分より相手がビビっているように思えて、かなり油断していた。あのままでは間違いなくオレの首が飛んでいただろう。あの者は容易くそれが出来る程の力を持っていた。
「あぁ~あ、迷宮の管理者ってのは強くてめんどくせぇなぁ。あんまり手間かけさすんじゃねぇぞ?」
先ほどよりも速いスピードで向かってくる。オレは全力でその斧の刃先を回避するが、その反対側のハンマーになっている部分で叩き付けられる。風の鎧を纏っているのにも関わらず、かなりのダメージが通る。
「おらぁ~スパっと斬んのも好きだが、叩き殺すのも大好きだぜ?」
そういうとまた斧を構えて向かってくる。正直参った。くらったダメージが思いのほかデカい。何度もくらうといくらオレでも持ちそうにない。
更にあの斧の刃先に当たったら簡単に斬られてしまうだろう。それだけ切れ味が凄いのだ。まずはあれに当たらないように全力で回避し続けていく他はないようだ。しかし、ハンマーの攻撃まで躱せるほどに余裕が無い為、じわじわと体力を削られる。
「さて、そろそろ飽きたし、死ね。」
ハンマーをモロにくらい、地面に叩き付けられた。
――まずい、回避できない!
斧の刃先が目の前に迫っていたが、急に身体が軽くなった。
「ん?! 主様?!」
主様がオレの身体を持ち上げて、敵の攻撃を回避したようだ。
――正直助かった。あのままでは負けていた。
「お前だれだぁ?! 人間じゃなさそうだなぁ!」
「……。」
「まぁいいや、どっちみち皆殺しの予定だ!」
主様は敵の斧の攻撃を全て受け流しておられる。力に逆らわず、その流れの中を舞い踊るか如く。
「忍殺……制動忍空圏。」
奇麗だな……思わず漏れた言葉がそれだった。
今のオレには魔王様の邪魔にならないようにすることしか出来ない。
――でもいつかはきっと……。
「おいおい、まじかこいつ。こんなヤツがいるなんて聞いてないぞ? 一度出直すか。」
敵はそういうと王都とは逆方向へ向かって飛んで行ってしまった。主様は無表情のまま敵の姿を見つめ、突然霧のように消えてしまった。
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