第35話 国王の本性
研究所の入り口付近には、地面に重量センサー、壁には監視カメラが付いている。監視カメラは5秒間隔でそれぞれが首を振るタイプだった。
このタイプは、少ないカメラの数で広範囲の場所を監視しようとする時に適したものではあるが、私から言わせればそれが落とし穴であり、カメラが動いていることで逆に死角を作ってしまっているのだ。
スパイの教育を受けた私にはカメラのレンズを見ればそれに映る限界範囲が分かってしまう。そのカメラの限界範囲とカメラが動く間隔の5秒とカメラが動いて止まるまでの時間を統計し、カメラに映らない死角が出来るタイミングを割り出した。もちろん難しい計算は全てスマコに丸投げだったけど、カメラが動いたその1.7秒後に一瞬で飛び抜ければ、全く映らない。
「てことで、行くよ。」
「ふぇっ?!」
私は神成モードを纏って翼を出現させて宙に浮き、マヌケの手を取って一瞬で扉の前まで飛び抜けた。思惑通り、カメラは私達を捉えることが出来ず警報も鳴らなかった。
思念「ア、アンブ……やっぱり、いきなりはびっくりするよぉ。」
マヌケは花びらの機械から直接脳波でそう伝えてくる。この機械を肌に付けているうちは直接会話をしなくても思念で会話することが出来るのだ。
私は無表情で無視し、扉の電子ロックを簡単に解除する。
思念「うわぁ。アンブって実は泥棒さんなの?」
その問いかけも華麗に無視し、室内へ侵入する。
通路は暗いが、アイレンズを起動している私には関係がない。
少し行ったところにある部屋だけ明りが灯っていた。
私は魔王の力で空間魔法を発動し、私達の周りの空間だけを操作して重力を逆にし、天井を歩けるようにした。
そのままその部屋を覗いてみたが、そこは守衛さんの部屋みたいだった。パソコンらしきものからは防犯カメラに映った映像が流れ、監視人らしき人は足を投げ出して居眠りをしている。
――こんな状態なら普通に入っても良かったな……。
私達は更に奥へ進んでいった。どうやらここは最新の魔動武器などを研究している場所のようだ。研究室と思われる場所が何個も並んでおり、様々な実験を繰り返しているような形跡がある。
このエリアに関しては、それ以外に何もなさそうだ。私達は天上を歩きながら、奥にどんどん進みエレベーターの前まで来た。
――全部で50階?!
まぁこれだけ高いビルならそのくらいはあるかもしれない。でも私が不振に思うのが、このエレベーターがずっと下の方へ続いていること。ここからでは空気や音などが全く届かずに遮断されているのでスキル感知ではそれ以上何もわからなかった。
どうしようかと考えていたその時、急にマヌケの顔色が変わった。
思念「まずいよ! この王都周辺を凄い数の魔物が囲ってる。」
マヌケの目の前にディスプレイが現れ、そこには王都と思われる地図の周りを赤い点が取り囲んでいるのが表示された。私はこの建物の中では感知が上手く使えないので、さっき行ったこの建物の屋上へ瞬時に転移する。
そしてスキル感知を発動しその情報をアイレンズに表示する。
――スマコ、これまずくない?
《チッ! こりゃマジでヤバいな。あの程度の防衛システムじゃぁ倒せない敵がおよそ数千匹、それらがここに侵入したら間違いなく滅びるぞ。》
――マジかぁ。絶対絶命じゃんよ。しかも王都側はまだこの魔物の襲来に気付いていない感じだし…。
少し待っていると、魔人の皆が戻ってきた。スマコが呼んだらしい。
――さて、どうしたものか。
《主さ、ここは国王に直接危機を伝えてこちらが味方であることを証明したらどうだ?》
――なんで? こっちで勝ってに倒しちゃってよくない?
《国王を味方に付けておけば、後々動きやすいだろ? それにマヌケ様の為になる。》
――確かにそっか。例の約束があったもんね。でもそんな上手くいくの?
《クモが掴んだ国王の情報はさ、人の安全を第一に考える奴らしいんだよ。そんな奴がこの王都に危機が迫っていると分かれば絶対動くだろ? そしてあの防衛システムが役に立たないピンチに陥ったところを救ってやればいいんだよ。》
――なるほど、それを利用してこちらを信用させようってわけね。考えることが悪いなぁ~。でもまぁ今はそれしかないか。
――王都は広すぎるから、手分けしてそれぞれ各所で敵を撃退した方が良さそうだね。皆の強さとスピードならそれでカバーできるよね?
《あぁ、無理やりにでもさせる。》
――鬼教官だ……。
私とスマコの作戦会議は終わり、それからスマコは皆に指示を飛ばす。
デス「心得ました。それでは配置につきます。一応確認ですが主様、敵に対して手加減は一切無用ということでよろしいでしょうか?」
マヌケを含め、一斉に私を見る。
「……いいよ。」
「「御意。」」
ボソッと言った私の一言を聞き、5人は移動して行った。
「無理しなくていいよ」と言ったつもりだったのに最後しか言葉が出なかった。何故か全員がとても嬉しそうに移動していったので凄く怖い気がする。
「まさかアンブが喋るなんてね。みんな嬉しそうだったね。」
――え?! 多分そこじゃないと思うよ?
セツの指示でクモは国王の元を訪れている。
《お? 今クモが国王と話してるねぇ。主、アイレンズに写すからな。》
――え?! そんなこと出来るの?!
私がそう言った瞬間に左目の視界に映像が浮かび上がった。そこには、国王と思われる人物が逆さまに映っていた。これはクモの視界を映しているらしいんだけど、セツ曰くこれも空間魔法とスキルと七つ道具の機能を融合させて応用したものらしい。詳しい理屈はよくわかんないけど……。
――てことはクモも天井からぶら下がってんの?! やっぱあいつどこか忍者っぽいんだよなぁ。待って、あいつスカートじゃなかったけ?!
――しかしこれが国王か……。おっさんかと思ったら意外と若い。
大きな椅子に踏ん反り返り、片ひじを付いて手の上に顎を乗せてクモを見上げている。
「お前の情報が正しいという証拠はない。我ら自慢の最新鋭の防御システムも全く反応しておらん。更に言うと、仮にその魔物の軍勢が押し寄せたとしても、我々の防御システムだけで十分対処可能である。」
「だからぁ~それじゃ無理なんだって。人が死ぬよ? あんた国王としてそれでいいの?」
「知れたこと。正体不明のお主を信用しろと言う方が無理な話である。」
話の途中で国王の家来らしき者が乱入してきた。もちろんクモには全く気が付いていない。
「国王様! 大変です! この王都を取り囲むように魔物の大群が押し寄せております!」
[ふむ。確かに魔物は来ていたようだな。よし、全て防衛システムをフル起動し、全てを迎撃せよ。」
「だから無理なのに~。主様ぁ~助けてぇ~。」
クモが困っている。まぁ確かに、いきなり現れた正体不明なヤツの言う事を聞く訳はないよね。まぁ、やってみたら自分たちの愚かさがわかるさ。マヌケも呆れて首を振っている。
その直後、王都中に警報が鳴り響く。
王都の周りの壁に設置されている防衛システムが起動し、全方向へ攻撃が開始された。想像通り、防衛システムの攻撃が強い魔物には全く効いていない。それに慌てた家来が再度国王の元へ訪れる。
「国王様! こちらの攻撃が全く効いておりません! このままでは危険です!」
「な、なんだと?! どういうことだ! 最新鋭の防衛システムだぞ?! 火力を最大限に上げろ! 何としても食い止めるのだ!」
「は、はいっ!」
そう言うと家来はまた部屋を出て行った。
「ねぇ、そろそろ手ぇ出していい? 早くしないと手遅れになるよ。」
「むむむ。だってぇ……」
「え?」
「だってだって、大丈夫だって思ったんだもぉ~ん! 何あの魔物達! 僕どうしたらいいの?! このままじゃ国が滅んじゃうよぉ~。」
「「えぇ……。」」
クモと同じタイミングで私とマヌケが引いたのは言うまでもない。
「だのむ~! なんでもいいがらこの国を救ってぐれぇ~!」
「……もうこっち勝手にやるからね。」
そういってクモは自分の持ち場へ移動する。
――はぁ~。こいつダメなやつだ。
スマコはすかさず、全員へ指示を送る。
《お前ら、やれ!》
「「了解!」」




