第33話 シュタッと参上!
「まずは、魚の積み荷を受け取らなきゃねぇ。」
「……。」
「アンブってば、まだ怒ってるの? もう怒らくて大丈夫だよぉ。」
「……。」
――怒るに決まってる! 全くなんだあのくそ野郎……。 ムカムカムカ……。
「よしよし。大丈夫だから、ね? ほら、それよりもまずは王都でヘタレを探すのが先決でしょ?」
――そうだけど……。
まぁ、マヌケはいろいろ考えてくれているのだ。私が怒ってメチャメチャにしたらそれが水の泡になる。私に出来ることは、今はちゃんと我慢して最悪のシナリオにならないように、マヌケを絶対守ることだ。
私達はそれから船着き場まで来た。
漁師さんに王都へ魚を納入しに行く事を伝えて、お魚と運搬用の荷台が付いた2輪車を借りた。その荷台へ魚が入ったコンテナを乗せ、それを引いてテクテク歩いていく私達。普段なら馬車で引かせないと重たくて運べないらしいので、皆がドン引きしていた。
その後私達は人目の付かないところで、荷台のお魚さんを氷結魔法でカチコチに凍らせた。ちょっとかわいそうな気がしていたんだけど、王都までは普通に行けば一週間の道のりなので、凍った状態じゃないと不自然らしい。まぁ馬車じゃない時点で十分あやしいと思うんだけどな。
そして私はその二輪車を異空間へ放り込んだ。
その後すぐに昨日行った王都の入り口付近の森の中に転移した。
すると、王都の入り口らしき場所には昨日とは違って多くの馬車が止まっていた。おそらく他の街などからもこうやって物を売りに来ているのだろう。
私は異空間から二輪車を取り出してその荷台の中に隠れて気配を消した。一応変化服でフードを作って頭から被り、体形も変えていた。
マヌケは二輪車を引っ張り、検査待ちをしている多くの馬車の中に紛れ込んでいく。
王都への壁の入り口では何人かの監視人が荷物の検査などを行っているようだ。通行証と個人の特定を行い、許可が下りれば通行できる仕組みらしい。
そしてマヌケの順番が回ってきた。
監視人A「失礼ですが、これはご自分で運ばれて来たのですか?」
「はい。港町から来ました。これが通行証です。」
監視人A「港町からこれを?! …そうですか。ちょっと確認させて頂きます。」
「どうぞ。」
何やらデバイスのような機械をマヌケの左手に当てる。
そして、もう一人の監視人Bが荷台の確認を始めた。
監視人A「あなたは?! 何故ここに?! なるほど……。納得しました。おい、積み荷は魚で間違いないな?」
監視人B「あぁ。間違いはないが……。何故冷蔵馬車でも無いのに凍ってるんだ?」
監視人A「この方は勇者候補様だ。」
監視人B「なんだって?! これが魔法か……初めて見たぜ。」
監視人A「確認が出来ました。どうぞ、お通り下さい。」
「どうも。」
マヌケは王都への入り口に向かって進んで行く。勇者候補っていうのは、国中の人がその存在を知っているみたいだね。
――今度、詳しくマヌケに聞いてみよっと…。
私はというと、荷台の下に張り付いて息を殺している状態だった。
――監視人が下まで除かなくて良かったよぉ……ドキドキして心臓が口から飛び出るかと思ったし、マジで。
やがて高い壁を抜けて、王都への入り口であろう大きな門が見えてきた。これを抜ければもうこっちのもんだ。
その大きな門を通り過ぎた瞬間、警報が鳴り警備員らしき者達が銃を構えて出てきた。私は警報の音にビックリし過ぎて地面にお尻から落ちてしまった。
「ふぇ?!」
「お待ち下さい! 通行を許可されていない者の侵入を感知しました。その荷台を調べさせてもらってよろしいでしょうか。」
「は、はい……。」
――まずい。
入り口側で許可した者以外がこの門を通ったら警報がなる仕組みだったようだ。
瞬く間に荷台が取り囲まれてしまっている。
――油断していた……。
私は警備員が荷台の下を覗く気配がしたので、瞬時に移動する。
「うぉ?! 誰かいたぞ! 捕まえろ!」
私は変化服で変身しており、フードを深く被り顔を見えないようにして体形を変えていた。そして警備員が追い付けないスピードで、尚且つ見失わないスピードで走り出した。その後を何人かの警備員が追って来る。
「あなたの荷台に外れ者が潜んでいたようです。私達はあの者を捕らえに行きます。あなたは許可が下りていますので、そのままお進み下さい。」
「は、はい。」
マヌケと私は関係ないと思ってくれたみたいで、マヌケも順調に王都に入ったようだ。私はそれを確認した後、警備員の前から姿を消したのだった。
それからマヌケは予定通りに市場へ魚を納入してから二輪車を置き、昨日クモが行ったあの場所に向かって進んで行く。私は街中に設置してある監視カメラに映らないように、建物の屋上や壁の出っ張りなどを飛び移りながらマヌケの後を追っていく。やがて住宅地と思われる一帯まで来たら、監視用カメラの数は激減していた。
「ア、アンブ? 近くにいるの?」
「うん。」
シュタっと体形だけを元に戻した私はマヌケの背後に現れて返事をする。
「ひゃあ?! びっくりしたぁ!」
今のスパイである両親含め、歴代のご先祖達様もこうやって影から大事な人を守ってきた。本来なら私もそうやって生きなければならない宿命だったのだ。
――でもぶっちゃけ、これやってみたかったんだよぉ~! だって、カッコ良くない?! 一見姿はないのに、呼ばれたらいきなり現れるなんて漫画の世界じゃん?! ふふふ! 一つ夢が叶ってしまったよぉ!
「アンブ、心臓に悪いからそれ!」
――ふぇ~ん……怒られた。
「でもまさか中にまでセンサーがあるのは想定外だったね。おかげでアタシもうダメかと思ったもん。スマコちゃんが指示してくれなきゃ頭真っ白で一緒に逃げ出してた思う。」
あの時、瞬時にスマコがマヌケにそのまま待つようにアドバイスをしてくれていた。それが無かったら、マヌケは神機モードを発動してしまい一緒に逃げていたと思う。
それは私達に繋がりがあるという証拠となってしまい、それは港町の町長の耳に入ってしまうだろう。そしたらマヌケはヤツの好きなように弄ばれ、もしかしたら町の人たちにも被害が及んでいたかもしれない。
――結果的にはまぁこれで良かったのかもね。
これだけ監視用のカメラが多いとも思わなかったし、それに私が堂々と映るのは流石にまずいと思うし。幸いにも建物の上側を映しているカメラはないので、同じようにピョンピョン飛び回っていれば何とかなりそうだ。
そろそろ建物が増えてきたので、私はまたマヌケから離れる。
――でも正直離れんのやだなぁ~。寂しいなぁ~。後でいっぱいスリスリしよ……。
私達はクモが昨晩来た、とても高い建物に着いた。マヌケはその周辺の聞き込みを行ってくれる予定だ。私は気配を消したままこの建物をピョンピョン上って行く。やがて頂上に辿りついたが、そこは王都が一望できるほどの高さがあった。
改めて見ると、とても幻想的で奇麗な街だ。
私は感知に集中するが、ヘタレもカオスもこの周辺にはいないようだった。
――スマコ、なんでここにヘタレのポーチがあったと思う?
《少なくともここにヘタレ様が来たのは間違いないようだな。あれは完全なヘタレ様の私物だし、この星じゃあ全く使いものにならないもんだからな。ここに捨てて行ったのか……あるいは何かの意図があってのことか。》
――そっか。いずれにしても情報が少ないね。あなたは今何を思っているの? 元気なの? 無事なの? 酷い事されてない?
――ヘタレ……心配だよ。
《主、一度マヌケ様と合流しようぜ。》
――分かった。
屋上には他に何も無いことを確認して、マヌケの元へ移動した。




