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第32話 くそ野郎

 朝食を済ませた私達は、町長さんの家に向かっていた。一応魔人の皆には異空間へ入ってもらった。


 町長さんの家はこの斜面に並んで建っている住宅地の一番上にある大きな家だ。まぁ町長というくらいなのでお金持ちなんだろうねぇ。


「最初に言っておくとね、町長さんはその…あまり印象は良くないと思うの。結構嫌な言い方とかもするからね…皆にもそんなに好かれていないんだ。だから、アンブも嫌な思いするかもしれないけど……お願いだから怒らないでね? 絶対だよ? お願い。」


――なんでそんな人が町長なの?! まぁマヌケがそういうなら別に何もするつもりはないけどさぁ。


 それから少し階段を上った先へ大きなお屋敷が見えてきた。大きな門柱に76号家という表札が掛かっている。マヌケは呼び鈴を鳴らす。


「はい。」


 渋い男の人の声が聞こえた。


「123号さん、599号です。 突然すみません。村長さんにお願いがあって来ました。入れてもらえませんか?」


「599号様?! 承知しました。しばらくお待ち下さい。」


 ガチャ。という音と共に玄関の扉が開き、姿勢が良いおじさんが出てきた。


「お久しぶりです。123号さん。」


「599号さんもよくぞご無事で。どうぞ、お入り下さい。 おや? そちらの方は?」


「この子はアタシの大事な友達です。この子も一緒にお願いします。」


「……。わかりました。どうぞ、こちらへ。」


――何だろ、メッチャ見られた。


 まぁ、初めて会うから当たり前なんだろうけど、全身を上から下までじっとりと見られた感じだ。それにはちょっと引いてしまった。


 それから私達は案内された大きなお屋敷の中に入り、そのまま客間らしき部屋へ通された。しばらく待っていると、急にドアが開いた。


「599号ちゃん?! あぁ~会いたかったわよぉ~。元気にしてた? 少し身長伸びたんじゃないかしら? お腹空いていない?」


「90号さん、お久しぶりです。アタシはおかげ様で元気ですよ。90号さんもお変わりない様で安心しました。」


「あらあら、私ったら。あなたが使命に従って魔物の迷宮に行ってしまってから寂しくってねぇ。正直もう会えないんじゃないかと思っていたのよ…。」


「ありがとうございます。アタシは迷宮の中でこの子に助けられたんです。」


「あら? 私ったらごめんなさいね? 挨拶が遅れたわね。私は90号と申します。この町の町長である76号の妻です。あなたは?」


「……。」


「……?」


「……。」


「……あら?」


「……。」


「あの……お名前は?」


「……。」


「ご、ごめんなさい90号さん! この子は、その……言葉が喋れないんです!」


「あ、あらそうなのね。私ったらごめんなさいね……おほほほ。」


「あはは……。」


 なんとも微妙な空気が流れる。


――これって私が悪いの? 知るかそんなもん。


 ガチャっという音と共に今度は太ったハゲのおっさんが入ってきた。


「ふん。まだ生きておったか599号。使命をほったらかしてノコノコ戻ってきたのか?」


「いえ、そのようなつもりは全くございません。ただ、今はやらなければいけないことがあるので、お力を貸していただきたいのです。」


「断る。とっととあの迷宮に戻れ。最近じゃ魔物の数もかなり増えて迷惑してるんじゃ。全く何をしているのかと思えば、ノコノコ戻って来よって。ここにお前の居場所はないぞ。さっさと出ていけ。」


「お、お気持ちはわかります。悪いのは全部アタシです。魔物については必ずアタシが何とかしますので、その……王都への通行証を頂けませんか?」


「王都だと?! 貴様が王都で何をするつもりだ?」


「そ、それは……。」


 それからマヌケは必死に通行証をもらう為にずっとお願いをしていた。もちろん本当のことは言わずに、ただ王都に用事があるとの一点張りで。


「どんなにお願いされようが、許可できん。とっとと迷宮へ帰れ。」


「……それでは、この港町から王都に納入している魚の単価を一律3%引き上げて来ることをお約束します。」


「ほう? もし、しれが叶わなかったら?」


「私を好きにしてもらって構いません。」


「その言葉、忘れるなよ?」


 途端にこのくそ野郎の目つきがいやらしいものに変わる。私はもちろん先ほどからキレている。何とか沸点ギリギリで留めている状態だ。先にマヌケに止められていなければ、おそらくすでに手を出していただろう。


「それと、そこの見知らぬヤツ。お前にもこいつのケツを持ってもらうぞ? ひゃひゃひゃ、楽しみだ。」


 一瞬だけ、マヌケから怒りのオーラを感じた。それは私までゾクっとするようなオーラだった。


「あ、あなた……。」


「あん? お前如きがワシに何か意見でもあるのか?」


「い、いえ……そのようなことは。」


「ふん。年増に用はないわい。とっとと失せろ。それと、この話は町の者には一切口に出すな。いいな。」


「……はい。」


 そう言うと、くそ野郎は部屋を出て行った。


――何なんだあいつは! むかつく! マジでムカつく!


 私がかなりプンプンしているのが分かったのか、マヌケは笑顔で頭を撫でる。


「599号ちゃん? その……こう言っては何だけど、3%の単価引き上げなんて無理だと思うわよ? 正直に言うと、この前国王様が単価を引き上げてくれているの。でもあの人はそれを町の皆さんには内緒にして、自分の利益にしているのよ。だから、これ以上の単価引き上げなんてかなり絶望的だわ……どうしてあんな約束をしてしまったの?」


「……そうなんですね。難しいかもしれませんけど、何とか頑張ってみますよ。」


「そう。あなたには無理をしてほしくないのだけれど……。どちらにしてもあの人と約束をしてしまった以上はもう引き返せません。123号、王都への通行証を出してあげなさい。」


「承知しました。奥様。」


 執事らしきその渋い声のおっさんは奥にから紙を持ってきた。それに何やらいろいろと書き込みをしていく。しばらく待っていると全てを書き終えたようで、その紙をマヌケに渡した。


「一応、魚の納入という形で通行証を発行しましたので、行くときには魚の積み荷を引っ張って行って下さい。馬車で行かれますよね?」


「は、はい。馬車で向かいます。」


「599号ちゃん……。道中は魔物が出ることもあるから、くれぐれも気を付けるのですよ?」


「はい。ありがとうございます。」


 なんだかいろいろと煮え切れない気持ちのまま、私達はくそ野郎のお屋敷を後にした。

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