第28話 小さな手掛かり
この恐ろしい蜘蛛なんかに、もう期待なんてしていない。ていうかこの流れで期待しろなんて言う方が無理な話である。
――あっ。マヌケが目を覚ました。
ビクビクしながらカエルの頭を探しているようだ。マヌケの頭を優しくポンポンとし、危険が去ったことを伝えると安心したようだった。
「あはは……後は私だけ残っちゃった感じなんだけどぉ~、実は良い食材見つけることが出来なかったんだよねぇ~。皆の食材で満足してくれるって思ってたから……ごめんね、魔王様。」
いや、むしろ何も準備していなくて安心している自分がいる。この蜘蛛がもってくる食材なんか、想像もしたくない。そんなことを考えていると、ふと蜘蛛の背中にのっている物に目がいく。
――ん?
私はそれから目が離せなくなっていた。
――ま、待って?! あれは……心臓がドクンドクンと波打つ。
気が付いたら蜘龍の目の前に迫っていた。
「え、え?! 魔王様?! やっぱお仕置き?! 怒っちゃったの?!」
オロオロする蜘龍に私は、背中にのっている物を指さす。
「ひぃ?! えっ?! これ?! これは拾った物なんだけど、魔王様何か知ってるの?」
私はそれを蜘龍から受け取り中を確認する。
――やっぱり……これはヘタレのポーチだ。
中身はモバイルバッテリーと無線イヤホン。私達は授業中いつもお互い片耳に無線イヤホンを付けてこっそりと音楽を聴いたりしていた。その何気ない日常を思い出してしまい、胸がキュッと締め付けられるように苦しくなった。
私はポーチから蜘龍に鋭く視線を移した。
「ひぃぃぃ?! ご、ご、ご、ごめんなさい……。」
「どこ?」
私はポーチを指さしてそう口にした。
「……へ?」
蜘龍は呆気に取られて、訳がわかないという感じだった。すると、私の様子がおかしいことに気が付いたマヌケがスマコに話を聞いて、すかさずフォローを入れてくれる。
「蜘龍ちゃん! これ何処で拾ったの?! これはアンブの大事な友達の物なの!>
「えっと……王都の国王がいる城の周りのビルの屋上に落ちてたんだけど。」
「蜘龍ちゃん王都に入ったの?!」
「あっ、うん。あたしの身体大きさ自在に変えられるんだ! だからどんな場所にも入れるの。魔物の反応センサーも王都の内部までは無いからねぇ」
「そ、そうなんだ。それを王都の人が知ったらみんなひっくり返るかもね。それよりも…… って?! アンブ?!」
私は神成モードを発動し、黒い翼を広げその王都とやらに向かって今にも飛び出しそうになっていた。しかし場所を知らないことを思い出し、そこで停止していたのだ。
「どこ?」
「ち、ちょっと待ってアンブ。気持ちは分かるけど、王都に入るには通行書と個人カードがいるの。だから今から行っても入れてもらえないよぉ!」
マヌケが必死に訴える。それでもやっぱり私は行きたかった。やっと見つけた小さなヘタレの手がかり……ヘタレがそこにいるかもしれないと思ったらもう居ても立っても居られない。
「あ、あのぉ。魔王様、あたしまた見に行こうか?」
私とマヌケは蜘龍を見て、お互いに頷き合う。
「蜘龍ちゃん、本当にいいの?」
「魔王様の為ならもちろんだよ! でもあたし足遅くて王都までは山道だから着くのに5時間くらいかかっちゃうなぁ……あっ、でも鷲龍なら空飛べるからかなり早く着くよ! 身体小さくするから乗っけてよ!」
「無理だよ! お前身体小さくしても体重変わんないからメチャメチャ重たくて速く飛べねぇよ! 狼龍行けよ!」
「ボクも嫌だよ! 蜘龍ってば本当に重たいんだから!」
「レディに向かって重たいとか何回も言うな! 泣くぞこのやろう! 体重なら狐龍だって!」
「なんでそこでウチの名前を出すのよ?! ひどくない?! 体重なら壊龍が一番重いじゃない!」
「ワレは一番だ。」
――こいつらやかましいわ!
しかし、そういうことなら話は早い。私には便利な収納ちゃんがあるから、異空間に重たい蜘蛛は放り込んでおけばいい。そして、王都とやらに着いた時に蜘蛛をそこから出して、侵入させればいい。
――私あったまいい~! よし決まりっと!
「ということで行くよ。」
「「え?! 何が?!」」
「え?! ちょっ?! うわぁっ……」
「ちょ?! 蜘龍が消え……」
「ボクも?! ちょっと何がなん……」
「ワレがいちば……」
私は鷲龍だけを残し、他の魔物達をポイポイと異空間へ放り込んだ。
「マ、マジかぁ。あの、一応確認だけど、みんな無事だよな?」
「大丈夫だよ! アンブの収納魔法で異空間に入ってもらっただけだから!」
「な、なるほど。ならせめて説明を……。」
「あはは~。アンブは自分1人で納得して突然行動するから、無駄だよ? 従うつもりなら諦めてね!」
――よく言ったマヌケ! 私に喋らそうなんて百万年早いわ!
《主さ、人のこと悪とか言えねぇぞ?》
――スマコが何か言ってるけど、気にしないも~ん!
「懐かしいなぁ~。アタシも初めての時は同じように訳も分からず放り込まれたもんなぁ。これってデジャブってやつよね。うふふふ。」
――それちょっと違うと思うよ? まぁ、いいや! これで王都とやらに行ける!
「じゃぁ、オレの背中に乗ってしっかり捕まっていてくれよ。」
私達は鷲龍の背中に乗った。すると鷲龍は大きな翼を羽ばたかせ、大空へ舞い上がり上昇していく。
そして、ある程度の高度まで上がると、そこから一気に急加速した。
――はぇぇえええ?!
鷲龍のスピードは、私やマヌケが空を飛ぶよりもかなり速かった。
もともと王都まで行くには、馬車で1週間程度かかるらしい。それなのに一番足が遅いというあの蜘蛛でさえ5時間程で着くとか言っていたのだ。こいつらといると自分の感覚がおかしくなってしまいそうになる。
私もまぁ…こんなになってしまったけれど、何もなければ普通の人間として過ごしたい。ヘタレを無事に助けたら、マヌケと3人で普通の一般人として平凡に生きたいのだ。まぁ、ヘタレを助けるまではしっかりこの力使うけどね!
さて、港町からかなりの距離を飛んできたと思うけど、いまだに山しか見えない。というか周りに全く明かりも無いから、下は良く見えていないのが正解かな。夜だから仕方ないけどねぇ。アイレンズが一瞬下に魔物がいたような反応をした気もしたが、今は急いでいるのであまり気にしないでおく。
しかし、あの港町は本当に国の端っこなのだろう。王都までの道のりは基本山道や峠道が続き、その途中途中で小さな村があった。まぁそのほとんど一瞬で過ぎ去ってしまうので、よく見えなかったが。
「そろそろ王都に着くころだぜ?」
しばらくの間高速飛行を行っていた鷲龍が突然そう言うと、確かに遠くの暗闇空に少しだけ明かりが見えた。その光がどんどん強くなっていく。
すると、一際大きな山が逆光によって照らされている姿が見えた。その大きな山を越えて王都を目にした私は、この田舎風だった世界感がいきなりぶち壊れた。




