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第2話 七つ道具

 私達は新しくできたクレープ屋さんに向けて歩いて移動中だ。


「クレープ何があるかなぁ。やっぱりホイップにアイスのトッピは当たり前として、フルーツとその他のトッピに何があるかだよね!」


「イチゴ。」


「ふふふ。アンブはイチゴかぁ! なら私は季節のおすすめ辺りを手始めにいきますかね! 絶対食べさせ合いっこしようね! 」


「うん。」


――食べさせ合いっこをしないことが無いのにわざわざ顔を赤くして言うんじゃないよ!


 まぁ普通の女の子なら食べさせ合いっこなんて普通にしていることだし何も不思議じゃないと思うんだけど、ヘタレは何故か私が食べたところをわざわざ顔を赤くしながら幸せそうに食べるんだよね。その姿にめちゃめちゃドキドキしてしまうのよ。そして、またそこを私が食べるのをじっと見てんの。


――ただの変態だよね。


「むむっ?! また何か失礼発言が聞こえた気がした!」


――す、鋭い……。てか、顔が近いんだけど?! い、息がかかってるってば……。


 そんな感じでイチャイチャしていたら、遠くの方で不審な動きをしている男性を発見した。私はスパイなので悪い事をしようとしている人の動きにはかなり敏感だ。


――スマコ、アイレンズ起動。


 私はプロのスパイであるお母さんが開発したスパイの七つ道具を持っている。もちろんお母さんやお父さんが使っているようなプロ用ではなく、私でも扱うことが出来る便利な道具感覚だけど。


 私の目にはその道具の1つである度なしのコンタクトレンズが入っている。これは「アイレンズ」という名前なんだけど、これを起動すると視界で見える範囲の気温や湿度などを図ったり、人の体温や心拍などを測ったりできる。また、遠くを見る為にズームしたり、それを録画してスマホに転送したり、暗闇でも昼間と同じように見えたり、地図が表示されて最短ルートを教えてくれたりと、いろいろと便利なものだ。


 私はアイレンズを起動し、さっきの不審な男をズームする。すると、心拍が異常なほど高くなっているのがアイレンズで分かった。


――危険物の所持は……なしっと。やっぱりひったくりかぁ。前を歩いているおばあさんを狙ってる感じだね。スマコ、お願い。


 私がスマコと名付けている腕時計型のスマートウォッチに向けてそう念じた。すると、アイレンズに「YES」という文字が表示される。


 このスマートウォッチも七つ道具の1つで、この中にはAIが内蔵されている。それにより、私の身体の状態などを監視してくれている。更に私の脳信号を受信し、会話をしなくても指示を理解してくれる。また、スマコを通せば全ての七つ道具を念じるだけで起動することが出来る。また相手に近づかないといけないが、安全ロックを外して横に付いているボタンを押せば気絶するくらいの電気ショックを発射できる。


 七つ道具はアイレンズとスマコの他に、今着用している服や靴、ヘアピン、超小型のイヤホンがある。七つ道具なのに、5つしかないのは残りの2つが仕込みの剣と拳銃だからだ。今の私には全く必要ない。


 今着ている服や靴はヘタレと同じ学校の制服なんだけど、実はいろいろな服へ瞬時に早着替えが可能な「変化服」という道具なのだ。スパイには潜入捜査のための様々な変装が必要だ。時には学生、時にはコンビニ店員、時には宅配業者など。もちろん普通の私服も様々なパターンを用意しており、少しなら体形も変身出来る優れもの。

 欠点は着替えの一瞬3秒ほど真っ裸になってしまうことだね。因みにこの靴は水に浮くので水の上を歩いたりもできる。


 それと私が髪に付けている桜模様のヘアピンは、内部で桜の花びらの形をした超小型機械を作ることが出来る。それは発信機兼、盗聴器だ。その位置はアイレンズに表示され、音声はもう1つの七つ道具の超小型イヤホンで盗聴可能である。このイヤホンは付けていること自体全く分からない程に小型だが、瞬時にその場の音声や盗聴器の音声などを録音可能であり、また当然スマホなどの通信機器での音声通話も可能なのだ。


 その後、想像通りにあの男はおばあさんのバッグをひったくり逃亡を図った。

 それよりも先に、スマコがお母さんに情報を送信してくれていた。


「あっ! あの人おばさんのバッグひったくったよ?!」


 ヘタレがそれに気づき、声を上げる。


「……大丈夫。」


「え?!」


 ヘタレの心配を他所に、男の逃亡先にはすでにパトカーと白バイが待ち構えており早々とお縄に着いていた。


「す、凄い……アンブの言う通りだった。日本の警察って凄いんだね!」


「うん。」


 お母さんがすぐに対応してくれたようで良かった。もし逃げられていたとしても録画した映像があるからすぐに捕まるんだけどね。でも被害を受けた人にとってはすぐにでも使った方がいいだろうしね。バッグを取り戻したおばあさんの笑顔を横目にそう思った。


 こんな私でも道具の力を借りれば、一応役に立つことは出来る。でも身体は動かないので、もしさっきのが殺人を企てるものだったとしたら私では対応することが出来ない。本当にそんな場面に出くわしたらと思うと正直怖い。


 そんな思いを胸にアイレンズをOFFにした。

 

 それからしばらく歩いて、目的のクレープ屋さんへ着いた。


「お店お洒落だねぇ! なんか都会のカフェみたいだよ! 」


 確かにヘタレの言う通り、テレビに出てくるような雰囲気のカフェだった。オープン初日ということもあり、店内は満席状態だった。しかしテイクアウトも出来るので、ここからすぐ近くにある私達の秘密の場所である海岸のベンチで食べることにした。


 食い入るようにお店のメニューを見つめて選別していく私達。最後まで選別に生き残ったイチゴのクレープをヘタレに指さした。すると笑顔で私の分もヘタレが注文してくれた。


 テイクアウトしたクレープを片手に私たちは手を繋ぎ、ルンルン気分で海辺のベンチへ向かっていた。そこは人通りも少なくて静かな場所で凄く落ち着ける場所だった。


 そのベンチにもう少しで着くというところで、まだ明るい夕焼け空の一部に、虹色に光る星の光が微かに見えた。


「ヘタレ。」


 私はその異色に光る星が気になり、ヘタレに声をかけた。珍しく私が声をかけたので、びっくりした表情のヘタレ。私が指さした方向を見て、首を傾げる。


「あれ何だろうね。星の光にしては異様な色だね。」


 そう話していたその時、星の光が真っすぐにこちらに向かってきた。その光にヘタレが照らされてしまった。


「あ……。」


 という言葉と共に、ヘタレの体が消滅していく。


――え?! ヘタレ?!


 私は頭が真っ白になった。


 ヘタレは咄嗟に掴んでいた私の手を離してた。私まで消滅してしまうと思ったのだろう。そのままヘタレの身体は全て消滅してしまった。


 私は躊躇することなく、この身を光の中に擲った。体中に悲鳴を上げる程の激痛が走り続け、その地獄はしばらく続いた。


 やがて、私の意識は無くなった。

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