第26話 一時の癒し
《まず、主は空間魔法を使って転移が出来る。転移は、一度行った場所だったら近くでも遠くでも、瞬時にそこへ移動できる能力なんだ。それを使ってあのエリアへ戻るだろ? そして、空間魔法に統合された収納で異空間に家を収納した後にまたここに転移で戻って家を取り出せばいいだけじゃん。》
――マジかぁ。転移めっちゃ便利じゃん! それに家まで収納できるようになったの?! もう人間離れし過ぎて、自分に引いてるんだけど?
マヌケは目をキラキラと輝かせ、期待を込めてこちらを見ていた。そんな可愛い目をして見ないでほしい……。
私は神成モードを発動した。
そして、マヌケと手を繋ぎあのエリアの場所を鮮明にイメージする。
―――転移。
本当に一瞬で拠点エリアに戻ってきた。目の前には見慣れたログハウス。
後ろには湖。その周りにはメリドの木。
――マジで凄いなこれ……。
マヌケのスピードもとんでもなく早かったがここに戻ってくるのには、それなりの時間がかかるかと思っていたのだ。それが一瞬で着いてしまった。
マヌケは目玉飛び出るんじゃないかってくらいに驚いてキョロキョロしている。私はすぐにログハウスを異空間へ放り込んだ。
「あ、アンブ! そのぉ……あれもダメかなぁ?」
マヌケは申し訳なさそうにお風呂を指さす。
――あはは。余程このお風呂が気に入ってくれているみたいだ。
――う~ん。スマコ入りそう?
<大丈夫だろ。気合で放り込め。>
――気合でどうにかなるもんなの?!
私は親指を立てて、コクンと首を縦に振った。するとマヌケは満面の笑みになるのだった。更にその後、私達はメリドの木を数本引っこ抜いて異空間へ気合で収納した。
―――転移。
そして再び転移を使い、港町のマヌケの家がある高台まで戻ってきた。
それから、ヘタレのもとの古い家を一緒に持ち上げ、位置を横にずらす。家を持ち上げる女の子を見たら皆がドン引きすること間違いないので、一応人の気配を確認しながら作業を進めることにした。
しかし、その心配をする必要もないくらいにここは人通りがないようだった。
その後、収納魔法からログハウスを取り出して、家があった位置にログハウスを設置した。そして、その周りを囲うようにメリドの木を植えていく。なるべく家が目立たないように、森の中にあるお洒落なカフェをイメージして植えていく。この土地でもメリドの木が育つことは事前にスマコが解析してくれていたのだ。
そして、古かったマヌケの家の方に行き、玄関の扉や窓、家具などを取り外して
それを、ログハウスへ取り付ける。折角住んでいた家をただ取り壊すのも勿体ないので、使えるものは全て使おうと考えたのだ。
こうして開放されたままだった玄関には扉が付き、ただ木の枠で覆っていただけのところに窓が付いた。更に、テーブルや椅子、キッチンやトイレなどはそのまま奇麗にして取り付け、余った木材で大きなベッドや収納などを作成し、完全に住める家としてリノベーションを行った。
――私って建築の才能でもあるんじゃないか?!
そんな勘違いを起こしてしまいそうになるほど、立派なログハウスになった。
私達はその中に入り、ただただ感動していた。
マヌケも、まさか元の家を余すことなくログハウスに使うとは思っていなかったようで、これには凄く喜んでくれた。
思い入れがそこまでなくても、やはり住んでいた家なので特別な場所であることは間違いないと思う。折角ならそれを守ってあげたかったのだ。
家が完成したので、次はお風呂を家の裏側へ設置した。
そこは木々とログハウスによって周りからは見えない位置であり、更に崖沿いになっていて海と空が見えるとても開放的な場所だった。
あの迷宮内の拠点としていたエリアでも一応外ではあったが、ここは本当の空の下で入ることが出来る、露天風呂になる。
ここからのマヌケは凄かった……。急に目つきが変わり、すぐにお風呂周りを改造し始めた。お風呂の上部には雨が降ってもいいように屋根を作り、その周りには格子を立てて一応海からも見えないようにして、体を洗うスペースを作り、脱衣スペースを作り、空を見上げてのんびり寝転ぶことが出来るベンチまで作った。
――これはもう完全にあれだね。温泉だよね。
源泉でないところだけを除けば、有名な温泉にも負けない立派な温泉だ。
ここまで本気になるとは思わなかった。途中から私は付いていけなくなってしまった程だ。また、お風呂の下部にも穴を空けそこに栓を設置して水を抜けるようにした。更にお湯を自動で沸かせるようになにやら機械をイメージで具現化し、それを家の外に設置して、家の中にはスイッチを取り付けていた。
それは地球でも普通に使われていた、スイッチ1つでお湯を沸かせる給湯器だった。それを独自のイメージで具現化して、その技術をこの星で作ってしまったのだ。詳しい構造は私では全くわからないけど、スイッチを押せばお湯が沸き家の蛇口を捻ればお湯が出るようになったのだ。
この星では、お湯は魔動力によって加熱したものを一般家庭に水道管で送っているらしい。一応それで生活は出来るらしいけど、貴重なのでお風呂に使っている家庭はあまりいないそうだ。
とりあえず一段落着いたところで、休憩することにした。気付けばもう夕方であり、暗くなり始めていた。
この星の夕焼けはオレンジ色ではなく、ピンク色になっていた。それはとても不思議で幻想的だけど、これはこれでとても奇麗だと思えた。
しばらく私達はその夕焼けを黙って眺めていた。
日が落ちるにつれて、下町の方に明かりが灯り始めてそれもまた奇麗だなぁと思いながら眺めていた。するとマヌケが「降りてみる?」と笑顔で言ってきたので、
私は「うん。」と返事をした。
私達は歩いて下町に来ると、出店でいろいろなものが売られていた。
「あれ?! 599号じゃねぇか?! 帰ってたのか?! これ食うか?!」
と声が大きい豪快なおじちゃんが声をかけてきた。その声の大きさに私はマヌケの後ろに隠れる。
「どうも1356号さん。ちょっと訳があって帰ってきました。それもらっていいんですか?」
「そうかそうか! ゆっくりしていけぃ! これはやる! そっちの”ちっこいの”と食いなぁ!」
と豪快に喋りながら何かのお肉を炭火で焼いたものをくれた。
「ありがとうございます! また来ますね!」
とお礼を言ってその場を後にする。
――私が”ちっこいの”とか言われて怒ってるんじゃないかと心配しているのかい? ははは。そんな小さなことで怒るわけないじゃないか。ははは。
とりあえずまたマヌケの横腹辺りをギュッとつまんだのは言うまでもない。それよりもその美味しそうなものに鼻とお腹が反応してヤバいのだよ。
――早くおくれぇ~。
そんな私の思いが通じたのか、マヌケは笑顔であーんとしてくれた。
――ハムハム。うまーい! なんの肉かさっぱり分からんけど、ハムハム。うまーい! ハムハム……。
「ふふふ。アンブってば可愛いなぁ。」




