A1_チェイサー
「起立、礼。」
「着席。」
クラスの日直の掛け声で朝のホームルームが始まる。
「おはよう。今日は皆に大事なお話がある。光月と服部についてなんだが…昨日から2人とも家に帰っていないそうだ。何か知っていることがあれば教えてほしい。」
「「え?! ヘタレとアンブが?! なんで?!」」
一斉にみんなが騒ぎ出した。
「静かに。2人の仲がいいのは先生も知っているが、2人は昨日も一緒に帰っていたのか?」
「は、はい。いつも2人は一緒に帰っていますので。」
クラスのまじめちゃんがそう答える。
「そうか。昨日はどこか行くとか言ってなかったか?」
「あ、あの~昨日2人は新しく出来たクレープ屋さんへ行くって言ってましたけど……。」
別のクラスメイトがそう告げる。
「なるほど。それはどこのお店か分かるか?」
「はい。えっと、西海地区のパールリゾート近くに出来たクレープ屋さんです。」
「そうか。わかった。他に何か気になることはなかったか?」
クラスのみんなは首を傾げる。
「今のところ、先生達も何もわかっていない。今日から保護者や警察が必死に2人を探している最中だ。皆も他に何か思い当たることがあったら後でもいいので教えてほしい。それじゃあ、先生はさっきの情報を警察の方へ話してくるから、みんなは少し自習をしていてくれ。」
「「はーい。」」
「ヘタレとアンブどこに行ったのかなぁ。大丈夫かなぁ。」
「2人で駆け落ちとか?! いやいや流石にそれはないでしょー。」
「まぁすぐに見つかるんじゃない?」
それぞれに喋り出すクラスメイト達。
それから2日、3日と日付が経ったが、2人が見つかることはなかった。それはやがて地元ニュースでも流れるくらいの騒ぎになり、クラスマメイト達も冗談が言えるような状態では無くなっていた。
「昨日も光月と服部は見つからなかった。警察も本格的に調査を開始したので、もしかしたら個人に聞き取りを行うかもしれない。その時は申し訳ないが、協力してあげてくれ。」
先生はそういうと教室を出て行った。先生も放課後から夜遅くまで2人を探しているらしく、顔が疲れていた。
「ねぇ、もう3日間だよ? 本当にどこにいるんだろねぇ。」
「もうこの町にはいないのかなぁ。」
「昨日ヘタレとアンブの親が必死に聞き込みとかやってたよ。なんか可哀想だった。」
「なんか事件に巻き込まれたのかぁ。」
「別の国に拉致されたとか? ちょっと怖いんだけどぉ……。」
それぞれが好き放題に憶測を述べている。
ウチはあの日、2人に何が行ったのかを実は知っている。
ウチの名前は栗林智美。
みんなからのあだ名はチェイサー。
ウチは少しだけ変わった趣味を持ってる。それは、ターゲットにした相手の全てを調べ上げること。ウチは一度ターゲットに決めたらその人の行動全てを記録する。
何時に起きて、何時にトイレに行って、何時に着替えて、何時にご飯食べて、
何時に登校して、何時に席に着いて…などなど。
更に何処で何をしていたかも徹底的に調べ上げる。例えば、浮気相手が何処で誰と会っていたかなど全てだ。
そんなウチを皆は追跡者と呼ぶようになった。
最初は気味が悪いと皆に、避けられていたがウチの神的存在である光月乙羽様……ヘタレ様が『凄い特技だね。なんか追跡者って感じでカッコいいと思うよ。』とおっしゃってくれたので、その言葉に助けられた。
それから皆は、彼氏が浮気しているから証拠掴んで!
とか気軽に相談するようになっていったのだ。
そんなウチの救世主であるヘタレ様の行動パターンはもちろん全ては把握している。ヘタレ様の家には盗聴器や超小型の隠しカメラを無数に忍ばせてあるからだ。もちろん本人には絶対に知られてはいけない。
しかし、気に入らないのが必ずと言っていい程に服部桜夜と一緒にいること。毎日あれだけ一緒にいるのに、家に帰ってからも毎日毎日電話やSNSをしている。学校でもヘタレ様がいつも優しくちょっかいをかけて下さっているというのに、それなのに……。
――なんなんだあの超絶塩対応は! 全く気に入らない! なんでアイツなんだ?!
アイツはいつか殺してやるといつも思っている。
そして、事件があったあの日。
ヘタレ様が新しいクレープ屋さんに行くと情報を持っていたので、ウチはこっそりと後を付けていた。その時もはやりヘタレ様は邪魔者と一緒に向かっていた。
なんでヘタレ様はあんな奴といつも一緒にいらっしゃるのだろう。なんであんな奴と一緒の時が一番楽しそうな笑顔をしていらっしゃるのだろう。
――気に入らない。気に入らない。気に入らない。アイツの全てが気に入らない!
ウチは内心ムカムカしながらクレープを片手に手を繋ぐ2人を眺めていた。突然アイツが立ち止まって何かを指さした。すると、ウチのヘタレ様が……ヘタレ様のお姿がどんどん消えていき、消滅してしまったのだ。
ウチは目の前が真っ暗になった。
気付いたら何故かアイツもいなかった。
何が起こったのか全く分からなかったので、ヘタレ様が消滅してしまったその辺りの場所を少し探してみたが何も見つからなかった。ただ、ハッキリしているのはアイツが空を指さした瞬間にヘタレ様は消えてしまったという事実。なので絶対にアイツが犯人だと思っている。
きっと何かしらの方法でヘタレ様を拉致し、何処かに監禁しているはずだ。
ウチは瞬時にそう思い、アイツの家へ侵入を試みた。しかし、一般的な普通の一軒家のくせに何処にも侵入出来る箇所が存在していなかったのだ。ウチは侵入などの技術は初心者だが、一般家庭のカギくらいならピッキングで空けられる。しかしアイツのカギはウチの技術では全く空けることが出来ないカギを付けていた。
――これは何かある。ウチの感がそう言っていた。
そして、あの事件の次の日になり2人が帰っていないことを皆が知ることになる。
ウチは見ていたので、知っているが当然先生や警察に言うつもりはなかった。まぁ、言ったところで人がいきなり消えたなんて言っても信じないだろうし。
ウチは独自で調査する。
親愛なるヘタレ様。
ウチが必ずアイツから救出してみせますからね!
「……この子は、関係なさそうね。でも一応マークはしておきなさい……。」
《了解しました。》




