第21話 5つのしもべ
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私は夢を見ていた。
ヘタレが遠くで泣いている。
――お願い、そんな悲しい顔で泣かないで。私が弱いせいで、守ってあげられなかったね。怖い思いさせちゃったね。マヌケにも痛い思いさせちゃったね。私が弱いからだね。ごめんね。
――私は昔から強い子じゃなかったの。本当は弱くて泣き虫でいつも悲しくて……。
「一人で頑張ってきたんだね。」
――それは違うの。ヘタレが私をずっと守ってくれていたの。だから、私もヘタレを絶対に守りたかったの。
「そうなんだね。2人の友情はとても優しくて、ポカポカしてて暖かいね。」
――そうなの。ヘタレといるとポカポカするの。ずっと一緒にいたいって思いと、ずっと守りたいってそう思えるの。
「そかそかぁ。ならアタシと一緒だね。アンブがヘタレに対してそう思うのと、アタシが2人に対してそう思う感情は同じみたい。アタシにもその大切な思いを守らせてくれないかな。」
――こんな弱い私と一緒に戦ってくれるの?
「うん。」
――こんな弱い私と一緒にいてくれるの?
「アタシがいたいんだもん。」
――こんな私と……。
「一緒に大切なヘタレを守ろうね。」
「……マヌケ。」
私はとても心地いい気持ちで目が覚めた。
「あ、おはようアンブ。そしてお帰りなさい。」
満面の笑みを見せるマヌケ。
「うん。」
私はいつもの無表情でそう答える。でも、心がとても心地よくて暖かい気持ちで満たされていた。
――スマコ? 無事?
《……。》
――返事がない?! スマコ?!
私は返事がないスマコの本体に向かって、語り掛ける。
《あん?》
――え……?
《んだよ? 何か用か?》
――えっと……誰?
《主がスマコって名付けたんだろが! 忘れてんじゃねぇぞコラ。》
――スマコが怖い不良になりました。
《誰が不良だバカ。これは魔王の力の影響だ。それ以外は以前のままだよ。だから気にすんな。》
――いやぁ~、気にすんなと言われても……。
「アンブ。一緒にお風呂入んない?」
そんな私とスマコのやり取りを知らないマヌケが笑顔で問いかける。
私はコクンと首を縦に振る。
「うん。ちょっと待っててね! 今お湯張るからね。」
そういうと拳銃のギアの銃口から勢いよくお湯が噴き出し、やがてお風呂いっぱいにお湯が満たされた。そのなんともシュールな光景を華麗に無視して静かにお湯に浸かった。
カオスの事については私でもショックだけど、マヌケの心の傷は想像を絶するほどだったと思う。ずっと一緒にいたと思っていた人たちが、実は記憶を書き換えられただけの存在だったなんて……。それに加えてヘタレの拉致。そんな自分が辛い中でも私を助けてくれたマヌケには感謝してもしきれないほどの恩を受けてしまったね。
「はぁ~、やっぱりお風呂は気持ちいいねぇ。絶対ヘタレを助けて3人でまた入ろうね!」
「うん。」
「えへへ。アンブってば、言葉で返してくれるのが増えたよね。とっても嬉しいよぉ。」
おもむろにそんなことを言うマヌケ。私は恥ずかしくなって、横を向く。心を許すと返事が自然と言葉が出るみたいだ。
「えへへ。」
嬉しそうに笑顔を見せるマヌケ。私はそっぽを向いたままでも顔が赤いのが自分でも分かった。
私達はお風呂を上がり、マヌケが作ってくれた料理をハムハムしていた。
「アタシね、カオスに思い出を弄られていたのは悔しかったし、悲しかった。でもね、あの2人といる時に不思議と違和感は感じていたの。ずっと一緒にいたはずなのに、どこか知らない人って感じかな。アンブと出会ってからはそれがどんどん大きくなっていたの。私がもっと慎重になっていたら、こんな事にならずに済んだかもしれないのに……。」
途中から涙を流しながら話すマヌケ。
マヌケのせいじゃない。私も2人の様子を見ていて、違和感を感じていなかったわけではない。常にアイレンズを起動しているわけではないので、決定的ではなかったんだけど、2人の表情の変化や心拍の変動などにどうも違和感を感じていたのだ。
決定的だったのは、クマと対峙していた時にカオスが致命傷ともいえる怪我を負って血だらけで倒れたのに、実際は無傷であると気付いたことだ。
巧妙に作りこまれた傷と血液によって重傷を装っていたが、私はスキル感知とアイレンズで完全にその事に気付いてしまっていた。
しかし、そのまま放っておいたのだ。
私の悪い癖だ。人の悪だくみやおかしな点などには良く気付くことが出来るんだけど、気付いたとしてもすぐにはそれを止めることをしない。
私は人を疑うことが怖くて出来ないのだ。結果的に、見て見ぬフリをし続けて周りの人が被害にあってしまう。
私は弱い人間なんだ。
今回もおかしな点に気付いていたにも関わらず、それを恐れから気付かないフリをして放っておいた。それがあの結果を招いたと思う。
「改めてこんなことを言うのもなんだけど、アタシは人との繋がりが本当に大事なことが分かった。アンブともヘタレとも付き合いは短いけれど、アタシは大切な友達だと思っている。だから絶対ヘタレを助けたい。アンブはどうかなぁ……。」
「私も……同じ。」
「そっか。」
そういうマヌケは凄く嬉しそうに笑った。
しばらくして強力な魔力を持った魔物5匹が、こちらに猛スピードで向かって来ているのをアイレンズが感知した。私は瞬時に神成モードを発動し、身構える。
するとマヌケが、「あ、忘れてたぁ~。」と口走っていた。
一瞬で目の前に現れたその5匹に対して私は咄嗟に「威圧」をかけていた。すると辺り一面に重圧がかかったように威圧が重く圧し掛かる。
「お、おぉぉ。これぞ魔王様のお力……。」
全員が泣きながら私の前でひれ伏し、頭を下げる。そして真ん中にいる背中に羽根を生やした龍が口を開いた。
「お目覚めですか魔王様。お初にお目にかかります。我ら魔王様の忠実なる使い魔となるためにやって参りました。ワレは名を壊龍と申します。破壊を専門としております。」
「初めまして、ボクは狼龍です。走るスピードなら誰にも負けません。地上では僕を使って下さい。」
「オレは鷲龍。飛ぶスピードなら誰にも負けません。空なら俺を使ってくれ。」
「はいはぁ~い! 蜘龍だよ。身体の大きさ自由自在に変化出来るの! どんなとこにもサクッと侵入して、敵をサクッとやっちゃいますよ。えっへん!」
「弧龍と申します。ある程度の病気や怪我は治せます。逆に壊すも得意(好き)です。また幻術なども使えますので、きっと魔王様のお役にたてるかと。」
――えぇぇぇぇ。何こいつら。いきなり現れて勝手に自己紹介始めちゃったよぉ~。急に使い魔ですって言われても、怖いんですけど?!
全員が何かを期待するように目をキラキラさせて私を見ている。
――こ、困ったよ……。




