第19話 芽生える友情
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アタシは、最後の力を振り絞り、アンブへヒール魔法を発動している。
アタシはずっと昔からあの2人と過ごし、勇者になる為一緒に頑張ってきたと思っていた。でもそれは記憶を書き換えられていただけだった。今ならそれをはっきりと思い出すことが出来る。
アタシは生まれてからずっと1人だった。両親の代わりになる人はいたけれど、小さい時から勇者候補として1人で修行する日々。成人したアタシは使命に従い、1人でこの迷宮に来た。
そしてあのエリアでヘタレが倒れているのを発見した。アタシはすぐに駆け寄りヒール魔法を行っていたところに突然あの2人が現れた。突然カスが私の頭に手をおいて何か呪文を唱えた。するとアタシは目の前の見知らぬ2人を、昔から一緒に育った仲間だと思い込むようになっていたのだ。
仲間と思っていた2人は敵。その敵により仲良くなったヘタレは連れ去られ、
仲良くなったアンブは死にかけている。
――生きてるよね? アンブ、ヘタレ……。
いろいろとショックな出来事ばかりで頭がおかしくなりそうだった。しかし、今アタシがやるべきことはアンブを救うこと。それだけははっきりしている。
アタシは必死に、アンブにヒール魔法をかけ続けながら動かない身体を無理やり動かし這いずり寄る。そしてアンブの手を握りしめ、「絶対に死なせないからね。」と呼びかける。
しかし傷が深くて、血も止まらない。
このままでは……
《ふふふ。困りましたねぇ。このままではまた死にますねぇ。さて、どうしましょうか。》
アンブの服のポケットから声が聞こえてきた。
「だ、誰ですか?!」
アタシはアンブのポケットから奇妙なデバイスを取り出し、それに向かって声をかけてみた。
《あ、どうも初めまして。神です。》
「神様……?! あ、あの! アンブを助けて下さい! 大事な友達をこれ以上失いたくないんです! お願いです!」
《私としてもヘタレちゃんを助けて頂かないと困るので、手を貸して差し上げたいところではあるのですが……残念ながら私はそちらの世界に干渉できないのですよぉ。あっ、ヒールは止めないで下さいね? 今止めると速攻で死にますから。》
アタシはさっきから全ての力をヒールに回しているので、魔動力が底をつきかけている。しかし、今ヒールを止めるわけにはいかない。これがアンブの生命線なのだ。
「どうにかなりませんか? アンブが助かる方法は…」
《そうですねぇ。アンブちゃんの命を救うなら、内なる力を完全に呼び起こして魔王化してしまうのが一番手っ取り早いのですが、完全に理性を無くして暴走してしまうのですよぉ。マヌケちゃん、暴走した状態のアンブちゃんをあなたに止めて頂く必要がございますが、命を捨てる覚悟はおありですか?》
あのオニグマをも圧倒したあの力が完全に放たれる……。しかも、そのオニグマにすら全く歯が立たなかったアタシがそれを止める。普通に考えてできるはずがない。
でもアタシは……。
「アンブはヘタレを助ける為だけに命を懸けてここまで来ました。親友の為に命を張って無茶ばかりするアタシの大切な親友の為なら、命を張ってそれを守ってあげたいんです!」
《よろしい。それがあなたの答えですね。私はあなたに懸けてみることにしましたよ。ふふふ。》
《それではアンブちゃんを魔王化する為に力のリミッターを解除しますので、すぐに逃げて下さいね。》
「アンブ……。」
アタシに出来た初めての友達。いつも無表情でぶっきらぼうのくせに、いつもアタシ達を守ってくれる強くて優しい子。本当は寂しがり屋で、甘えん坊で可愛い女の子。
アンブの目的はヘタレを助け出すことだけど、アタシはそれを手助けしてあげたい。
《我、「アクシス」の名の下に汝の力を開放する。目覚めよ……魔王の意思よ。》
神様がそういった瞬間、アンブからあのクマと闘っていた時よりも更に邪悪で巨大なオーラを感じた。見た目もアンブの可愛い顔が見る影もなく、邪悪な魔神のような風貌へと変化していく。その顔からは悲しみや憎しみや怒りが滲み出ているかのような顔だった。しかし、致命傷だった傷は全て瞬時に塞がり、見事なまでに完治していた。
アタシはそれを確認した後、すぐさま距離を取った。視線を向けられただけで全身を串刺しにされたような殺気とプレッシャーを向けられたからだ。
その殺気により体の芯から震えが止まらなくなってしまった。
《さて、ここからはあなたの出番ですよぉ。もしあなたが死んでしまうと、私はアンブちゃんにますます嫌われますからねぇ。あなたも特別に力のリミッターを解除しておきます。本来なら許されることではありませんが、これが私に出来る最後の手助けです。しかしそれを使いこなすのは容易ではありません。というか普通は死にます。もし使いこなせたとしてもまだアンブちゃんには歯が立たないでしょう。くれぐれも死なないように攻撃を躱しながら説得を続けてみて下さい。》
アタシは、制限が掛かっていた身体の中の魔動力が一気に開放されていくのが分かった。
《えらく複雑にリミッターが掛かっていますねぇ。それだけあなたは危険だったのでしょうねぇ。しかし、この私に掛かればこんなの子供の遊びも同然……ふふ、ふふふ。》
「え?! え?! ちょ……これ、あ、溢れ……る……。」
《こ、これは?! なんということを……。マヌケちゃん……あなたはとんでもない力を宿してしまっているのですね……これも運命なのでしょうか……。いや、やめておきましょう。今はアンブちゃんを救って下さい。あなたならそれが出来るはずです。》
アタシは溢れる魔動力を抑えることが出来ずに、力の暴走が始まった。
絶え間なく溢れ出す魔動力により、意図せず魔法が四方八方に飛散する。アタシはなんとか意識を保ちつつ、魔動力の制御を試みる。
しかし、アンブはそんな私目掛けて一瞬で突っ込んできた。拳を大きく振りかぶり、黒炎を纏わせた状態で殴りかかる。
アタシはそれをなんとか杖でガードするも、あまりの勢いに身体が吹き飛ばされてしまった。そして、その強力な攻撃によりアタシのコアであった杖のギアメタルが壊れてしまった。




