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第1話 親友

 私は今学校の授業でドッジボールをやっている。


 ボールが勢いよく相手の陣地と自分の陣地で行き交う。この時に大体3タイプの役割が出来る。

 ボールを積極的に持って相手を倒す「アタッカータイプ」。ボールから素早い瞬発力で避けまくって翻弄する「スピードスタータイプ」。

 そしてこの私のように存在を認知されず、ただ立っているだけで生き残れる「影薄過だろタイプ」。プレイヤーとしては一番私のタイプが得だよね。何もしなくてもいいんだから。でもね、私はそれを喜んでいるわけではないの。


 私はある日を境に身体が弱体化してしまう原因不明の身体になってしまっていた。それはどんどん悪化していき、今ではろくに走ることすらできない身体になってしまったのだ。


 そんな私は、もともとかなり影が薄い。誰とも全く喋れないし、喋りかけられても無反応だし、常に無表情だし、見た目も皆よりは身長も低いし、幼い印象だし……。

 

 この影が薄いのは家柄も若干関係していると思う。


 私は現代に生きる忍者とスパイの間に産まれた子供だった。

 今でも両親はスパイとして裏で活躍している。

 私も2人の後を継ぐために修行をしていたのだけれど、身体の弱体化によりそれも諦めた。


「行くぞ! くらえ~!」


 男子のしゃしゃり系のアタッカーがワザと女子をいやらしい目をしながら狙っている。まぁ、大体の男子はボールを女子の身体のどの部分に当てるかを想像しながら興奮して投げているみたいだね。


――殆どの男子の目が本当にいやらしい。アンタら……その目で狙われる女の子の身になって考えたことあんの? 皆嫌がってじゃないのよ、可哀想に。アタシはないけどねぇ?! 狙われることないし~。


 私はスパイの知識の技術があるので、ちょっとした表情の変化や口の動きなどで大体のことは予想することが出来るのだ。


――あ、こいつボールを投げる時にすっぽ抜けやがった。あれ?! しかもそのボール私の方に来てんじゃん! 全く……お前は気付かなかったのかもしれないけどさぁ、私は超至近距離にいたんだぞ!

 

 男子のすっぽ抜けたボールが私の後頭部へ向けて勢いよく向かって来る。

 ん? なんで分かるのかって?

 スパイは常に後ろにも気を張っているもんなのよ。


――ふふふ、こんなものこの私にかかれば造作もないのだよ。


――さて、そろそろ避けないとやば……ぶぼへぇッ?!


 そして、見事にボールは私の後頭部を打ち貫いた。途端に視界が真っ暗となり、たくさんの星がチカチカと見えたかと思ったら、そのまま私は意識を刈り取られたのだった。


「……んぶ? ……アンブ?!」


「……ヘタレ?」


 私は意識を取り戻した。

 どうやら保健室へ運ばれていたらしい。

 横を見ると私の顔を心配そうに見ている光月乙羽こうづきおとはの姿があった。


 彼女のあだ名は「ヘタレ」。彼女は明るく元気な女の子であり、私とは違って誰とでも仲良く出来る気さくで優しい子だった。それに学校一美女と言われるほどの人気者であり、みんなのアイドル的な存在だった。

 そんな彼女と私は小さい頃からの大の仲良しで私の唯一の親友と呼べる存在だった。


 みんなからは何で私みたいな底辺人と雲の上の存在であるヘタレが仲良いのか、学校の七不思議の1つに数えられていたのだった。


「もう大丈夫なの?! 泡吹いて倒れてピクピクしてたから私心臓止まるかと思ったよぉ。」


「うん。」


――マジかぁ……そんな悲惨な状態だったとは。


 私は修行をしていたこともあり、確かに人より気配を感じたり危険を察知したすることが人並み以上に発達している。しかし、人並み以下の身体能力しかないので、それに対応できる身体ではなかったのだ。


「もうすぐで放課後だから、後でまた来るね!」


「うん。」


 それから少し経って、放課後の時間になった。

 一応私にボールをぶつけた男子が私の元へ謝りに来た。


「そそそそ、その、ごご、ごめん……なさい。怒らないで下さい!」


 ものすごくビクビクしながら謝られた。おそらく私の顔が怖いのだろう。だって無表情だもんね。無理もないさ。普通の女の子なら笑顔でいいよって言ってあげるところなんだろうけど。


「……。」


「ほ、ほ、本当にごめん。悪気はなかったんだ……。」


「……。」


 私は無表情のまま首を縦に振り、許しているアピールをする。


「あ、ありがとう。それじゃあ。」


 そう言って男子はそそくさと逃げて行った。


――はぁ、はぁ、はぁ……緊張したぁ。あんな2人っきりで会話なんてできるわけないじゃん! あのヘタレ相手でも基本一言でしか喋れないのに……。


 そんなことを考えていたらヘタレがやって来たので、いつも通り一緒に帰る。

 今日の放課後は新しいクレープ屋さんのオープン日なのでそこへ行く約束をしていたのだ。


「クレープ楽しみだねぇ! アンブさぁ、今日授業中もずっとクレープのこと考えていたでしょう!」


「うん。」


「ふふ、顔みたらすぐに分かったよぉ。まぁ私も一緒だけどねぇ。」


 そう、あのクレープという名のデザートは薄皮生地の中にたくさんの夢と希望と幸せが詰め込まれている。このクレープを初めて教えてくれたのも他でもないヘタレだった。


 しかし、私が言うのもおかしな話だけど、何でこの子は私の気持ちがわかるのだろうか。


――実はエスパーなの? ヤバい人なの? 一種の変態なの? この覗き魔の変人め。


そう思いながらヘタレの顔を見てみると。


「……なんか今、凄く失礼なこと考えてないかなぁ?」


と言われたので、そっと目線を外した。


「あぁ! やっぱりだぁ! 何を考えていたのかなぁ? さぁ薄情するんだよぉ!」


 考えていることまではわからないようで少し安心した。こんな感じで私達はいつもイチャイチャしている。


 因みに私の名前は服部桜夜はっとりさくやであだ名は「アンブ」。

 アンブというあだ名は、ヘタレが付けてくれた。私の影の薄さと、ヘタレにもらった赤くて長いマフラーを靡かせて口元を隠している見た目からヘタレの「暗殺部隊の人みたい」の一言で「アンブ」になった。


 そのあだ名が付いてから、最初は怖がっていた皆が、私という人間はそういう者って認識したことにより、あまり怖がられることが少なくなった。

 特に女の子からは逆にツンデレなマスコットキャラ的な扱いを受けるようになってしまった。それによりこんな私でも孤立することなく学校生活を送れている。


 でも私の実際の性格は、極度の寂しがりやで甘えん坊な構ってちゃんなのはヘタレ以外に誰も知らない。別に隠しているつもりはないけど、誰も私がそんな性格をしているとは思わないだけだ。


 そんな感じで私はヘタレにいくら感謝しても返せないほどの恩がある。なので、ヘタレの為なら何でも力になるし何があっても絶対傍にいると私は誓っている。

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