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第18話 仕組まれた罠

 クマは私に向かって怒りのままに突進してきた。


――じゃあ、行くよ。スマコ。


《はい。我主。いつまでも私はあなたのお傍に……。》


――魔王の力、開放。


 いつも通り忍者のポーズを取り、力の開放を行った。すると、身体の内側から熱く燃え滾るような憎しみが襲ってきた。黒いオーラが全身を纏い、私の姿が変わっていく。漆黒の装束に身を包み、背中には漆黒の翼が生え、黒色だった髪の色が深紅色へと変わった。

 

 もちろん私の変化服にはこんな変身パターンはない。


「心拍体温共に急激上昇……魔力侵食中……思想侵食中……このままでは危険、危険、生体維持……困難侵食対象をAIスマコへ変換……侵食率20%……。」


 スマコが何か言っているが、私は憎しみと憎悪に感情が支配されていき、それどころではなくなってしまった。


――憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


 あのクマのことが…憎くて仕方がない。その憎しみで精神が崩壊してしまいそうになっている。でもギリギリのところで自分の意識を保っている。しかし、それも長くは続かない感じだ。


――早くアイツを倒さな(殺さな)ければ……。


 クマは私の異変に気付き、すぐさま口から炎を吐き出した。私は目の前に魔力障壁を展開させ、それを簡単に弾く。


 クマはそのまま突進してきて、前足を振りかぶり私に向かって叩き付けた。私はそれを右手だけで受け止める。逆に攻撃したクマの方が反動で後ろへ仰け反る。


――この力なら勝てる!


 私は上げていた右手の人差し指に魔力を込め、クマの足に向かって薙ぎ払うように放つ。細く赤い閃光が鞭のようにしなり、クマの左前足を斬り落としてしまった。するとクマは痛みで雄叫びを上げる。その姿に私は歓喜し、顔がにやけているのが自分で分かった。


――楽しいなぁこれ。……あれ? ……楽しい?


 なぜだろう、やっていることはとても非情で不快でしかないはずなのに、私の思いとは正反対に顔は歓喜の表情になっている。


《あ……主……負け……ないでく……ださ……い。》


――スマコ。


 クマは必死に起き上がり私に向けて怒りのままに突進してくる。私はその姿に高笑いした後、空間魔法を発動しクマ周辺の酸素を全て排除した。するとクマは呼吸が出来なくなってしまい、苦しみを露わにもがき苦しんでいる。

 そして、みるみるクマの目からは生気が無くなっていく。私は、また同じように赤い閃光をクマに向けて放ち、今度は右前足を切断する。


 するとクマは痛みで強制的に意識を戻されてしまった。


 しかし、もはやクマには抵抗することも、動くことすらも叶わない状態でありその目からは、絶望と恐怖しか感じることが出来なかった。


 私は自分の圧倒的な力と相手の絶望、痛み、苦しみが嬉しくてたまらない。このままじゃ飲まれてしまう……。


――嫌だよ……。スマコ……。


《……。》


 私は魔法で空間を支配してクマの胴体を持ち上げ、拳を握るようにクマ周辺の空間を圧縮していく。それに並行してクマの身体はどんどん空間に押しつぶされていく。


 やがて私が拳を全て握り絞めると同時に、クマは断末魔を上げて破裂した。


 私は喜びや憎しみや悲しみなどの感情がぐちゃぐちゃに入り交じり、それに呼応するように破壊衝動が沸々と込み上げてくる。


 蹲りながら必死にその感情を抑え込もうとしているところに、ヘタレとマヌケが駆け寄ってきてしまった。そして、私は2人に向かって攻撃する準備をしていた。


――今は来ないで……。


「殺せ。」


――嫌だ。


「殺せ。」


――やめて。


「殺せ。」



「……おっとぉ。おめぇはそろそろ殺しとかねぇとやべぇな。」


 ザシュ。


 私は突然背中から腹部かけて鋭い痛みを感じた。そこに目をやると、とても見覚えのあるギアの剣が私を貫いていた。やがて剣は引き抜かれ、鈍い痛みと血の味が口の中に広がる。私は吐血してそのまま倒れてしまい、地面には大量の血が流れていく。


「お前の役目はもう終わった。ここいらでもう死んどけや。」


「え……? アンブちゃん?! そんな……なんで?!」


 ヘタレは私の元へ駆け寄りすぐに私を抱きしめる。


「あ……あれ? なんで私記憶が……  ア、アンブ? アンブ?! ねぇアンブってば!」


 私を見るそのヘタレの顔は、間違いなく記憶がある時の顔だった。


「そんな……やだよぉ……せっかく会えたのに……アンブ……。」


 私はたぶん、死ぬのだろう。全身の感覚が無くなっていき、痛みや苦痛など何も感じなくなってきた。でも最後に私を知っているヘタレの顔を見ることが出来た。その事だけが凄く嬉しかった。


「アンブ?! そ、そんな……カス! なんてことを! ……ガハッ?!」


「貴様も最早生きる価値はなし。仲良く一緒に死ぬが良い。」


 カスと同様に口調が違うオスの拳がマヌケの腹部へめり込み、倒れ込む。


「マヌケ?!……いやだよぉ……なんで? どうしてなの?!」


「悪りぃな。仲良しごっこはここまでみたいだ。本当はもう少し泳がせておくつもりだったが、そういう状況でも無くなったからな。」


「……に、逃げ……ゴボッ……。」


<お? こいつまだ息があんのか? もういいから死んどけって。>


 ブシュ、ブシュ、ブシュ。

 カスの剣が幾度も私に刺さる。


 やがて私はヘタレの腕の中でピクリとも動かなくなった。


「い、いや…… いやぁああああああああ。」


 ヘタレは泣き叫ぶ。


「お? やっと死んだかぁ。さぁて仕上げだ。」


 ヘタレが泣き叫び続ける中、眩い光がヘタレを飲み込んでいく。


「本当に始まりやがった。あいつなんかの死で覚醒するなんて半信半疑だったがよぉ……。」


 ヘタレは着物のような黄金装束に身を包み、腰には長い剣を携えて背中には綺麗な白い羽根が生えていた。ただ、涙を流したまま魂が抜けた人形のように微動だにしない。


「……。」


「こうなる結果もすべてはお見通しというわけか……。」


「まぁそういうことだな。これで俺らの役目も終りだ。後は「天上界」に連れて行くだけか。」


「そうだな。しかし、ヘタレはこのままの状態で良いのか?」


「いいんじゃねぇか? どうせ精神が崩壊しちまってるんだ。今までのことも全部忘れて本人も幸せだろうよ。人形に感情はいらねぇ。怒りと憎しみさえあればそれで十分だ。あとは天上界へ連れて行けば「あの人」が何とかするだろう。」


「ふむ。では参ろうか。」


「待て、一応これを破壊しておかねぇとな。」


「ふむ、確かに。発信器と盗聴器なんて物騒な物を持っておる。」


「全くだよ。マヌケに止めはささなくていいのか?」


「周りに魔物が湧き出しておるだろう? リミッターが掛かったこいつなど放っておいても何もできん。いずれ食われて死に絶える。」


「まぁ、確かにな。じゃあなマヌケ。短い間のお仲間ごっこ楽しかったぜ。」


 カオスは花びらの機械を破壊し、ヘタレに光の鎖を巻き付けてそのまま引っ張りながらどこかへ消えていった。その間もヘタレはアンブの亡骸を見つめたままだった……。

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