第14話 制作時間30分の偉業
話を終えた私達は、この拠点でしばらく過ごすことにした。ここには魚も木の実もあるし、私が大量に仕入れていたカボチャや3人が村から持ってきていた食材などもあったので、食料には困らなかった。
私の収納魔法に入れておけば腐ることもないし、安心だ。
因みにカボチャは私とマヌケにしか割れなかった。オスは防御タイプだからあれだけど、カスはもの凄く悔しがり剣でずっと斬りまくっていた。
見るに見かねて、私は周りの木を少し切るようにヘタレの後ろに隠れたままスマコに言ってもらった。
「そ、それで強くなれんのか?!」
目を輝かせながらカスが聞いてきたので若干引き気味に頷く。
そしてカスはギアを起動し、木に切りかかる。しかし、木には少し切れ込みが入る程度で完全に切れてはいない。
「こんなのどうやって斬るんだ?!」
と聞かれたので、手本を見せることにした。私はオスが持っていた小さなナイフを借り、忍殺剣の構えを取る。
忍殺剣の剣術は基本的に抜刀術だ。忍者は短い剣を背中に背負い、そこから抜刀する。腰からの抜刀よりも明らかに勢いを増すのが特徴だ。
忍殺剣が1つ、一刀流・鬼雷剣を放つ。
これは神成モード状態で踏み込み、一気に息を吐きしながら斬り付ける忍殺剣の一撃抜刀術である。それにより斬られた木は、時間差でゆっくりと横に倒れた。
「す、すげぇ~! なんでその短いナイフでこの太い木が切れるんだ?! それ教えてくれ!」
グイグイ近寄ってくるカスにビクッとなり、すぐにヘタレの後ろへ隠れる。
「な、なんで俺だけ……。」
――スマコ、頼むよ。
《……はぁ。承知しました。》
スマコはカスにアドバイスをしてくれていた。それを参考に一目散に木を斬り始めた。そして何とか切り倒した木をオスが一箇所に集めていく。
後は放っておく。
ヘタレには木の上でメリドの実を採取してもらっている。木の上は危険なので、あまり気が進まなかったんだけどヘタレは何か少しでも役に立ちたいらしくて、断れなかった。
私とマヌケは、森の中で一際大きな岩が埋まっている場所まで来ていた。私は神成モードでその円形の大きな岩を掘り出しマヌケと一緒に抱えながら皆の元に戻った。
そして、カスが木を切り落とした箇所に岩を半分程埋め、マヌケにギアを発動してもらって岩に水魔法を放ってもらった。
マヌケの水魔法によって、岩の汚れが奇麗に落ちていく。マヌケはルンルンと鼻歌を歌いながら岩を奇麗にしていく。
その姿を見た私は、マヌケの頭をシバいた。
「ふぇっ?! えっ?!」
涙目で何が行ったのかわからないという表情をしている。水はだた放水すればただの水だけど出力を上げれば高圧のウォータージェットになり、更にもっと水の放水口を絞るとウォーターカッターになるのだ。それをスマコに説明してもらい、マヌケにはこの岩を横に真っ二つにしてもらう。
《本当にご自分では何も言ってくれないのですね……。》
スマコが何かボヤいていたけど、気にしない。
もともとセンスが良かったマヌケは、スマコのアドバイスですぐに水の刃を作り上げてしまった。そして、マヌケは見事に岩を真っ二つにした。
それを見たカスが悔しそうにうなだれていたので、少しだけ可哀想だと思った。
横に斬れた岩の中心から、マヌケの高圧の水魔法の力で少しずつ削っていき、大きなお椀型を作ってもらった。そこへ、水魔法で水を溜めその後に火炎魔法で温めた。
そう、これはお風呂だ。多分、こちらにはお風呂の文化がないのだろう。まだ、これが何なのか皆はわかっていない。
マヌケがお湯の中に食材を入れようとしていたので、またシバいておいた。また涙目でうろたえていたが、どうやら大きな鍋にするつもりだったようだ。
《主、説明もしていないのに分かるはずがありません。マヌケ様がかわいそうです。》
――うっ……た、確かに。私が悪いのは認めよう。
「……ごめん。」
「え?! アンブが喋ってくれたぁ!」
私が喋ったことで何故か大喜びしているマヌケ。
そこへ、ヘタレが戻ってきた。
「どうしたの?! この大きなお鍋。」
私はまたお鍋と言われたことに悲しくなり、しょんぼりと座り込んだのだった。
「ア、アンブちゃん?! あれ?! なんか落ち込んでるの?! ごめん! 何がなんだか状況がよく分からないんだけど、とりあえずごめん!」
――いいもん、絶対満足させてやるんだから。
その後、男の子2人もいるので、木で目隠しも作っておいたよ。更にその後、自分たちが安全に休むための木の家を作ろうと考えた。私は前に見た家のリフォーム番組で、家の構造や釘を使わない木材の組み立て方を少し知っていた。
後は神成モードを発動し、カスが大量に切った木を使って素早く作り上げていく。そして、完成しました可愛いログハウス。
所要時間、なんと僅か30分!
――凄いっしょ?!
しかも思った以上の出来栄え。男女で分かれて寝れるように2階建てとなっており、簡易式で木材だけど、窓などもある。大満足だ。
私が黙々と家を作っていたのを傍で見守ってくれていたヘタレ。途中で何を作っているのか理解したのだろう。口がポカーンとなっていた。
――ふう、でもさすがに疲れた。
ログハウスの中でバタンと倒れた私に優しく膝枕をしてくれるヘタレ。
「アンブちゃんは凄いね。あたしなんて何の役にも立たないのに、1人で何でもやれちゃうんだもん。本当に凄いや。」
――そんなことないんだよ。もとの世界では私は何にもできなくて、ヘタレがいつも守ってくれていたの。だから今は私が守る番なんだよ。
私は、「ヘタレが一緒ならそれでいい。」とボソッと言った。するとヘタレはいつもの可愛い笑顔を見せてくれた。
「アンブ、ヘタレ! ご飯出来たから食べようよ。」
「ありがとう! すぐに行くよ!」
マヌケが呼びに来てくれたので、私達はマヌケが作ってくれたご飯を楽しく食べた。
「しかし、家まで作っちゃうなんて本当に凄いねぇ。町の私の家なんかより全然お洒落で可愛いんだけど。」
「確かにな、俺らの家なんか牛小屋と同じだし、立派な家とは言えないもんな。」
「そうだねぇ。僕たちの町はそこまで裕福ではないから、こんな立派な家を持っている人なんてあまりいないもんね。」
――えぇ?! これ30分で作ったんだけど……。
「私この家の形、凄く好きなんだよね。なんかわかんないけど、昔見たことがあるような気がするの。」
私は涙が出そうだった。そう、この家はヘタレと行った新しく出来たクレープ屋さんの形を参考にしていたからだ。
やっぱり、ヘタレの中には以前の記憶がまだ少し眠っている。今はそれが分かっただけで、嬉しかった。
私達は、ご飯を食べた後お待ちかねのお風呂へ行くのだった。
もちろん、男の子は置いてね。