第11話 人間って素晴らしい
もう少しで戦いが起こっている場所だ。
アイレンズのマップ上の立体映像でその戦いを確認しながら移動しているが、4人は追い詰められながらも何とか応戦していた。敵の攻撃を1人が上手くガードし、もう1人がその瞬間に攻撃している。
敵が集まったところで、後ろにいるもう1人が遠距離からの攻撃を行っている。最後の1人は後ろの方で3人に守られているような感じだった。
前の3人は特殊な力を使っているようだ。
――スマコ、この力は何なの?
《魔動力です。この星の力の源でもありそれを身に付けているあの機械で変換し魔法を発動しているようです。》
――へぇ~。そう言えばクズ神も魔法がどうとか言ってたね。あれが魔法なんだねぇ。
私は誰にも気が付かれずに、戦いの場所に到着した。そして、私は後ろの方で守られている人物に目をやった。私と同じ制服を着た可愛い女の子がガタガタと震えていた。あれは……間違いない!
――ヘタレだ!
そう、私の探し人であるヘタレがあの4人の中にいたのだ!ヘタレは凄く弱っているようで、前の3人に守ってもらっていた。
3人のうち2人が男の子で、1人は女の子だった。3人とも同い年くらいだと思う。しかし、3人は凄く不自然な格好をしていた。まぁ制服を着ている私やヘタレも不自然なんだろうけど。
まず女の子は、いかにも魔女っ娘? みたいな、ハットと長いローブを羽織っている。腕や足や背中には機械が取り付けられていて、機械式の魔法の杖みたいな物を持っており、それから炎やら水やら風などの魔法が発動されているようだった。それに背中の機械のおかげなのか、空を飛んでいる。
――凄いなあの子。
男の子の方は、1人がいかにも剣士って感じの格好だ。魔女っ娘と同じように腕や足に機械を付けているけど、魔女っ娘とはまた違った物だ。持っている剣も、これまためっちゃ機械式。足の機械で急加速して敵に近づき、機械仕掛けの剣から青い光を出して斬り付けている。
もう一人の方は、体全体を鎧が覆っており、手にはこれまた機械仕掛けの盾を持っている。敵の攻撃から2人を守りながら、盾を斧に変形させて攻撃もしている。
男子2人が上手く連携し、絶妙なタイミングで魔女っ娘が後ろから援護射撃を行っている。
テレビのアニメを見ているかのような、なんとも不思議な世界観だ。しかもなかなか強い。
でも3人ともかなり疲労している。敵は倒せているんだけど、数が多すぎて押されている。このままではヤバい感じだ。
――スマコ、あのサルみたいな魔物は何? 強い?
《サルマンダーです。素早い動きで炎攻撃を仕掛けてきます。1匹の力は弱いですが、基本集団で行動するので群れに遭遇している今はとても危険な状態と言えます。》
見た目はサルで首元にエリマキトカゲみたいなエリマキがあって、しっぽが燃えている。
――うん、火ザルでいいや。
さてとりあえず、ヘタレがいるのですぐにでも助けたい。見たところ、3人の限界も近いし。どうしようかと考えていたところで、ヘタレが火ザルのしっぽに捕まってしまった。
――おい……私のヘタレに何してんだ?
私は咄嗟に神成モードを全開で纏い、瞬時にヘタレを捕まえている火ザルの前に現れ、龍雷拳で瞬殺した。その怒りのままに近くの火ザル共を立て続けに始末してしまった。
他の3人は何が起きたのか全く分かっておらず、目を丸くしている。先ほどまで絶対絶命の状態だったはずなのに、敵が全て吹き飛んでおり急に不審少女が1人現れた。
――そりゃあ~、困惑するよねぇ。
「だ、誰?!」
ヘタレが私に向かってそう言った。
――え?! 私がわからないの?
ヘタレは私を見ながらビクビク震えていた。
まぁある程度は予想していたことなんだけど、やっぱり実際にそう言われるとかなりショックがでかい。おそらくヘタレは私と同じように体を作り替えられていると思う。何かに利用されるのなら、記憶がそのまま再生されるとも思えなかったのだ。
私が無表情で立ち尽くしていると「あっ、あなたは誰なの?!」と魔女っ娘が聞いてきた。
――え? 日本語?! めっちゃ日本語なんだけど?!
信じられなかった。この世界は同じ人間がいるとも思ってなかったし、ましてや言葉が通じないものだと思い込んでいたからだ。
――良かったぁ~。言葉が通じるっていうのは本当に安心できる。
――えっと……え~っと……
――声ってどうやって出すんだっけ? 駄目だ。ここに来て私の究極の弱点である人見知りが発動してしまった。全く言葉が出てこない。
「……。」
「……。」
「あれ?……えっとぉ、あたし達を助けてくれたの?」
私はコクンと首を縦に振る。
「あっ、ありがとう! 本当に助かったよ。」
「僕たちもうダメかと思っていたんだ。君は命の恩人だよ。」
私は無表情。
「でもそんなに小さいのにあなた凄いんだね! 見たところギアメタルも装備していないようだけど。」
と頭を撫でられた。これは私を完全に年下と見ていやがる。だいたい初対面の同級生からはこれをされるので慣れてはいるんだけど……。
「あたしの名前は599号、そっち(剣を持った子)は608号、そっち(盾を持った子)は609号だよ。それよりあなた、この子と同じ格好をしているという事は知り合いなの?」
私はコクンと首を縦に振る。
「良かった。あたし達もさっき知り合ったばかりなんだけど、この子記憶が無いらしくて困ってたのぉ。ひどく怯えていたからかわいそうだったんだよぉ。」
そっか。何も知らずにこんなところに連れてこられて混乱しているのかもしれない。ヘタレは絶対に私が守る。
――しかし、この子らの名前何で番号?
「ところでなんでこんなところにいるの?」
私は、首を傾げる。
「あなたも勇者候補なの? どこの国の子?」
私は、首を傾げる。
どうやら向こうも混乱している様子だけど、敵ではなさそう。とりあえず同じ人間に会えたのだ。まずはそれでいい。
それよりもさっきの火ザルっぽいのがこちらにまた集まってこようとしているのを私はアイレンズで感知した。私の体力も正直限界がきているし、細ゴリにやられた背中も痛い。スマコの話ではもう神成モードも全力の10%は纏えない。
結構詰んでいる。
ここよりもゆっくりできる拠点に戻るべきだ。私一人ならわけないのだけれど、4人を連れてとなると厳しい。
《収納魔法に収納しますか?》
――人間も収納できるの?
《はい。》
――それ超便利じゃん! それなら安心して拠点まで戻ることができるね! よし!
「ということで、行くよ。」
「えっ?! 何が、ということでなの?! それより喋れるん…。」
「お前、結構かわいい…。」
「え? 二人が消えた?! ていうかまたサルマンダーが…。」
私は3人をポイポイと異空間に放り投げた。
「え?! なになに?! ……怖いよぉ。」
「あなたは絶対私が守るの。」
私はそう言うと、ヘタレの手をしっかりと握り異空間へ入ってもらった。そして素早くその場を後にする。
元の穴に辿り着き、気配を消したまま静かに下る。そのままカボチャ畑やサメの養殖場など、元の道を戻っていく。
そしてなんとか、拠点エリアまで戻ってきた。