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第33話 魔王の力



自らの意志で真の名を名乗った俺の側頭部から、金色の角が生えてくる。漲る力と溢れる魔力、俺は魔王としての力を取り戻した。


本来の力で一振りした腕から生じた衝撃波が、魔軍の先鋒を吹き飛ばす。メンターになってから5年が経ち、自分でも忘れかけていた感覚。これが本来の自分自身とその力だ。


「アムルタートの血だと!? 魔族の貴様がなぜ我らの邪魔をする!!」


魔物の群れを率いる魔界貴族に向かって飛び、神殺しの魔剣を振るう。


「黙って死んでろ。目障りだ。」


受けようとした魔剣を叩き折りながら魔界貴族の首を跳ね飛ばし、親父殿の御名を称えながら詠唱を開始する。……見せてやろう。最強の時空系攻撃魔法、隕石の雨(アステロイドシャワー)を!


召喚された隕石の雨が魔軍の群れに降り注ぎ、魔物達を粉砕する。……市民を巻き込まないように加減はしたが、主力の魔物どもは壊滅出来たな。


「隕石だと!?」 「そんな魔法があったのか!」 「怠惰の魔王(アムルタート)専用魔法じゃ!此奴は本当に空間を操る魔王、その血族じゃぞ!」


物知り気な爺ィ、貴様がこの群れのリーダー格だな?


「さっき名乗ってやっただろうが。アムルタートの息子だと!」


二人の若い魔界貴族が老人に迫る俺を阻もうと立ちはだかる。小賢しく振るってくる魔剣を手にした神殺しの魔剣で軽く跳ね上げ、魔剣も担い手も格違いである事を教えてやった。だが、馬鹿にはどんな教えも無意味、それはメンター稼業をやってわかった事でもある。


「キュバラム老、援護を!」 「我らが総掛かりでなら、倒せないはずはない!」


倒せる訳がないだろう。おまえらは全員、滅んだ魔王の眷族なんだろうが、それは"魔王の力を知らない"という事だ。知っていれば、間違っても挑もうなんて気を起こすはずはない。


「有象無象が吹き上がったとて何ほどの事がある。おい、後ろの爺ィ。援護はどうした? 早くしないと…」


援護を頼まれた老貴族は、既に背を向け、逃亡を開始していた。年寄りだけに、魔王のなんたるかは知っていたらしい。


「コイツらは死ぬ。こんな風にな。」


魔剣で魔剣を叩き折って一人の首を刎ね、もう一人は空いた手で地面に引き倒してから、頭蓋を踏み潰す。死体の影に飛び込んだ俺は、逃げる爺ィの影の中から手を伸ばし、足を掴んで地面に叩きつけてやった。影の跳躍(シャドウリープ)、これもアムルタート系の特殊魔界魔法だ。詠唱なしで使えるのは、俺と親父殿だけだが。


巨人族に匹敵する怪力で石畳に叩きつけられた老貴族は、吐血しながら喚き散らす。


「ヒイィィィ!儂は、儂は魔王様に逆らうつもりはなかったんじゃ!おまえ様は魔王の血族なのに、なぜ人族に肩入れしなさる!」


「答えが聞きたいか?……貴様らみたいなのが、心底気に入らんからだ。」


「……そうかえ。じゃが、"油断大敵"という言葉を知っておるか!」


老貴族の持っていた杖が、毒蛇に姿を変えて襲いかかってくる。不意を打てばどうにかなるとでも思ったか!俺は牙剥く毒蛇ごと、老貴族の胸を魔剣で刺し貫いた。


「コハッ!!」


「次は大道芸人として人界に来い。人気は出そうにないがな。」


石畳に深く突き立った魔剣を引き抜きながら、息絶えた老貴族にアドバイスしてやる。魔界貴族と魔物の主力は潰した。後はサイファー達に任せていいだろう。


「アムル、待って!」


エミリオの声が聞こえたが、俺は振り返らずに、王城へ向かって飛んだ。時間が惜しいのもあるが、エミリオの顔を見るのが……怖かったのだ。


─────────────────


王城の近くでも激戦が繰り広げられていた。千里眼(クレアボイアンス)の魔法で戦況を確認しながら、最大速度で急行する。レイ達と一緒に戦っているのは、フィオだ!高級嗜好の古エルフも、王城近くの宿に部屋を取っていたんだな。だがアイシャの姿がない。……まさか単騎で王城へ乗り込んだのか!


フィオの前には見知った顔の二人連れがいる。確かあの二人は、SS級のコンビだったはず。だったらレイ達は大丈夫だ。俺はこのまま王城に乗り込もう。


高い城壁を飛び越えた俺の目に、王城の中庭で燦めく金髪をなびかせながら、聖剣を振るうアイシャの姿が飛び込んできた。セリス姫を庇いながら、魔界騎士数体と交戦している!


ただでさえ勝ち目が薄い状況なのに、足手まといまでいる。取り囲む魔族達の剣がアイシャの肩を捉え、孤軍奮闘する勇者は、地に伏した。トドメを刺すべく、美しい金髪目がけて振り下ろされようとする黒い剣。鷹の飛翔(ホークフライト)では間に合わない!


「なにィ!?」


「なんとか間に合ったようだな……」


間一髪だったが、影の跳躍が間に合ってくれた。アイシャの影から半身だけ出した俺は、魔剣を魔剣で受け止め、押し戻しながら中庭に立つ。


「……先生……来てくれたんですね……」 「アムル、遅いよ!アイシャが死んじゃうトコだったでしょ!」


妖精騎士の対の者(ダブレット)はご立腹のようだ。だがな、生徒に手を出された先生(メンター)の怒りは、対の者を凌ぐ。ここまで殺意を覚えたのは、生まれて初めてだぞ……


「アムルさん、そのお姿は……」


「話は後だ。セリス姫、チルカと一緒にアイシャの手当てを頼む。」


確か姫は入信者レベルではあるが、アイロアの信者だったはず。簡易(プライマリー)治療(ヒーリング)ぐらいは使えるだろう。


勇者と姫君を背後に庇いながら、魔剣を構えて俺達を包囲する魔界騎士達に、最後通告をしてやる。


「自分達が何をやらかしたか、わかっているな? "俺の生徒に手を出した"んだ。」


「見れば角付きのようだが、魔族の貴様がなぜ人族に味方する?……黄金の角……ま、まさか……」


俺の正体に気付いた騎士の長は、慌てて包囲の輪を広めさせた。まるきりの馬鹿ではないようだ。


「魔王アムルタートはかく語りき。"汝が敵を愛せ。それが真に敵となるべき力と覚悟を備えた者であるならば"……おまえ達には、力も覚悟も不足している。」


親父殿は自分と眷族を魔界に封印した地母神(アイロア)を恨んではいなかった。"敵ながら天晴れ、じゃろう。彼奴(あやつ)の話を真面目に聞いてやればよかったかな? 女神と魔王のみならず、人族と亜人間(デミヒューマン)全てが共存する世界を創りたい、などと抜かしおるから鼻で笑ってしもうたが……"と述懐していた。話し合いが決裂した以上は、強硬手段を取るのが当然。親父殿はそう理解していた。"ダダ甘女神"と揶揄しているが、我が身を犠牲にして封印を施したかの女神に、親父殿は敬意を抱いている。口先ばかりの美徳ではなく、"慈愛と博愛"自らが掲げた理想に殉じてみせたからだ。


「待て!我が主に会って忠誠を誓え。旧魔王の血族ならば、新たな魔王となった我が主も…」


地母神は"共に生きる事が叶わぬならば、別な世界で生きてもらうしかない"と、魔族を魔界に封印した。彼女は正しい。おまえらみたいなのが、いるんだからな!


「新たな魔王?……よかろう。おまえだけは生かしておいてやる。這々の体で主の元へと逃げ帰り、魔王の息子の言葉を伝えよ。親父殿に成り代わって判決を言い渡す、"魔王を僭称した罪で死罪に処する、首を洗って待て"……ちゃんと伝えろよ?」


会話を引き延ばして時間は稼いだ。チルカがアイシャの傷を塞ぐには十分なはず。魔王化しちまうと、俺もいささか凶暴になるからな、覚悟しろ!


「ギャアア!」 「ヒイィィ!」 「……メレクエル様、お許しを……」


怒りに任せて飛び掛かった俺は、哀れな自称魔王の従僕達に血煙を上げさせ、盛大に返り血も浴びる。瞬く間に騎士5人を片付けた俺は、呆然と立つメッセンジャーの前に立ち、無言で両腕を両断した。


「グアァッ!き、貴様ぁ!」


「生かしておいてやるとは言ったが、無傷で帰してやるとは言っていない。腕がなくとも、口があれば伝言役は務められる。……行け、それとも死にたいのか?」


「お、覚えておれ……」


両腕を斬り落とされた魔界騎士は、踵を返して逃げ出した。逃げる背中にたなびくマントに目がけて、位置探査(ロケーション)の魔法がかかった小針を飛ばしておく。これで僭称魔王メレクエルとやらがいる所まで案内してくれるだろう。




親玉を始末する前に、アイシャとセリス姫を安全な場所に避難させないとな。



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[一言] アマル強いですね!
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